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代ゼミの一件は戦略ミスではなく戦略的成功ではないか

代々木ゼミナール(以下代ゼミ)が7割の教室を閉鎖するという発表をおこない話題になっています。

個人的には高校時代、特に夏休み、冬休みの講習でお世話になりました。旺文社のラジオ講座などというものがまだまだ受験生の勉強材料として主流を占めていた頃です。英文法の西尾孝先生とか、数学の寺田文行先生とか、今の東進ゼミナールも真っ青のラジオスター講師を目玉に据えて、マス大衆路線の大学受験予備校として一世を風靡しておりました。

代ゼミは、共に予備校御三家と言われた駿台、河合塾とは明らかに違う戦略をとってきました。駿台、河合塾が東大を頂点とするトップレベル追求型であったのに対して、代ゼミはあくまで私立文系を中心とした受験生ボリュームゾーン狙いのマス大衆路線。ラジオ講座の有名講師を目玉に据えるやり口はまさにそのマス戦略の象徴であり、当時としては的を射たものであったと言えるのです。

しかし、ラジオ講座は95年に文化放送から撤退。99年には細々続いていた短波放送からも姿を消します。この事実は、マス向けの受験対策が受験ビジネスの主流ではなくなったことを意味していたわけです。全国の私立文系志望者をメインとしたマス向け予備校ビジネスで校舎を増やしていった代ゼミが早晩苦境に立たされることは、その時点で誰の目にも明らかであったのではないでしょうか。

なぜなら、少子化による受験生の減少は、駿台、河合塾がウリとするトップレベル受験にはさほど大きな影響は及ぼさないものの、代ゼミがメインターゲットとする私立文系を中心としたマス受験層はパイの減少をもろに受けるからです。少子化の解消が見込むべくもない我が国の状況下において、経営が確実に苦しくなることは10年以上前の段階で気がつかない方がおかしいと思える状況にあったのです。

では代ゼミは、何の手も打たずにここまでノホホンときたボンクラ経営だったのでしょうか。それはおそらく違うでしょう。代ゼミは90年代前半にはすでに、先行きの不安を見通していました。その証拠に新校舎は92年の熊本校以降、開設していないのです。ではなぜ、その後も路線変更をせずにマス大衆受験生路線を貫いてきたのか。

長年の方針に裏打ちされて、一度できあがった予備校のイメージはそう簡単には払しょくできません。いかに代ゼミが業界大手であろうとも、いきなり駿台、河合塾と同じ路線のトップレベル受験生にメインターゲットを変えようとしても、それは不可能に近いことなのです。

そこで代ゼミの経営陣が苦心の末、考え着々と温めてきた戦略が不動産業へのシフトというビジネス転換だったのではないでしょうか。代ゼミの強みは、元本部である代々木校をはじめ、自前で校舎を所有する豊富な不動産資産にあります。現在の校舎ビルを一等地と言う利点を活かすなら、オフィスビルへの転換やあるいはビジネスホテルへの転換は容易にできる優良資産であり、かなり有効活用価値の高いものばかりなのです。

その先鞭ともいえる戦略が、08年完成の新本校新宿代ゼミタワー計画です。その計画で、本校機能をタワーに集約すると共に、代々木の旧本校ビル群の一部は貸会議室化として新たなビジネスに展開し、また一部は11年オープンの小林武史・大沢伸一プロデュースによる複合商業施設「代々木VILLAGE」として有効活用しているのです。

少子化が加速度的に進んできた2000年以降の時代に、なぜマス路線を歩み続け一層の苦境が予想された代ゼミが巨額の投資をしてまでタワー本校を作ったのか。表向きは代ゼミの予備校ビジネスの新シンボル創設と見せながら、裏では確実に不動産ビジネスへのシフトをすすめる布石を打っていた、そう考えるのが自然ではないのでしょうか。突如、ビジネス転換を余儀なくされ苦境に陥り、大量の休校、閉校に追い込まれたかに思える今回の発表ですが、実は90年代から入念に練られた異業種転換劇であったのではないかと見ることができるのです。

一部報道では、少子化時代の到来における同校の戦略的読み違えがあったかのように言われていますが、それは当たらないのではないでしょうか。私はむしろ大量のリストラを余儀なくされるであろうことを除けば、旧本業においては最小限の投資で生きながらえることだけを考え、傍らで新本業となる不動産業に投資を集中させてそのビジネスの基本を着実に作り上げた、業種転換戦略の成功事例として評価できるのではないかと思っています。

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