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AERA大特集「男がつらい!」と「イクメン病」

ちょっと前にはNHKクローズアップ現代が「男はつらいよ 2014」と題して、似たような主旨の特集を組んでいた(私もちょっとだけ出演させてもらった)けれど、AERAの特集も、今までありそうでなかった、完全に男性の立場に立った珍しい特集。

イクメンとして名が通っている人たちがいうから説得力があるのであって、普通の人が言ったら「また男は甘えたことを言う」と一蹴されていたかもしれない、きわどい本音もあって、面白かった。

今年内閣府が発表した男女共同参画白書が男性に焦点を当てていたことを受けての流れだと思うが、ようやくそういう時代になってきたのだろうか。イクメンという言葉が知れ渡る前から心理カウンセラーとして、パパたちの相談に乗ってきた立場からすると、感慨深いものがある。男性がつらさを吐露できるところは少なかったから。

AERAのツイッターには、「男のつらさは女のつらさと表裏一体」とあった。その通り。男性と女性が、どっちが大変か競争をするのでもなく、我慢大会をするのでもなく、お互いにねぎらい合い、思いやり合うべきだ。男性にも女性にも読んでほしい保存版企画だと思う。

仕事と家事の両立で心身共に追い詰められるパパというのは、私が運営する「パパの悩み相談横丁」にも多い。私はそれをイクメンであろうとがんばりすぎるために生じる「イクメン病」として、拙著『忙しいビジネスマンのための3分間育児』で紹介した。もちろんワーキングマザーたちだって同じ大変さを味わっているのであって、男だから、女だからということではない。とかくこの世は、家のことと仕事を両立しにくい世の中であるということだ。

特集の中で1点だけ、個人的に違和感というか「危険だな」とを感じたのは、「(男性の意識を変えるために)短期的にはインセンティブ誘導も必要」というロジックが出てきたところ。

記事の中ではインセンティブの内容についてはあまり具体的には書かれていなかったが、「育児や家事をすると仕事にもいいことがある」みたいな、結局仕事に帰結する功利的動機付けを持ち出すのは危険だと思う。

もともと家事や育児に意欲的な男性の背中を後押しするためにそういうことを言ってあげるのならいいと思うが、1からの動機付けとしては危険だ。

最終的に仕事の成果になるという意識を最終目標としておいてしまうと、結局いつまでたっても「仕事>家庭」という潜在意識から抜け出せない。AERAの記事の中にもあるように、まさに「無意識の意識がつくり出している現実がある」のだ。だからますますイクメン病が増える。

イクメン病だと思われる人をカウンセリングするときには、本人的には「仕事も家庭も大事」と意識しつつも、潜在意識の中ではやはり「仕事>家庭」となってしまっていることに気づいてもらわなければいけないのだ。

たとえば「仕事と家庭を両立したいから、仕事を早く終えて早く家に帰ろう」というやつ。これって、実は「仕事>家庭」という潜在意識の表れであることがわかるだろうか。「仕事を終えなければ帰れない」という厳然たる前提が、潜在意識の中に横たわっているのだ。

多くのワーキングマザーは、時間が来たら、キリが悪かろうがなんだろうが、PCをパタッと閉じて、保育園のお迎えに行くのだ。仕事上のタスクと家庭のタスクに、同等の優先順位が置かれているからそうできるのだ。そうしないと本当の意味での両立はできないと私は考えている。

さらに、そうこうしているうちに、景気が良くなったりすると、もっと効率的に仕事の成果に直結する手段が表れて、それに負けてしまう可能性がある。たとえばバブル時代みたいに、お客さんと飲みに行けばそれだけで売り上げが伸びるみたいな状況になったら、男たちは飲み会を優先するライフスタイルに逆戻りしてしまうのではないか。

育児や家事が仕事にもプラスになることは実際はそうなのだが、それはあくまでも結果でしかないと私は思う。「いい学校やいい会社に入るために勉強する」のではなく、「勉強した結果、いい学校に入れたり、いい会社には入れたりする」というのと同じだ。

「少子化対策のために男性も育児・家事をしよう」というロジックも似たようなものだ。少子化対策が目的で、育児・家事が手段であるという構図になってしまう。出産や育児が、個人の自由意志によるものではなく、社会維持のための手段として貶められてしまう。そのような社会は、私は怖いと感じる。少子化対策のために生まれてくる子どもなど一人もいないはずだ。

「少子化を止めるにはどうしたらいいか」とか「仕事と家庭を両立させるためにはどうしたらいいか」などという命題を与えられると、つい、最短距離で解決しようとしてしまうのが男性的な思考の特徴だ(傾向として。そして大概の場合、それは女性たちから大変ウケが悪い)。

でも、人間は理路整然と間違える生き物だ。そして、目的と手段が入れ替わってしまったときに、そういう間違いは起こりやすい。だから、さきほどのようなインセンティブ誘導的なロジックの使用には特に注意が必要なのだ。

じゃ、どうすればいいのか。

今のままの社会環境で、夫婦が二人ともフルタイムワーカーで、仕事と育児・家事の両立は無理ゲーだということを堂々と言いやすいムードをつくっていくことだと私は思う。「もっと仕事を効率化すれば、時間はできる」みたいなことをいうのをやめることだ。部下に子どもができたと聞いたとき、上司としては、「これからはますます仕事も育児もがんばらなきゃな」ではなく、「まずは無理するな。焦らず気張らず、できることからやっていけ。なんとかなる」と言ってやるべきだと私は思う。

その認知を広げる下地づくりという意味で、今回のこの特集はとても良かったと思う。

※ここではあくまで自分の意見を述べましたが、いろいろなアプローチを考える人がいてこそ、世の中の多様性とバランスが保たれると思うので、その他の意見を否定するつもりは毛頭ありません。1つのイシューについて、安易に一つの意見にまとまらず、いろいろな意見があることは素晴らしいことだと思います。

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