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元自衛隊参謀が警告する尖閣激突シミュレーション

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※本シリーズは、8月27日発売の「文藝春秋SPECIAL 2014秋」との共同企画です。本誌掲載記事の一部を4週にわたって配信いたします。(BLOGOS編集部)
<テーマ:東アジアは世界の火薬庫>

もはやバトルは始まっている。中国の仕掛ける「超限戦」とは?


元陸将、西部方面総監部幕僚長 福山隆

 尖閣諸島は言うまでもなく日本の固有領土です。同時に米中の覇権争いが衝突する最もホットな地点でもあり、近年、その緊張度は格段に増しています。私は2003年に陸上自衛隊の西部方面総監部幕僚長となり、尖閣上空を周回した経験もありますが、その頃と比較しても状況の激変を痛感せずにはいられません。後に詳しく述べますが、私の考えでは、中国の尖閣に対する"バトル"はもうすでに始まっているのです。

 尖閣をはじめとする南西諸島を、日本がいかに守るかを考える上でまず重要なのは、尖閣諸島が日本のみならず、中国、アメリカにとってどのような意味を持っているかを冷静かつ正確に分析することです。

 現在、中国の海洋戦略の柱となっているのは、いわゆる「近海防御戦略」です。この戦略の要諦は「接近阻止」、「領域拒否」にあります。

 接近阻止とは、九州を起点に、日本の南西諸島、すなわち沖縄、先島諸島、尖閣諸島、台湾、フィリピン、ボルネオ島を結んで「第一列島線」とし、そこから中国内の海域(黄海、東シナ海、南シナ海)への米軍による接近、侵入を阻止する戦略です。つまり最終的には、沖縄をはじめとする日本の米軍基地を排除するのが、中国の基本的な戦略なのです。

中国が設定する第一・第二列島線写真拡大
 次に、「第二列島線」として、伊豆諸島、小笠原諸島、グァム、サイパン、ニューギニア島のラインを設定。この第二列島線と第一列島線の間の「領域」で、米軍の自由な海洋の使用および作戦行動を拒否する。これが「領域拒否」です。

 もちろんこれはアメリカの東アジア戦略と正面からぶつかります。そこで2013年、米国防総省が中国の接近阻止・領域拒否戦略に対抗するための戦略として発表したのが、陸・海・空・海兵などの戦力を組み合わせて運用する「エアシーバトル構想」でした。

 その基本的なシナリオは、ステルス戦闘機が第二列島線、第一列島線を越えて中国の攻撃目標(艦船、潜水艦等)を捕捉、トマホーク巡航ミサイルによって撃破、というものですが、そこで日本はアジアにおける「キーストーン」(要石)として位置づけられています。

 一方、中国からみると、日本が日米安保条約によって米国と同盟関係を堅持する限りは、たとえ中国軍が太平洋に進出できたとしても、常にその脇腹と背中を脅かされ、不安定な状態となります。つまり米中にとって、日本は、日本人が考えている以上に戦略的価値が高いのです。それだけに、日本列島と尖閣、沖縄などの南西諸島は、米中戦略のぶつかる「火薬庫」となりうるわけです。

尖閣侵攻三つのシナリオ

 では、中国は尖閣で何を仕掛けてくるのか。そして、日本はそれにどう対処したらよいのか。それを探り、検証するためには、私は指揮所演習の手法がきわめて有効だと考えます。

 指揮所演習とは、図上において想定したシナリオに従い、敵と味方の作戦計画に基づき、彼我の部隊などをコマに置き換えて、時間の進行に従い戦闘の様子を再現する、いわゆる有事シミュレーションです。その展開の様子を克明に記録・検証して、作戦計画の有利な点や、問題点、対策などを明らかにするのです。

 ここでは、その考え方、進め方のアウトラインを紹介しましょう。尖閣有事の場合、大きく分けて三つの基本的なシナリオが想定できます。

 A 大規模軍事侵攻。たとえばフォークランド紛争のように、中国が大々的に軍事力を使用して、尖閣諸島を占領にかかる。烈度が最も高い。
 B 特殊部隊の隠密上陸。潜水艦により尖閣諸島近くまで潜航した後、ボートなどを利用して、隠密のうちに上陸侵攻を行う。上陸に際して戦闘が生起する可能性は低いが、その後の攻防戦において武力行使が予想される。烈度は中位。
 C 漁民、工作員などの上陸。徴用した漁船に漁民あるいは扮装した工作員を乗船させ、上陸。中国国旗の掲揚などを行うことで、中国領有を既成事実化しようとする。武装していないため烈度は低い。
 まず、Aの大規模軍事侵攻は、最も起こりにくいケースです。そもそも中国にとって尖閣諸島そのものを領有するメリットはそれほど大きくありません。たとえば尖閣を領有して軍事的なプラットフォーム(戦略拠点)を築こうにも、沖縄の嘉手納米軍基地が近過ぎる。米軍からのミサイル一撃で、すべて吹き飛んでしまうでしょう。

 また、今、中国軍が尖閣に攻め込んだとしたら、米軍がただちにエアシーバトル構想を発動させることになり、一気に米中戦争へとエスカレートする危険性が高い。現段階では、米中の軍事力には圧倒的な差があります。東シナ海、南シナ海に潜航している米原潜からSLBMを撃ち込まれたら、中国の基地、主要都市はただちに壊滅的な打撃を受けてしまいます。その意味では、現時点で、中国が尖閣の領有を目指して、ただちに大規模な軍事侵攻を行う可能性は低い。

 むしろ中国にとって尖閣が重要なターゲットであるのは、日本、そしてアメリカに政治的な揺さぶりをかける「道具」としての利用価値が高いからだ、というのが私の考えです。そのために、中国は正面きっての軍事侵攻以外のあらゆる手段を使い、それによって、日本よりもアメリカがどう出るか、どのような反応を示すか、ホワイトハウス、ペンタゴンの動きを注視しているのです。あわよくば日本の暴発を引き出し、アメリカが関与しにくい状況を作り出すこと、それによって日米間に不信を増幅させ、同盟に亀裂を生じさせることが、中国の真の狙いなのです。

「超限戦」は始まっている

 こうした中国の揺さぶり戦略をみるとき、重大な鍵となるのが「超限戦」という考え方です。

「超限戦」は、1999年、中国軍現役大佐の喬良と王湘穂によって提示された戦略です。彼らは、21世紀の戦争では、「あらゆるものが戦争の手段となり、あらゆる領域が戦場になりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事、軍人と非軍人という境界がなくなる」として、それを限定・限界を超えた「超限戦」と名づけました。そこでは、「倫理基準を超え、タブーを脱し」「すべての手段を用いて、自分の利益を敵に強制的に受け入れさせること」が目標だとされ、「戦い方」として、通常戦のほかに、国家テロ、諜報、外交、さらには金融やメディア、法律や世論工作、心理戦などが挙げられています。これは従来の戦争法規や倫理などへの否定であり、「ルール無用何でもあり」という宣言でもあるのです。

 この超限戦の主要な原則として、〈全方向度(戦争と関連ある要素を全面的に考慮し、動員できるすべての戦争資源を組み合わせる)/リアルタイム性(同一時間帯に異なる空間で、バラバラだが秩序をもって作戦する)/非均衡(相手が全く予測できない領域と戦線を選び、いつも相手に大きな心理的動揺をもたらす部位に打撃を加える)/最小の消費(目標を実現するに足る最低限度の戦争資源を合理的に使う)/全過程のコントロール(戦争の開始、進行、収束の全過程で絶えず情報を収集し、行動を修正・調整、常に情勢をコントロールする)〉などが挙げられていますが、私がこの「超限戦」に着目するのは、まさに尖閣において中国がこれまで仕掛けてきた挑発の多くが、これらの原則にぴたりと合致するからです。

 たとえば、2010年9月に起きた尖閣諸島中国漁船衝突事件のケースを検証してみましょう。

・共産党独裁政権の強力なコントロールのもと、軍事力、諜報機関、政治(日中会談の延期など)、メディア・広報、官製デモ、ネット、国連での発言、経済制裁(レアアース禁輸、修学旅行など渡航禁止、入管手続き遅延)、歴史観の刷りこみ等々、動員できるすべての戦争資源を組み合わせていた。
・中国人船長の勾留延長が決まった直後、中国は河北省内でフジタの社員四名を拘束し、予測できない戦線を作り出した。
・目標である船長の早期無条件釈放を達成した後は、日本政府を深追いせず、事態の収拾にシフトした。またレアアース禁輸などの最低限度の手段に留めた。
 こうした「戦い方」は、その後の中国による様々な挑発ーEEZ内への潜水艦の無断通過、自衛隊の艦船などに対するレーダー照射、防空識別圏の一方的な主張、自衛隊機への異常接近などーにも共通しています。冒頭で、「すでにバトルは始まっている」と述べたのはこうした事態を踏まえてのことなのです。

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