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ニュートロンヒライになれるのか?

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20世紀のもっとも偉大なリーダーとされているGEの元CEOジャック・ウェルチが、ニュートロン(中性子爆弾)ジャックと呼ばれていたことをご存知だろうか。このところのソニーの発表や報道をみて思い出した。
製造業のイノベーション戦略を技術とドメインという軸で表したものを、イノベーションのマトリックスとして以前の記事で紹介した。これはアンゾフがその成長マトリックスの多角化について、さらに水平型、垂直型、集中型、修正型の4つに分類していることに注目して考えたものだ。
①はアンゾフが水平型の多角化と呼んでいるものに近い。すでに獲得している経営資源やバリューネットワークの多くを活用してプロダクトのイノベーションを行う。写真というドメインにおいてカメラメーカーが新しいデジタル技術を導入し、フィルムカメラからデジタルカメラへのプロダクトイノベーションに成功した事例がある。

②は自社の既存の製品や保有技術に関連した新しい製品によって、別のドメインに参入するというアンゾフの集中型多角化だ。Appleが自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連したiPodという製品によって音楽という新しいドメインに参入したケースがあてはまる。

自社にない新しい技術を獲得して新しいドメインへ参入する、いわゆるコングロマリット化戦略は経営のより上位レベルでM&Aや企業合併などのオプションを含めて検討されるものであり、上記の2つのイノベーション戦略と同じ次元で考えられるものではない。
(以前の記事より)
企業経営におけるコングロマリット化戦略には賛否両論がある。企業の成長戦略あるいは市場や消費者行動の変化への耐性強化として多角化という選択肢があるが、現業との関連性が薄い事業分野への多角化は、経営資源の分散による経営コストの上昇や企業イメージの希薄化を招くというデメリットもある。すべての戦略に言えることだが、コングロマリット化戦略自体が良いか悪いかではなく、その戦略の進め方やその企業の体質、そして置かれた状況との相性などで成否がわかれる。

ジャック・ウェルチによるGEのコングロマリット化は、多角化による企業規模の拡大を目指すというのではなく、同時に絶え間ない「選択と集中」を行ったことに意義があった。会長に就任するなり、その市場においてNo.1かNo.2になれない事業は売却・閉鎖によって切り離すという方針を打ち出し実行した。競合他社に主導権を握られたお荷物事業を売却し、その売却益を収益に計上するのではなく競争力のある将来的にも成長が見込める事業の競争力強化に投下する。これは会社全体が落ち目になってからではできない。赤字幅を少しでも縮小して、株主の批判と決算を乗り越えなければならないからだ。そして落ち目になってからのリストラクチャリングは外で活躍できる能力をもった優秀な人材から流出していくという結果を招く。

ジャック・ウェルチが会長に就任した1981年には、GEは250億ドルの売り上げと15億ドルの利益を出し40万人の社員を抱えていた。普通の経営者なら、少しでも利益を出している事業から利益を絞り出そうとする。しかし、ジャック・ウェルチは大型タンカーのように巨大化したGEの危うさに気付いていた。大型のタンカーは舵を切ってから実際に船が方向を変えるまでに非常に時間がかかってしまう。市場や顧客の消費行動の変化に気付いてから舵を切ったのでは遅すぎるのだ。ジャック・ウェルチはエアコン事業、炭坑事業、小型家電事業などを次々と売却し、85年までに社員数も30万人までに削減した。85年のRCAの買収をきっかけに、さらにダイナミックに大型の企業買収と売却を繰り返しGEの伝説的な成長が始まる。このあたりはジャック・ウェルチの自叙伝「我が経営」が詳しい。

ニュートロンジャックというあまり聞こえの良くないあだ名は、中性子爆弾が落ちた後は建物は残るが人は残らないという皮肉からきている。GEという企業は残るが不採算な事業とそれに携わる人は残らない。それまでの米国の大企業における終身雇用という経営者と従業員の暗黙の了解はGEによって破られたとされている。企業が破綻してしまえば終身雇用という幻想も破綻する。落ち目になり切羽詰まってからのリストラは、企業に見切りを付けた優秀な人材を失う結果になる。

ジャック・ウェルチは新たな人事評価のシステムを導入した。しかし、システムはあくまでも道具であって、それを運用し実際に評価をするのは人間だ。新しい評価システムを有効にするには、幹部や従業員の意識を徹底的に改革し企業自体の文化を変える必要がある。会社が傾いてからの導入は、コストダウンだけのためだと受け取られてもしょうがない。役員や幹部がのほほんとしていて、一般の社員だけが厳しい評価がなされるようでは期待と逆の結果を生む。GEのような人事評価システムは米国でいくつか開発され、それがコンサルタントによっていくつか日本の企業にも導入されたが、それが成功したという事例を知らない。米国式のシステムをそのまま導入するのではなく、終身雇用を当然と考えている従業員の意識改革の方法や日本独自の企業文化を変えるためのカスタマイズが必要だろう。

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