記事
- 2014年08月18日 20:50
厚生年金の強制加入はアベノミクスと景気の足を引っ張るんじゃない?
さて、政府は厚生年金に加入していない企業(ほとんどが中小零細企業)に強制的に加入させることにを決めました。
本来法人は社長一人でも厚生年金に加入する義務があるのですが、これまで強制することなく来ました。かつては無理やり強制したら倒産する零細企業が多かったというのもその理由だそうです。
で、現在約80万社ほどの企業が厚生年金に無加入だそうです。本来厚生年金に加入すべきなのに、加入できていない会社員は数百万人になるらしいです。
今度は加入しないと差し押さえなど強制的な措置を行うそうです。
厚生年金、加入逃れ阻止
政府、納税情報で特定 中小など80万社指導へ
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDF03H09_T00C14A7MM8000/
年金の未加入、実は多くの企業が入っていない?
http://blogos.com/article/92387/
現在厚生年金で国民年金を補填しているわけですが、政府の思惑はその補填のカネを民間から絞りとれ、というわけです。であれば、国庫の負担も減るだろうというわけです。
中小零細企業に全く興味が無い日経のようなメディアは報じていませんが、これを実行すると景気が更に悪くなる可能性があります。
確かに国民年金よりも厚生年金の方が手取りは増えるし、まあ決まっていることは守ろうよ、というのは確かに正論です。全額返ってこないにしても、従業員にしてみれば受け取れる年金の総額は増えるし、また国民年金では遺族年金もありませんから、福利厚生という面では加入は望ましいことは言うまでもありません。
ですが実際には色々と剣呑な問題があります。
まず、我々よりも若い世代は厚生年金を払っても、損だということが明確になっています。何しろ現状でも国民年金の穴埋めに使用されており、また将来年金加入者が減ることも明白です。
つまり、雇用主にしろ従業員にしろ取られ損だということが分かっています。
それならば従業員が負担する国民年金と厚生年金の差額を払うならば、直接賃金と払ったほうがいいじゃないでしょうか、というのが多くの経営者と従業員の本音じゃないでしょうか。
従業員の給料の天引は増えます。これは実質税金ですから、増税と捉えられます。年金として払われるのは払った金額よりも少なくなるでしょうから、非常に損をした気になります。そこで、増税だ、所得が減ったから派手に消費を増やそうという人はいるでしょうか。
日本の企業の96・4パーセントは中小零細企業です。
社員の全員が役員で、従業員はゼロだったりする同族企業も少なありません。
従業員の負担は半分で、後の半分は会社負担ですが経営者にとっては自己負担も、会社負担も同じようなものです。これが日産のゴーン社長などなら負担は感じないでしょうが、中小零細企業の経営者にとって負担感は従業員の実質二倍です。
その分税金が増えるようなもので、実質増税です。
また当然ながら従業員の年金の負担もコストとして増えます。
対策としては役員、従業員の給料を下げることがありますが、それでも実質手取りの減少と、会社の利益が減少することにはかわりがありません。
仮に1千万円の年収の社長さんが新たに厚生年金に加入すると年間会社個人合わせて約30万円の負担増となります。
数百万人の厚生年金未加入者の内、社長・役員の重税感はかなりのものになるでしょう。当然ながら彼らが消費を増やすとは考えられません。
社員を減らし、アルバイトも厚生年金加入をしなくともいい、月30時間以下のパートだけにれば、厚生年金の会社負担は減らすことができるでしょう。となれば、正社員やフルタイムのパート、アルバイトを減らす傾向が出てくるでしょう。つまりフルタイムの仕事が減る可能性もあります。これまた労働者の所得減になります。
つまり厚生年金に新たに加入させられる数百万人は消費を引き締める可能性が極めて強いといえます。
まあアベノミクスの信奉者は、円高によって、仕入れ、材料費、エネルギーなどコストがあがると、消費が増えて景気がよくなるという理屈を信じているようですから、彼らは実質増税、コスト増ならば景気が益々よくなると強弁するかしれません。
ですが、経済活動の現場にいる人間であれば、そんなことは信じないでしょう。
もう一つの問題はこれまで厚生年金に入らないことを前提の中小零細企業は、黒字であっても負担増で赤字になる可能性があります。であれば金融機関はお金を貸してくれなくなります。
経営者は自分の給料を下げて対処するでしょうが、これによって資金がショートして倒産する企業も出てくるでしょう。また給料を下げるわけですから当然この意味でも個人消費を引き締めるでしょう。
そんなブラック企業は潰れて当然だ、という人いるでしょう。ですが余裕のないカツカツの中小零細企業は多いものです。
そういう企業がバタバタ潰れれば従業員は失業保険を給付しなければなりません。経営者は失業保険を貰えないからもっと悲惨です。
これまた個人消費に影響を与えるでしょう。
問題の根源は年金システムが崩壊の危機にあることです。その再構築です。
厚生年金強制加入は一時しのぎの弥縫策に過ぎません。
厚生年金加入は決まり事ですから加入するのは当然です。ですがこれまで政府はそれを放置してきました。罰則もありませんから、加盟しなくてよい、と考えてきた経営者も少なくないでしょう。また入りたくても入れない経営者も決して少なくないでしょう。
政府の年金に対する無策の弥縫策として、早急な厚生年金加入の強制は多くの混乱と個人消費の減少を招く可能性があります。
強制加入するにしても、やり方やリードタイムの取り方をよく考えた方がよかったのではいでしょうか。安倍首相がオウンゴールを望むのであれば別ですが。
日経あたりではアベノミクスは大成功という「大本営発表」を垂れ流しておりますが、現場の中小零細企業の実態は厳しいところが少なくありません。
アベノミクスの円安誘導によって、仕入原価、電気代、燃料代、運賃などの経費が上がり、賃金を上げるのはとても、いう状態で人手不足で人件費が上がって必要な人間を雇えないというようなことまで起こっています。
そこに実質増税の厚生年金加入強制ですから、潰れる会社もでてくるでしょう。
果たして政府は中小零細企業の実態をどこまで把握しているのでしょうか。
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
フジテレビ、愛国報道の「異様な光景」
ジャパンエキスポは排他的なイベントではない
http://toyokeizai.net/articles/-/45401?page=2
コマツが防衛事業から撤退すべき5つの理由
取り組み姿勢が、キャタピラーとは対照的
http://toyokeizai.net/articles/-/45208
英航空ショー出展、中小企業「匠の技」とは?
盛んな商談、航空機ビジネスに食いこむ好機に
http://toyokeizai.net/articles/-/44434
新しい防衛航空宇宙専門サイトを始めました。
「東京防衛航空宇宙時評・Tokyo Defence & Aerospace Review」
http://www.tokyo-dar.com/
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で、現在約80万社ほどの企業が厚生年金に無加入だそうです。本来厚生年金に加入すべきなのに、加入できていない会社員は数百万人になるらしいです。
今度は加入しないと差し押さえなど強制的な措置を行うそうです。
厚生年金、加入逃れ阻止
政府、納税情報で特定 中小など80万社指導へ
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDF03H09_T00C14A7MM8000/
年金の未加入、実は多くの企業が入っていない?
http://blogos.com/article/92387/
現在厚生年金で国民年金を補填しているわけですが、政府の思惑はその補填のカネを民間から絞りとれ、というわけです。であれば、国庫の負担も減るだろうというわけです。
中小零細企業に全く興味が無い日経のようなメディアは報じていませんが、これを実行すると景気が更に悪くなる可能性があります。
確かに国民年金よりも厚生年金の方が手取りは増えるし、まあ決まっていることは守ろうよ、というのは確かに正論です。全額返ってこないにしても、従業員にしてみれば受け取れる年金の総額は増えるし、また国民年金では遺族年金もありませんから、福利厚生という面では加入は望ましいことは言うまでもありません。
ですが実際には色々と剣呑な問題があります。
まず、我々よりも若い世代は厚生年金を払っても、損だということが明確になっています。何しろ現状でも国民年金の穴埋めに使用されており、また将来年金加入者が減ることも明白です。
つまり、雇用主にしろ従業員にしろ取られ損だということが分かっています。
それならば従業員が負担する国民年金と厚生年金の差額を払うならば、直接賃金と払ったほうがいいじゃないでしょうか、というのが多くの経営者と従業員の本音じゃないでしょうか。
従業員の給料の天引は増えます。これは実質税金ですから、増税と捉えられます。年金として払われるのは払った金額よりも少なくなるでしょうから、非常に損をした気になります。そこで、増税だ、所得が減ったから派手に消費を増やそうという人はいるでしょうか。
日本の企業の96・4パーセントは中小零細企業です。
社員の全員が役員で、従業員はゼロだったりする同族企業も少なありません。
従業員の負担は半分で、後の半分は会社負担ですが経営者にとっては自己負担も、会社負担も同じようなものです。これが日産のゴーン社長などなら負担は感じないでしょうが、中小零細企業の経営者にとって負担感は従業員の実質二倍です。
その分税金が増えるようなもので、実質増税です。
また当然ながら従業員の年金の負担もコストとして増えます。
対策としては役員、従業員の給料を下げることがありますが、それでも実質手取りの減少と、会社の利益が減少することにはかわりがありません。
仮に1千万円の年収の社長さんが新たに厚生年金に加入すると年間会社個人合わせて約30万円の負担増となります。
数百万人の厚生年金未加入者の内、社長・役員の重税感はかなりのものになるでしょう。当然ながら彼らが消費を増やすとは考えられません。
社員を減らし、アルバイトも厚生年金加入をしなくともいい、月30時間以下のパートだけにれば、厚生年金の会社負担は減らすことができるでしょう。となれば、正社員やフルタイムのパート、アルバイトを減らす傾向が出てくるでしょう。つまりフルタイムの仕事が減る可能性もあります。これまた労働者の所得減になります。
つまり厚生年金に新たに加入させられる数百万人は消費を引き締める可能性が極めて強いといえます。
まあアベノミクスの信奉者は、円高によって、仕入れ、材料費、エネルギーなどコストがあがると、消費が増えて景気がよくなるという理屈を信じているようですから、彼らは実質増税、コスト増ならば景気が益々よくなると強弁するかしれません。
ですが、経済活動の現場にいる人間であれば、そんなことは信じないでしょう。
もう一つの問題はこれまで厚生年金に入らないことを前提の中小零細企業は、黒字であっても負担増で赤字になる可能性があります。であれば金融機関はお金を貸してくれなくなります。
経営者は自分の給料を下げて対処するでしょうが、これによって資金がショートして倒産する企業も出てくるでしょう。また給料を下げるわけですから当然この意味でも個人消費を引き締めるでしょう。
そんなブラック企業は潰れて当然だ、という人いるでしょう。ですが余裕のないカツカツの中小零細企業は多いものです。
そういう企業がバタバタ潰れれば従業員は失業保険を給付しなければなりません。経営者は失業保険を貰えないからもっと悲惨です。
これまた個人消費に影響を与えるでしょう。
問題の根源は年金システムが崩壊の危機にあることです。その再構築です。
厚生年金強制加入は一時しのぎの弥縫策に過ぎません。
厚生年金加入は決まり事ですから加入するのは当然です。ですがこれまで政府はそれを放置してきました。罰則もありませんから、加盟しなくてよい、と考えてきた経営者も少なくないでしょう。また入りたくても入れない経営者も決して少なくないでしょう。
政府の年金に対する無策の弥縫策として、早急な厚生年金加入の強制は多くの混乱と個人消費の減少を招く可能性があります。
強制加入するにしても、やり方やリードタイムの取り方をよく考えた方がよかったのではいでしょうか。安倍首相がオウンゴールを望むのであれば別ですが。
日経あたりではアベノミクスは大成功という「大本営発表」を垂れ流しておりますが、現場の中小零細企業の実態は厳しいところが少なくありません。
アベノミクスの円安誘導によって、仕入原価、電気代、燃料代、運賃などの経費が上がり、賃金を上げるのはとても、いう状態で人手不足で人件費が上がって必要な人間を雇えないというようなことまで起こっています。
そこに実質増税の厚生年金加入強制ですから、潰れる会社もでてくるでしょう。
果たして政府は中小零細企業の実態をどこまで把握しているのでしょうか。
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
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盛んな商談、航空機ビジネスに食いこむ好機に
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