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【読書感想】誰も戦争を教えてくれなかった

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 この本の冒頭で、若者たちの間で戦争体験が風化していると書いた。しかし若者に限らず日本人は、実はそもそも戦争についてあまり興味のない可能性がある。

 2000年にNHKが実施した嫌らしい世論調査がある。16歳以上の男女にアジア・太平洋戦争において「最も長く戦った相手国」「同盟関係にあった国」「真珠湾攻撃を行った日」「終戦を迎えた日」がいつかを答えてもらったのだ。

 結果、1959年生まれ以降の「戦無派」では69%が「最も長く戦った国」を知らず、53%が「同盟関係にあった国」を知らず、78%が「真珠湾攻撃を行った日」を知らず、「終戦を迎えた日」を知らない人も16%いた。全問正解した人はわずか10%だった。

 ここまではまあいいだろう。「戦争を知らない若者(と中年)ということで理解可能だ。しかし1939年から1958年に生まれた「戦後派」、それ以前に生まれた「戦中・戦前派」でも決して正答率は高くなかった。たとえば「最も長く戦った相手国」を知らない「戦中・戦前派」は57%、「真珠湾攻撃の日」を知らない「戦後派」は65%。

 実は序章で「広島に原爆が落とされた日を知っている若者はたった25%」と書いたが、全年齢平均でも数値は27%。長崎原爆の日にいたっては、若年層のほうが正解率が高く、60代以上は19%しか正解していない。

 若者だけじゃなくて、僕たちはみんな戦争に興味がなかったのである。

「日本が戦争をしたことを知らない若者たち」が糾弾されがちですが、それを責めている側も「オレだって、聞かれたら答えられないけどね」って内心ドキドキしている、というのが現実なのです。

「死に損ない」なんて言うヤツはどうしようもないとしても、35年前から、「(そういうことは口に出すべきではないんだろうけど)こういう聞いていて辛くなる、暗い話を聞かされるのはイヤだなあ」という雰囲気は、当時の「若者」にもあったんですよね。


この本を読んでいると、「戦争」に対して、国によってかなり異なるアプローチのプレゼンテーションが行われていることがわかります。

 アウシュビッツを訪れて感じるのは「残す」ということに対する熱心さだ。ちょうど僕が訪れた時も、いくつかの建物が修復工事中だった。ここでは芝生や樹木を含めて、できるだけ戦前の姿で残すことが決められている。

 実は、1955年(ひととおりの展示施設が完成した年)で時を止めるためアウシュビッツでは、「残す」ことに関しては最新技術と莫大な予算が投入されている。たとえば、有刺鉄線の支柱の修復作業にはポーランドのトルン大学が技術協力をしている。1600本ものコンクリート製支柱の修復作業は世界にも他に例がないという。

 また膨大な遺留品の保存も大変だ。ここには1万を超えるメガネ、5万近いブラシなどが保管されているのである。たとえば8万足の靴を劣化させないための、油分を補う作業には3年もの月日を要したという。

 アウシュビッツの、当時をそのまま残そうとする思想は、ここがユネスコ世界遺産にも登録された場所であることを考えれば納得しやすい。

 アウシュビッツでは「経年的な劣化を押しとどめるため、変わらないため」に、これほどの手間がかけられているのです。

 言われてみれば、60年という年月が過ぎれば、「ただ、そこにあるだけ」では、どんどん変化していくのが当然ですよね。


 その一方で、ハイテク化というか、かなりアトラクション要素が強い施設も増えてきているのです。

 韓国・天安市にある「独立記念館」についての記述より。

 広大な記念館のなかには、こんなコーナーがあるそうです。

 僕たち以外に外国人らしき客はいない。はじめに案内されたのは「独立万歳」コーナーだ。係員が来場者たちにマイクを向けると、いきなり大声の「万歳」の斉唱が始まった。館内掲示によると、ここはともに「大韓民国独立万歳」を叫び、その声を世界中に知らせる場所らしい。

 続いて現れるのはアスレチックコーナーだ。スポッチャにあるようなロープや丸太を使った遊具で子どもたちは楽しそうに遊んでいるが、施設の名前は「私も独立軍」。「ともに訓練しましょう、国を取り戻しましょう」というキャプションが添えられている。身体を動かすことによって、国防する肉体を作るということなのだろうか。

 アトラクションはまだまだ続く。軍服を着て記念撮影ができるコーナーなんて、まだ序の口。画面の指示通りにステップを踏む「Dance Dance Revolution」を模したゲームコーナーでは、独立軍歌に合わせて来場者たちが躍ることができた。

 巨大なスクリーンに映る敵兵を倒す射撃コーナーもあった。敵は2頭身にデフォルメされていて、どこの国の兵士かはわからないが、銃は韓国軍の主力小銃であるライフルK2を模したような作りになっていて、重厚感もある。父が子に銃の持ち方を教えるという、一瞬心温まりそうになる場面も目撃できた。

 民族の抵抗を示す詩をマイクに向かって朗読するコーナーもある。音声はUSBメモリにダウンロードして持ち帰ることもできる。独立を祝福する当時の写真と自分の合成写真を簡単に作れるマシーンもあって、自分宛のメールアドレスへも送れる。今時のプリクラみたいだ。

 博物館の出口には国旗を風にはためかせるアトラクションなんてのもあった。設置されたハンドルを回すことによって風が起こり、館内に掲げられた太極旗が揺れるのだ。

 こういったローテクからハイテクまでを駆使して、愛国心を発揚させるようなギミックが館内には溢れている。

「戦争」=「悪」という価値観を植え付けられ、持ち続けている僕は、「なんて不謹慎な!」と言いたくなるのですが、韓国はいまでも北朝鮮と「戦争中」で、徴兵制度もあります。

 韓国としては、「戦争」や「兵士」へのネガティブなイメージをもたれないようにしなければならないのです。

 しかし、ここまで「戦争博物館のアミューズメント施設化」が行われているとは……

 

 著者は、このような「アミューズメント化」は、韓国にだけ起こっているのではなく、世界的な傾向であることも紹介しています。

 日本やドイツのような「敗戦国」は、あの戦争(第二次世界大戦)について、真摯に反省していることを見せないといけないけれど、アメリカなどの勝った側としては「あの戦いの意義」をアピールすることを重視しています。

 そもそも、「あまりにも真面目で堅苦しい展示で、来場者数が減り、展示物も見てもられない」よりは、「多少不謹慎っぽい感じになっても、来場者が増え、とくに子どもたちに興味を持ってもらえた方が良いんじゃない?」という意見は「一理ある」のですよね。

 いや、一理どころじゃないか……


 確かにこの平和な国を維持するためには多大なコストがかかっている。基地問題をはじめ、それは歪なバランスの上に成立しているものだ。また、殉職した自衛隊員をはじめ、国家のために命を落とした人も少なからず存在する。

 しかし、何も平和な時代の、平和な場所に生まれたことを、恥じる必要はない。

 戦後という時代を作った思想や、政治の裏側には、当事者たちの戦争体験があった。たとえ、世代や階層により、その内実が異なっていたとしても、それは国民的な共同体意識を生み出した。ヨーロッパでもまた、戦争という強烈な共同体験から、EUへの道は動き出した。

 しかし、あの戦争から70年近くが過ぎ、それを「大きな記憶」として再構築していくのは非常に困難だろう。あの戦争は、もはや古すぎる。

 約70年前の人々が、戦争体験を元に社会を作りだしていったように、現代を生きる人々は、今まさに長く続く「平和体験」から思想や政治を紡ぎ出していくしかない。

 平和ボケでない人など、おそらくもうほとんどいない。

 1960年代にはすでに「戦争を知らない世代」の台頭が問題になっていた。その頃にはもう、戦争は生々しい個人の体験というよりも、抽象化された「戦争」という物語になりつつあったのだ。

はじめに紹介したニュースのなかで、被爆者の森口さんは「核兵器や戦争の悲惨さを人ごとのように思われているのなら、それが一番悲しい」と語っておられます。

でも、「人ごと」だというのが、いま、平和な時代に生きている人間の実感なのだろうなと思うのです。

もちろん、僕も含めて。

「平和な時代を生きていること」は、幸運でありこそすれ、恥じるようなことでもありません。

少なくとも、これから、「経験者」がどんどん少なくなっていくなかで「戦争と平和」について語るのは、自分たちが「平和ボケ」であることを前提にせざるをえないのです。


この本の巻末には、「ももいろクローバーZ」と著者との対話が収録されています。

僕からすると、驚くほど「戦争の『世界史的な知識』が欠落している」彼女たちなのですが、「戦争を避けたいという気持ち」や「平和への願い」って、この世代の人たちも、しっかり持っているんだな、と思ったんですよね。


「永遠の平和」なんて、ありえない。

でも、だからこそ、若い世代にレッテルを貼ってバカにするのではなく、「戦争体験というものを、次世代に受け継ぐこと」が大事なのです。

そもそも、僕たちが、戦争のことを教えてあげてないんだしさ。

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