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日中対立は域外国を喜ばせるだけだ

クリミア半島、MENA(中東、北アフリカ)、南、東シナ海…地球のあちこちからきしみ音が聞こえてくる。地球を揺すっているのは誰か?根幹となる震源地が中国、ロシアであることは誰もが認めるところだ。

現在、世界は力の変化(Power Transition)の時代に入ったとされる。このPower Transitionには、変化を望まない現状維持派(Status Quo)との間で摩擦が生じる歴史的なセオリーがある。今、地球を揺すっている中露は、現状変更派であるが、現状をどのように変えたいのか、という最終の理想像は違う。プーチン大統領が夢見るのは、アメリカと並ぶ超大国だった20世紀半ばの旧ソ連の復活だ。一方、習主席の中国夢は、偉大な中華王朝の復興にあるとされる。民族が失った栄光を取り戻したいと思うのは当然のことでもあるが、夢の実現に向けて繰り出す強硬手段に納得出来ない人も多い。

中露に対抗する現状維持派の中心は、アメリカ、西欧、日本、豪州、カナダという先進国家群だ。現状維持派は、熟成した市場経済と民主主義を持つ国でもあるが、気になることが一つある。主要国は日本以外、欧州起源の文化を持つ国家であることだ。これらの国はキリスト教的思考法が政治にも影響を与えている。

日本は明治維新以後、国策として脱亜入欧をはかった。戦前は背伸びをして欧米の列強に肩を並べ、戦後は経済力を背景にG7の構成国にもなった。現代日本人で、欧米と普遍的価値観を共有する社会に違和感を持つ人は少ない。では、日本人は骨の髄まで欧米人化したのか、それには疑問がある。少し長い期間、欧米社会の中に暮らした経験を持つ人なら、どうしても甘受することができない欧米人の思考法に悩まされた人も多いはずだ。白人社会の根深いアジア人差別に触れた人もいるかもしれない。G7やOECD/DAC(開発援助委員会)のような会合で、唯一のアジアの国として孤立する場面もしばしばあった。

国際社会において欧米の絶対的優位が崩れている現在、日本はまだ近世に欧米主導で確立した世界秩序の維持に奮闘する必要があるのだろうか。外観こそ欧米風に整えたが、日本人の真髄は紛れもなくアジア人だ。良き友ではあるが、欧米への義理立てはこのぐらいにして、故郷アジア・太平洋に回帰、欧米社会の優れた部分と、アジアの知恵を共に身に付けた異色の国家として生きるのも悪くない。オバマ大統領に倣えばリバランスだ。

世界人口の55%を占めるアジアは、今やGNPで欧州の2倍となり、名目軍事費においても北大西洋条約機構(NATO)を上回る。アジアは世界に重きをなす地域に成長しているのに、国際社会における発言力は欧米に遠く及ばない。それは日中韓などアジア主要国の足並みが乱れているからだ。アジアはその持てる力を結集してアジアの声を世界に発信、欧米とは別のアプローチで世界の平和と安定に貢献する時が来ているのではないか。

日中というアジアの二大国が、互いを非難し合う今の状態を続けることは、アジアの損失だ。日中対立を喜んでいるのは、いったいどこの国だろう。これはあくまで独断的推論だが、ヨーロッパ、中でも経済が絶好調のドイツだろう。巨大な中国市場でライバル関係にある日本が、大きなハンディを背負っている現状は、ドイツにとって願ってもない環境だ。就任以来7回も訪中した親中派であり、「他国の停滞は自国のチャンス」と公言するメルケル首相が、心から日中関係の改善を願っているとは思えない。もっとも、国際政治は生き馬の目を抜くものである。それは十分に理解しているから、日本の友邦国であるドイツの首相を悪く言うつもりは、毛頭ない。

さて、日本が名実共にアジア国家にリバランスするには、中国との関係を修復するという難題が待っている。現状において出口の見えない外交交渉のようにも見えるが、外交にはいろいろな道がある。絶対に譲歩出来ない部分に拘ってにらみ合いを続けているよりも、経済、文化など互いの利益が一致する分野から話を纏めてゆく、実利外交を優先させる道がある。今後の国家運営に難問が山積している中国も、実利があるなら関係改善に食指が動くだろう。

われわれ市井の人間は、まず足元を見て中国人と仲良く暮らす方法を考えよう。先頃、「横浜」(横浜市、神奈川新聞などが発行)という季刊誌を読んでいたら、こんな記事が載っていた。幕末に横浜にやってきた英語を話す中国人の通訳に対し、幕府の役人が筆談で「お国にはあれほど立派な文化があるのに、なぜ遅れている異国の言葉など学んだのか」と聞いたというのだ。当時の日本人にとっては当たり前の質問だったかもしれない。英語を話せないとダメ人間のように見られる現代日本社会からみるとおかしな質問だが、当時の日本人の中国文化に対するあこがれを感じる。

日中は相互の存在を認め合って長い歴史を過ごしてきたのだ。しかし、欧米人との付き合いが始まった過去150年の間に、互いの尊敬の念を失ってしまったようだ。アジアが団結するために、まず、日中の人々が心を150年前に戻して互いを見つめ合う環境を作りたい。中国には日本のODAによって技術を身に付けた人が数多くいる。今も日本への感謝の念を忘れない人も多い。こうした人的財産を活用する方策も考えたい。

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