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STAP細胞問題の罪

 去る8月5日、私はiPS細胞研究所のある京都大学医学部を訪れ、旧知の山中伸弥教授と面会した。ところがまさにその日の朝、良きライバルと称された、理研CDB(発生・再生総合研究所)の副所長・笹井芳樹教授が自殺したとの報に接した。

 実はその前の日、CDBの隣のビルにある神戸先端医療研究所の井村裕夫先生(二人の京大の恩師)と会っていたばかり。その際もCDBの将来や、笹井教授が心配だという話が出たばかりだった。すぐ近くで起こった出来事に、ただ言葉を失うばかりだっ
た。

 山中教授と笹井教授は同期生。一方はiPS細胞の発見により、一昨年ノーベル生理学化学賞に輝いた。しかしもう一方も、ES細胞の研究の第一人者であり、その立体構造の再生では世界のトップを走っていた。笹井教授もいずれノーベル賞をとるのは間違いないとまで言われていた。

 当然マスコミが大挙して、山中教授のところまで来ていたようだが、訪れた時は嵐が去っていた。いつものように淡々と振舞われていたが、心中穏やかならぬものがあったに違いない。私からも笹井教授のことは一言も切り出さず、やや気まずい思いも残ってしまった。

しかしそれにしても、なぜ笹井教授は自ら命を絶たなければならなかったのか。STAP細胞に関する小保方論文を指導したことや、CDBの「解体」とまで突きつけられた厳しい提言に、将来の不安を募らせてしまったのかも知れない。ただ仮にCDBや理研を辞しても、笹井教授ほどの実績があれば、引く手あまたであることは間違いない。

 外部の人間があれこれ詮索することは避けるべきだか、理研やCDBが立役者である笹井教授を手放したくなく、その処分を先延ばしにしたことも、本人には重荷になった可能性は考えられる。理研には出来るだけ早く、再生の道筋を示してもらいたい。

 しかし一方では、世界の先頭に立っている再生医療研究に対して、オールジャパンで支援する手を緩めてはならない。注目されてきたiPS細胞研究所ですら、研究費や人材のぜい弱さが指摘される。ましてや同様な研究を続ける他機関の現状は、さらに厳しい。

 我が国は笹井教授という逸材を、残念ながら失ってしまった。しかしこの事で再生医療研究が萎縮するようなことがあってはならない。笹井教授の無念の思いを晴らすためにも、この分野の研究を全力で続けていかなければならない。

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