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強襲揚陸艦と集団的自衛権の素敵な関係

来年度の概算要求に強襲揚陸艦の調査費が計上されるようです。
強襲揚陸艦を導入へ 防衛省方針、名称変更も検討」(朝日新聞140804)

 防衛省は、陸上自衛隊の離島防衛部隊や新型輸送機オスプレイを載せて上陸作戦を行う強襲揚陸艦を海上自衛隊に導入する方針を固めた。2015年度予算の概算要求に調査費を盛り込む。


昨年12月に発表された中期防に「水陸両用作戦等における指揮統制・大規模輸送・航空運用能力を兼ね備えた多機能艦艇の在り方について検討の上、結論を得る」とあったので、中期防を読んでいた人は、昨年の段階で”検討”することは分かっていましたし、そのための調査費なので、別に驚くようなニュースではないのですが、結構話題になっています。

自衛隊応援団の私としましては、防衛省が、”強襲”を取ってソフト路線で導入の理解を得ようとしているようなので、本来であれば、”災害派遣にも役立つ”とかをアピールすべきかもしれませんが、その辺はナゼか朝日新聞がやってくれています。

医療機能を充実させて災害時に利用することも検討し、導入への理解を図る。
中略
 小野寺五典防衛相は4日に都内であった講演で「病院船的な機能もあり、災害でしっかり使える。車もしっかり載せられる。そういう多機能なものをこれからの装備では考える必要がある」と必要性を強調した。


なので、私は逆にハード路線の指摘をしたいと思います。
というのも、しばらく前であれば、このニュースは、必ずしも歓迎すべきモノではなかったのですが、最近の政治情勢の変化により、強襲揚陸艦の価値が大きく変化し、基本的に支持したいモノになったからです。

強襲揚陸艦は、その名の通り、元来は着上陸作戦を実施するための艦艇です。
それも、艦自体を砂浜などの海岸に乗り上げさせ、ビーチングと呼ばれる方式で揚陸することが困難であるような、危険な戦場(敵が待ち構えている等)に、空中機動などを加えることで、強引に(強襲)陸上部隊を上陸させる(揚陸)ことのできる艦艇です。

しかし、そのためには指揮機能の充実や、医療機能など、多様な機能を詰め込まなければならないため、近年ではむしろ多目的艦と言える存在に近づいています。
防衛大臣のコメントも、その事を意識したものでしょう。

自衛隊の艦艇で言えば、陸上部隊の揚陸を目的としたおおすみ型輸送艦と、多数のヘリコプターを運用できる全通甲板を備えたヘリコプター護衛艦である、ひゅうが型あるいはいずも型DDHをかけ合わせたような艦艇と言えます。

しかし、当然ながらここで言及されている強襲揚陸艦は、おおすみ型やひゅうが型、それに建造中のいずも型とは異なる艦艇となるはずですし、海自はアメリカ海軍と極めて密接なことから、この強襲揚陸艦は、アメリカの現行強襲揚陸艦であるワスプ級強襲揚陸艦、あるいは建造中のアメリカ級強襲揚陸艦のような艦艇になる可能性が高いと思われます。

そうであることを前提に考えた場合、この強襲揚陸艦が、現在海自が保有・建造している艦艇と何が違うのか、そしてそれがどんな意味を持つのかがポイントです。
そこに違いが無いのであれば、そもそも強襲揚陸艦の導入を検討する必要などなく、従来艦の追加建造で事足ります。

細かい説明を後回しにして結論を言いましょう。
おおすみ、ひゅうが、それにいずも型は、すべて全通甲板を持ち、艦型が空母に似ていることから、一部に軽空母としての能力を期待する人もいます。
しかし、実際にはどの艦も軽空母にはなりえません。
ですが、強襲揚陸艦は、軽空母にもなりえます。

おおすみ型は、航空機を移動させることのできるエレベーターも航空機を整備する格納庫もなく、全通甲板はヘリも離発着できる、車両搭載スペースでしかありません。(車両用エレベータ等はある)

ひゅうが型、いずも型は、装備としてはそれなりのエレベータ等を備え、サイズ次第ではありますが、VTOL固定翼機を運用することも可能です。
しかし、へりの搭載定数を見ると、いずも型で9機、ひゅうが型では4機でしかありません。
搭載容量としては、それぞれ14機、11機ですが、こんなに乗せたら、まともな運用は不可能です。
この容量は、運搬することが可能な容量でしかない訳です。
しかも、VTOLでの離発着しかできませんから、武器の搭載量は制限を受けます。

そして、航空機は、飛行している短い間しか戦力発揮ができず、しかも整備・補給に多大な時間を要するため、相当数の機数を運用できなければ、全く航空機運用ができない時間が必然的に発生します。
つまり、完全な無力となる時間が発生するため、敵にとっては運用次第で単なる的にすることができます。

海自艦艇で最大の航空機運用能力を持ついずも型でも、ヘリ搭載定数は9機しかなく、ヘリ以上にかさばる固定翼機を運用しようものなら、運用可能機数は更に減りますし、本来の機能である対潜哨戒などが全くできなくなってしまいます。
つまり、この程度の航空機(ヘリ+固定翼)運用能力では、軽空母としても小さすぎるのです。(2次大戦の頃の飛行機は運用できますが、当時と比べたら現代の航空機は巨大化しています)

しかし、強襲揚陸艦の場合、アメリカが現在運用しているワスプ級であっても、対潜任務を行うMH-60Rを6機搭載しながら、ハリアーを20機(1個飛行隊以上)も搭載運用可能です。
アメリカ級強襲揚陸艦も同程度です。
(上記の機数は、軽空母として運用する場合の搭載機数なので、本来の強襲揚陸艦としての運用の際には、搭載機数は減ります。)

この違いは、何よりも艦艇のサイズの違いから来ています。
海上自衛隊最大となる予定のいずも型でも、満載排水量は2万6千トン。
対するワスプ級は、4万トンを越え、アメリカ級では、4万5千トンを越えるため、倍近い大きさがあります。

つまり、紛争の状況次第では、空母としての投入が可能であることが、最大のポイントです。

しかし、私のブログを以前から見ていてくれた方は、「お前は空母導入には反対してたんじゃないのか?」と思うでしょう。
確かに、私は自衛隊への空母導入に反対していました。
参考過去記事
「カテゴリー空母保有」全9記事

しかし、これらの記事でも「アフリカへの政治・軍事的プレゼンスを強化して、資源確保や国際世論の形成を誘導するなどと言った目的なら、それを実行するための目標として、インド洋に空母機動部隊を遊弋させることは適切です。必須と言っても良いと思います。」と書いていたように、以前の記事は、現状の安全保障環境が大きく変化しない事を前提に書いていました。

ですが、安全保障環境は、大きく変化しました
それが、集団的自衛権行使への憲法解釈変更です。

この解釈変更問題も、私は当初それほど注目していませんでした。
集団的自衛権を行使するとは言っても、日米安全保障条約を(実質的に)双務的なモノとし、アメリカに向かう弾道ミサイル防衛に協力するという程度だろうと予想していたからです。

しかし、安倍政権は、支持率を落しながらも、オーストラリアとの関係を、準軍事同盟的なモノにする他、中国が、尖閣以上に露骨な侵略行為を行っている南シナ海における紛争に関して、ASEAN諸国を支持して介入する可能性まで含めて、集団的自衛権を行使可能であるとしました。(韓国に対する支援も入っていますが、韓国自体が、むしろ中国側に付きそうなので、構図が奇怪です)

安倍政権による集団的自衛権行使は、日本の安全保障における、戦略の大変更です。
今までは、防衛力を、ひたすら自国(日本)の安全が脅かされた際にだけ行使し、隣で無辜の他国民が侵略されても見て見ぬ振りをする予定でした。
しかし、今回の解釈変更で、同様の状況で無辜の他国民を助ける替わりに、沖縄や尖閣が侵略を受けた際にも、他国が支援してくれることを期待して行動する方向に舵を切りました。

であれば、南シナ海での紛争等に、プレゼンスだけ、あるいは実際に介入するにしても、空母としての能力も期待できる強襲揚陸艦は、最適です。
もちろん、事態に応じて、空母的装備も揚陸艦的な装備も可能ですし、後方に徹して病院船・補給艦機能として関与することも可能です。

つまり、強襲揚陸艦は、安倍政権が進める積極的平和主義を実のあるモノにするためのツールとして、非常に適しています。

ですが、ここで指摘した軽空母としての活用をするのであれば、問題もあります。
当然の事として、艦載機がなければ、CPUのないパソコンのようなものだからです。

候補は、当然にVTOLステルス機であるF-35Bとなるでしょう。

F-4の後継となるFXとしては、通常離着陸タイプのF-35Aが選定されましたが、この選定により、以前の記事「F-15延命プランは、FXへのF-35選定圧力を高める」でも書いた通り、F-15の性能向上が図られていないPre-MSIP機については、F-35とすべきですし、実際にそうなる可能性が高まっています。
F35の追加取得検討も  防衛相「価格低下なら」」(産経新聞140709)

強襲揚陸艦が導入されたとしても、そこに常に艦載機を載せておくことは適切ではありませんし、米軍でもそんなことはしていません。

空自機であるF-15のPre-MSIP機後継にF-35Bを選定し、必要な時だけ強襲揚陸艦に搭載して運用することには、海・空自間で、いろいろな問題も生じるでしょうが、統合の時代にあって、それは乗り越えなければならない問題です。

しかし、それができれば、強襲揚陸艦とF-35Bは、積極的平和主義を推し進める強力なツールになります。

前掲リンクに上げたように、この強襲揚陸艦のニュースが、F-35追加取得の可能性を報じたニュースのわずか1ヶ月後にリリースされたことは、決して偶然ではないと思います。
恐らく、時期をずらすことで、一体化した話題ではないとイメージさせながら、それぞれに観測気球とする、あるいは予防線を張ったのではないか……

まだまだ可能性の域を出ない話ではありますが、この強襲揚陸艦の検討は、Pre-MSIP機後継に、F-35Aではなく、F-35Bを導入することととリンクして検討されるでしょう。

民主党・共産党を始め、野党は反対すると思われますがが、私は支持します。

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