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【書評】フード左翼とフード右翼/速水健朗

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フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人 (朝日新書)

内容紹介

「有機野菜」「地産地消」「ベジタリアン」「ビーガン」「マクロビ」「ローフーディズム」など自然派の食を愛好する人々、

そして、「コンビニ弁当」「ファストフード」「メガ盛り」「チェーン系290円居酒屋」など、産業化された食を愛好する人々。

現代の日本人の食の好み、ライフスタイルをマッピングし、そこから見えてくる政治的な分断を読み解く。

さらには、ヒッピー、新左翼、学生運動が撤退した1970年代以降の社会運動が、

オーガニック革命、スローフード運動といった「食の革命」として継続され、

現代の「フード左翼(レフト)」に接続されたという歴史を遡るフードの政治思想史。


先日も、日本企業も取引していた中国の食品加工会社が保存期限が切れた食肉を偽装していた問題が明るみになり、大きな騒動となった。食は重大事であり、また、好みも人それぞれだ。本書は人の食の好みを「フード右翼」と「フード左翼」に分類、マッピングし、日本人の政治意識の深層をあぶりだす、という試み。

タイトルからすると、バランスよく両者の解説がなされているようにみえるが、いざ読んでみると圧倒的にページを割かれているのは「フード左翼」について。

というのも、本書の名指す「フード右翼」とは日本の圧倒的多数を占めている「一般に流通する食のユーザー」(p.60)のことであり、いわば説明するまでもない存在、「われわれ」なのだ。


本書は、「工業製品となった食を、農業の側に取り戻し、再び安全で安心なものに引き寄せようという人々」(p.83)、すなわち「フード左翼」の試みを追った記録といえる

ベジフード(植物性食品)の祭典、東京ベジフードフェスタに始まり、有機農業を行う国内の農園に取材に訪れているほか、自然志向、オーガニック系雑誌の紙面等も紹介する。また、主にアメリカを中心に、政治の反体制運動が、60年代以降に消費文化と結びついていく道程も、文献をもとに解説していく。

ぼく自身が食に無頓着な標準的「フード右翼」のため、本書が解説する団体や運動について学ぶところが多かった。ベジタリアンは知っている人でも、ビーガンはどうだろうか? では、マクロビオティックは? さらにはローフードはどうだろうか? みな本書では「フード左翼」の側とされているが、その一方で彼らの間にも対立点はあるのだから、興味深い。


取材を経て著者は「フード右翼」から「フード左翼」へ「転向」を果たしたというが、それでも本書では、彼らにとって不都合な「フード左翼のジレンマ」の部分も、包み隠すことなく明かしている。

たとえば、化学肥料を用いない有機農法のデメリットはその土地効率の悪さにあり、その農法を徹底すれば世界の食糧危機を招きかねないという説もある(pp.150–152)。

また、「フード右翼」的な競争原理を徹底していったことで、良質な商品が生まれる事も、焼酎の事例をとり説明する(pp.198–200)。

食において反目し合う「フード右翼」と「フード左翼」だが、余生はどちらも同じ介護施設で過ごすのだから仲良くしろ、と言わんばかりに、後半の補章で「院外調理」としてこれから勃興するであろう「セントラルキッチン」について触れているところは、ブラックユーモアがあってよい。


「フード右翼」「フード左翼」について、何が最も大切かというと、それは「相手が『フード右翼』であろうと『フード左翼』であろうと仲良くできる事」である。先日、こういう痛ましい海外の事件を知った。

インドの首都ニューデリーで、ヒンズー至上主義政党の下院議員が、ラマダン(断食月)により断食中のイスラム教徒に食事を強要し、断食を中断させたことが23日、わかった。

断食中のイスラム教徒の口に料理押し込んだ議員 : 国際 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

フード政治学(?)上で、もっともやってはならない蛮行は、おそらく「政治的、宗教的立場から相手が望まぬものを無理矢理食べさせること」だと思われる。拒否する相手に望まぬものを取り込ませるのだから、それはある種レイプに近い。

どれだけ「フード右翼」であろうとどれだけ「フード左翼」であろうと、その対立を超えて仲良くできればそれでいいではないか。

……ただ、「フード極左」の人とぼくは結婚できないと思う。

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