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日本の世帯構造は一人暮らしが主流 ~公共住宅はすべてコレクティブハウスに~

 2010年の国勢調査(2011年6月発表)では、初めて「単独世帯(一人暮らし)」(31.2%)が全体の3割を超え、「夫婦と子供から成る世帯」(28.7%)を上回った。次が「夫婦のみの世帯」(19.6%)であり、「ひとり親と子供から成る世帯」(8.8%)がこれに続いている。「単独世帯」と「ひとり親世帯」の合計は、実に4割に達しているのだ。このような世帯構成の変化は、わが国の住宅政策にも大きな影響を与えずにはすまされないだろう。

戦後の住宅政策、すなわち「持ち家政策」は高度成長が前提
 わが国の戦後の高度成長は、言い換えれば、産業構造の変化に伴う急激な都市化によってもたらされたものである。その結果生じた、都市における大量の住宅不足は、まず公共住宅の供給によって、次に税制優遇や(旧)住宅金融公庫の低金利融資などを通じた「持ち家政策」の展開によって徐々に解消されていった。

 持ち家政策のモデルは、郊外の庭付き一戸建住宅であり、当時の標準であった「夫婦と子供二人」世帯を強く意識したものであった(1960年の1世帯当たり人員は4.14人)。庭で子供が伸び伸びと遊べるという訳である。

 とりわけ、フラット35という言葉が今でも生きているように、公的な超長期の住宅ローンを梃として頭金がほとんどなくても住宅が取得できるような制度を実現したことは、持ち家政策を存分に促進することになった。

 通常、最長35年の住宅ローンともなれば、支払いを終える頃にはほとんどの人が定年を迎えている。しかもようやく自分の物になった住宅は、(特に木造なら)35年も経てばかなり陳腐化しており、市場価値は恐らくゼロに近いであろう。

 なぜ、このような仕組みが有効に機能し得たのか。それは終身雇用・高度成長を誰もが信じて疑わなかったからであり、人口も増えていたので、土地の値段がいわば半永久的に右肩上がりに上昇し続けると考えていたからに他ならない。平たく言えば、住宅ローンを払い終えた人は、たとえ建物の価値がなくなっても、購入当時の何倍かの値段で、その土地を処分できると信じていたのである。

 このような楽観的な想定の下で、持ち家政策を基軸とした住宅建設は乗数効果が高いということで、度々、景気対策の目玉ともなり、その結果、わが国は世帯数を大幅に上回る住宅ストックを抱えることとなった。2013年の住宅・土地統計調査によると、総世帯数5,246万世帯に対して、総住宅数は6,063万戸と、実に800万戸も上回っているのである。

低成長かつ単独世帯にふさわしい住宅政策とは何か
 国際的に見ると、住環境が充実しているとよく言われる欧州大陸の国々では、わが国に比べて一般に持ち家比率が低く、その半面、一戸当たり面積の広い多様な賃貸住宅が多数供給されている。これを一つのヒントにして、わが国の住宅政策を考えてみよう。まず、最初に持ち家と賃貸を比較してみたい。

 わが国の住宅の平均購入価格は、土地付き注文住宅が3,600万円台、マンションが3,800万円台となっている(住宅金融支援機構「2011年度フラット35利用者調査報告」)。これに対して、2011年のわが国市民の平均所得は、約550万円に過ぎず、住宅を購入するためには多額のローンを組む必要がある。

 持ち家と賃貸を30歳から85歳までの総コストで比べてみると(2011年9月24日付、日本経済新聞朝刊、プラス1)、頭金500万円でフラット35を活用して3,500万円のマンションを購入した場合、ローンの利息は1,486万円で、総コストは7,031万円となる。これに対して、55年間の家賃総額は月10万円なら6,600万円、月12万円なら7,920万円となる(ちなみに、わが国の平均家賃は5万円台である)。単純に支出額だけを比べると、現在の借入金利を前提にすれば、家賃10万円のレベルが損益分岐点となるようだが、その他にも考慮すべき点が多いのではないか。

 まず、これだけ世界の経済・金融情勢が不確実性を増している中で、長期の借入を行い、いわば人生をフィックスしてしまうことの是非の問題がある。(「10年以上のローンはだめです」という人気コラムがあった)。

 次に、「単独世帯」を標準モデルとして考えると、高度成長期の「夫婦と子ども二人世帯」に比べてはるかに流動性の高いことが容易に想像されよう(たとえばカップルになりやすい等)。そうであれば、単独世帯にとっては住み替えの自由がより大きな価値となるはずだ。また、持ち家は賃貸に比べて通勤時間が長く、ワークライフバランス上も問題なしとしない。

 このように考えれば、21世紀のわが国の住宅政策の柱は、人生のライフステージに合わせて自由に住み替えのきく良質な民間の賃貸住宅の供給に重きを置くべきではないだろうか。わが国の借家は、ワンルームマンションのほとんどが借家であることもあって、移住面積が持ち家の半分以下でしかない。これでは、人々が持ち家に流れるはずである。良質な賃貸住宅は、まず居住規模の拡大を目指さなければならない。

 さらに付言すれば、欧州のように原則として家具付き賃貸住宅の普及を図るべきである。外国の友人が家具を積んだ引っ越しトラックを見て「家具はその家の身丈にあわせて購入したものなのに、なぜ身丈の違う次の家にわざわざ運んでいくのか」と言った言葉が忘れられない。



公共住宅はコレクティブハウスを軸に
 持ち家購入に対する税制優遇措置を廃止し、その代わりに、家具付き賃貸住宅への家賃補助を行えば、持ち家政策の転換はさほど難しいことではないと思われる。では、公共住宅はどうするか。

 単独世帯を基準モデルとして考えれば、これからの公共住宅はすべてコレクティブハウス(たとえば1階が共有スペース、2階が寝室)にするくらいの気構えで臨むべきではないか。少子高齢化が待ったなしの状況であり、また人と人との絆の回復がこれだけ要請されているわが国の現状に鑑みれば、コレクティブハウスほど、ぴったりした施策はないと考える。

 コレクティブハウスは、人と人との絆の回復に資するだけではなく、次のようなメリットを併せ持つと考える。

① 都市部におけるこれからの急速な高齢化や高齢単独世帯の増加を想定すると、コレクティブハウスは介護の集中化・効率化につながる。② コレクティブハウスは、従来の公共住宅に比べると中クラスの大きさの建物がいくつか連続することになり、都市の景観・美化に資する可能性がある。③ 公共住宅の利点を活かして、たとえば家賃に傾斜をつければ(学生は思い切って安くするなど)、1つのコレクティブハウスの中に、老・中・青が混在したコミュニティを作り出すことが可能となる。そして、老・中・青の混在が安定した社会の基盤となることは、過去の歴史が教える通りである。

 なお、民間の家主に対しても同じような意味で、借家をコレクティブハウスで建設する場合には、税制優遇を行い、またその入居者に対しても家賃補助を行えば、政策効果はさらに高まるだろう。

 20世紀後半のわが国では、4人家族が社会の標準であり、高度成長・終身雇用を前提として、人々は若いうちに多額の借入を行って住宅を取得し、定年時にローンを完済し、それなりの土地の値上がり益を享受できた。右肩上がりの世界の人生双六では、公営住宅や賃貸からスタートして、持ち家がいわば「上がり」であったのである。

 21世紀のわが国では、一人暮らしが社会の標準となり、低成長が常態となる中で、雇用の流動性が高まりつつある。このような社会では、人々はライフステージの変化に合わせて家具付き賃貸住宅を住み替えし、高齢になれば、公営のコレクティブハウスで、人々の絆を大切に生きていく方がより人間らしい人生が送れるのではないだろうか。そう言えば、明治・大正期の文学作品には、豊かな借家人生が数多く描かれていたような気がする。

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