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サッカーが強くする日本とミャンマーの“つながり”

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日本財団の狙いと試合に込められた想い

帰国後、今回の企画を担当された日本財団の中嶋さんから、「YANMAR CUP」が企画された背景やその狙いについて、話を伺うことができました。

「村の子供たちにスポーツの楽しさを感じてもらいたい」

この企画の目的は「村の子供たちにスポーツの楽しさ、またはスポーツの力を感じてもらう」ことだそうです。これまでに日本財団は220校の学校をミャンマーに建設してきました。建設にあたっては、いわゆる“箱モノ”としての校舎を立てるのではなく村のコミュニティをしっかりと巻き込むことを意識しているそうです。

まず村のコミュニティの中で学校建設委員会を立ち上げ、必要な資材の量やその調達コストなどを事前に提出してもらい、その内容がしっかりしたものに現地の学校建設NGOの、れんげ国際ボランティア会(イラワジ州)、Saetaner(シャン州)を通じて助成を行う。この手法を取ることによって、「コアなコミュニティ集団と学校を作り始める」ことができるそうです。このコミュニティは建設後も残っており、日本財団と関係を保っています。このつながりを企業のCSR活動のフィールドとして利用していただけないかと模索している中で、たどり着いた方法が今回の企画になったそうです。

しかし、サッカーの試合を行うという企画案はすぐに出てきたわけではなく1年程度の試行錯誤がありました。当初は各村と企業を直接つなぐ方法を考えていたものの、規模や市場の状況など様々な理由からなかなかうまくいかなかったそうです。そこで一つの大きなスポーツイベントを行い、そこに関わってもらう方針に切り替えることで、多くの企業が参加することができる形となったそうです。

そして、Jリーグが進めるアジア展開の戦略や協賛企業などとの連携もあり、数あるスポーツの中でサッカーを行うことに決まりました。それ以外にも、ワールドカップイヤーであるため、Jリーグの試合のない中断期間が発生しセレッソ大阪がこの時期に海外遠征をすることができたこと、日本ミャンマー外交関係樹立60周年の年にあたったことなどの幸運も重なり、「YANMAR CUP」は開催につながりました。

「寄贈したばかりの白いシャツを泥だらけにして一緒に楽しんでいた」

提供:日本財団、撮影:大沢尚芳
試合翌日以降、支援している5つの街で開催されたサッカー教室、「フィールドトリップ」についてもかなりの手応えを感じていました。セレッソ大阪のコーチ、スポンサー企業の担当者と一緒に訪れた街は湿地帯にあり、しかも雨季ということから地面は泥だらけでサッカーには適さない場所だったそうです。それでもセレッソ大阪のコーチが大活躍。「コーチングスキル以上に関西人のノリも伴って子供たちだけでなくコミュニティ全体を巻き込んで盛り上げてくれた」と中嶋さんは嬉しそうに話していました。

提供:日本財団、撮影:大沢尚芳
また、スポンサー企業の担当者の方も、みなさんサッカー好きだったようで、「寄贈したばかりの白いシャツを泥だらけにして一緒に楽しんでいた」とのことでした。大盛り上がりのスタジアムと非常にうれしそうな町の皆さんをみて、「企業の方々もさらなる支援を考えるきっかけになったのではないかと思う」と中嶋さんも振り返っていました。


「日本財団がハブになって色々な組織を巻き込むことができた」

今回の企画には色々な組織が関わっていました。試合の名前にもなっているヤンマーをはじめ、20を超える組織が大会のチラシに名前を連ねていました。民政に移行し、市場としてのポテンシャルには疑いのないミャンマーとはいえど、現時点ではタイやベトナムなどの東南アジアの近隣諸国に比べて経済が成長しているとはいえない状況です。今回の取り組みについて、「日本財団がハブになって色々な組織を巻き込むことが出来た」と中嶋さんは語ります。

確かに、仮にどこかの企業がこのイベントを企画していたとすれば他の企業は参加しにくかったでしょう。また、これまでに長くミャンマーを支援し続けてきた日本財団でさえ開催にあたって多くの困難を迎えたといいます。そのため、ミャンマーでの活動の実績の少ない企業では開催そのものが難しかったのではないでしょうか。日本財団がハブとなったことで参加を決め、眼前でスポーツの力と子供たちの笑顔をみた各企業の担当者は今後ミャンマー支援をCSR活動として進めていくモチベーションを得ることができたのではないでしょうか。

「参加した方々が賛同者となり、今回の企画のことを広報してもらえれば嬉しい。自分たちが発信するより大きな効果を生み出す」という中嶋さんの言葉に多くの組織を巻き込んだ効果が集約されています。一人よりもみんなで行うことは大きな力になり発信力も増していきます。“みんなで行うこと”が可能になったのは、営利目的ではない日本財団がハブとなったからではないでしょうか。

「少なくとも3年間は、サッカーによる支援を続けていく」

中嶋さんは今回のイベントを新たなスタートだととらえているようです。「少なくとも3年間はサッカーを通じた支援を続けていく」と語り、年2回のサッカー教室や今回のような試合を2回目・3回目と開催したいと考えているそうです。

そして、中嶋さんをはじめとした日本財団のみなさんはさらに先のビジョンも語ってくれました。そのビジョンは東京オリンピックに繋がります。「村のサッカー好きな子供が東京オリンピックにミャンマー代表として出る可能性だってある」といいます。現在、ミャンマーには国内サッカーリーグがあり、ナショナルチームも結成されていますが、全国的なスカウト網などが整備されているわけではありません。組織が整い、村の子供でも才能があればプロになりナショナルチームへ選出されるという流れが実現すれば、子供にとっても村にとっても最高の体験となるでしょう。

現地観戦・日本財団の方のインタビューを終えて

スタジアムの盛り上がりで再認識したスポーツの力

「サッカーは全世界の共通言語である」。サッカーが大好きで、世界30か国ほどをバックパッカーとして旅をした経験から自分が持っている考え方です。バングラデシュの河原でのサッカーに飛び入り参加すれば“NAKA-TA”と言われ、マケドニアの駅で「I like Pandev(マケドニアの有名なサッカー選手)」と言えば快く受け入れてくれる。今回のミャンマーでの試合でもそうでした。

撮影:原田謙介
撮影:原田謙介 写真一覧
今回、一番印象に残ったのは、次のようなシーンでした。試合中、日本人はもちろんセレッソ大阪を、ミャンマー人はナショナルチームを応援しています。おそらく小学生であろう、ミャンマーの日本人学校の生徒達が大きな声で「セレッソ大阪!!セレッソ大阪!!」と声援を送り始めました。他の日本人はもちろんミャンマー人も、「やるな、この子供たち」というような目で彼らのほうに注目し始めました。そして、ミャンマーサポーターの中からも誰からともなく「ミャンマー!!ミャンマー!!」と声援が起こり始めました。スタジアムの中は、「セレッソ大阪!!ミャンマー!!セレッソ大阪!!ミャンマー!!」と両方の声援が交互におきるような状況になりました。応援しているチームは違いますし、直接言葉を交わしたわけでもありませんが、スタジアムが一体になった瞬間でした。

ミャンマーという国をもっと日本人に知ってもらうために

ミャンマーといえば、近年民主化の方向に進みつつあることや、経済的にポテンシャルが高いことはなんとなく、日本でも知られているかもしれません。しかし、知られていても遠いイメージであることには変わりないでしょう。「ミャンマーでサッカーに関わり、面白かったんだ!!」。このような会話は知り合いの方から聞いたらどうでしょう?おそらくその友達は多くの写真を見せてくれるでしょう。そして、「今後ミャンマーの子供たちのためにこんなことをしたいんだ!」と語ってくれるはずです。このような話を聞いた人はミャンマーに興味をもち、自分も行ってみたいと思うかもしれません。

ビジネスや政治といった要因ではなく、サッカーというスポーツの純粋な楽しさを通じて多くの日本人がミャンマーについて関心をもつことのきっかけが今回のイベントだと思います。3年といわず、もっと長い間この企画が続くことを期待しています。

(取材協力:日本財団)

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