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雰囲気で進む小学校英語

政府は、急速に進むグローバル化に対応し、国際社会でも活躍できる人材を育成するために、小学校英語の開始時期を5年生から3年生に前倒しするなどの英語教育改革実施計画を発表し、それを実現するための学習指導要領全面改定に向けて動き始めています。現在、小学校5~6年で週に1時限程度のものを、英語の授業を小学3~4年で週1~2時限程度、5~6年で週3時限程度実施を目指すとともに、中学校では授業を原則英語で行い、高校では発表や討論を通じ、より高度な英語力を身につけさせる、という方向のようです。

英語教育の早期化は、もっともらしい、選挙受けする政策です。東京オリンピックが2020年にありますから、それに向けて日本の若者が世界からの観光客に英語で日本を紹介できるようにする、というのも聞こえは悪くありません。語学は、年が若いうちから始めた方がいいということは、半ば常識化しています。
ただ、実際に早めるとなると、誰が教えるのか、他教科への影響はないのか等、超えるべき高いハードルが山積しています。また、東京オリンピックと言うけれど、たった6年先に向けて、今の小学生を鍛えようとする考えには、相当無理があります。英語教育の早期化は、実態の検証なく、雰囲気のみが先行しているように思えます。

英語教育においては、有名な「平泉・渡部論争」とも呼ばれる、1975年に「英語教育大論争」として取り交わされた有名な論争があります。元外交官で自民党衆議院議員であった平泉渉氏と、上智大学教授であった渡部昇一氏との間の英語教育に対する論争ですが、今も答えの出ない、そして意義深い論争です。私なりの解釈によるそれぞれの主張は、平泉氏は本当に英語が必要な人間に徹底的に十分な英語を身につけさせるべきとしているのに対し、渡部氏は教養の一環として全国民が英語を学ぶべきという立場です。私も国会の文部科学委員会で取り上げましたが、今もこの論争に完全な白黒はついていない、それだけ大きなインパクトを後世にまで残した論争です。
さて、平泉・渡部論争から40年が経ち、時代環境は確かに大きく変化しました。平泉・渡部論争が勃発した1975年の日本への短期滞在者(主に観光客)は年間37万人程度であったのが、今では30倍の1000万人を超えるようになっています。将来はさらに2000万人を見込みます。ビジネスの面でも、海外とのやりとりをするシーンは劇的に増え、インターネットの発達もあり国際公用語としての英語の重要性は増すばかりです。そう考えると、時代の変化は渡部氏の主張に合理性を見出すように傾いてきたようにも思えます。しかし、地方や職種によっては、今でも全く外国語と関わりのない人生を送る人が相当数いるのも事実です。また、英語を話せることだけで国の繁栄に直結するわけではありません。フィリピンやインドは、日本よりもはるかに英語を操る人口比率は高いですが、必ずしもそのアドバンテージを活かしきれていません。そう見ると、平泉氏の主張が完全に合理性を失ったとは言い切れないと思います。

兎にも角にも、何となくの雰囲気だけで英語教育早期化を進めるばかりでなく、地に足をつけた、実態を踏まえた日本人の英語力向上に向けて議論を深めるべきです。私の考えの一端を述べれば、一部の積極的ないし環境の整った自治体を除き、立派な小学校英語を提供できている学校がそう多くない以上、スタンダートは中学英語の強化に集中したらよいと考えます。誤解なきように重ねて書きますが、十分に体制を整えることができている学校、自治体は小学校一年からでも始めたらよいのです。しかし、無理を強いて小学校から英語を始めている地域では、今回の政府方針にさらなる動揺をしていることと推察されます。

英語はあくまでコミュニケーションツールです。ツール=道具の習得に心血注ぎ、本質磨きが疎かになってもいけません。未来の我が国と子供たちの将来を決める議論です。思い込みや偏見なく、分け隔てなく議論し、しっかり実をとるべきと考えます。

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