- 2014年07月24日 14:44
航空会社への賠償請求を代行する「AirHelp」
乗るはずの飛行機が遅延したり、欠航するのはよくあることだ。
欠航や遅延の理由は、悪天候や安全対策などが多い。その場合は航空会社が用意してくれる振替便で我慢したり、一泊分のホテルを取ってもらって空港近くで一夜を明かしてなんとかしのぐのが一般的だ。
時にはオーバーブッキングが発生することもある。特に海外の路線では、搭乗キャンセルの発生をはじめから計算に入れており、用意できる座席数以上に予約を受け付けていることが多い。そのため、キャンセルが少ないときには予約した利用者の座席をすべて確保できないことがあるのだ。
その場合は席をゆずってくれる人を募るか、特定の乗客の搭乗を断り、振替便を手配したり、席のアップグレードを提供することになる。またはマイレージを付与したり、金銭補償を行うこともあるようだ。
乗客がこの申し出を受けた場合、エコノミーを予約していたのがビジネスクラスを利用できるなど、思わぬ恩恵にあずかれる可能性も高いのだが、予定が詰まっている利用者にとっては、予定していた会議に遅れたり、楽しみにしていた旅行のスケジュールが狂わされたりと、少々困った話になってしまう。
ひどいときには、空港の窓口で閉め出され、航空会社の食事クーポンなどを渡されてうやむやにされてしまい、訴えようにも方法が分からず泣き寝入りをすることもあるそうだ。仮に訴えても、途方もない量の書類作成と電話による交渉が待っている。
そうしたとき、乗客に代わって書類作成し、賠償金を航空会社に請求してくれるサービスがある。それが今回ご紹介する「AirHelp」。フライトに関する損害賠償業務の代行に特化したサイトだ。
2013年1月に創設後、EU諸国のフライト問題においてサービスを開始。Y Combinatorからの出資獲得後、2014年5月には米国にも進出した。同年には「ベスト・スタートアップ・オブ・デンマーク」にも輝いている。
ブラウザやアプリから行える賠償金請求
AirHelpでは、同サイト上やスマートフォン用のアプリを使って補償の申請を行うことができる。
どのようなトラブルに遭ったのか、フライトの出発地と到着予定地、トランジットか直行便か、便名、日付などを入力する。これだけの入力作業を行えば後はサービス側が処理を行ってくれる。この段階で訴えが認められれば、利用者はほとんど手間を掛けることなく賠償金を得ることができる。
利用者がAirHelpに料金を支払うのは、賠償金を取ることができたときのみ。利用料金は賠償額の25%となっている。フライトが複数の経由地を経ているなど、状況によっては補償の対象とならないケースも多いため、アンケート形式で状況をヒアリングすることで、適用範囲かどうかを判断するシステムを構築しているのだ。
なお、賠償に関する規定は、EU諸国と米国では異なっており、申請できるケース、得られる賠償金の額も大きく変わってくる。
EU諸国では、搭乗の拒否、欠航便、3時間以上の遅延に対しては250ユーロ~600ユーロ(約3万4000円~8万3000円)の賠償金を得る権利があるという。フライト距離が長いほど、より多くの補償額を受け取ることができるようだ。
米国は、EU諸国よりやや条件が厳しい。オーバーブッキングにより搭乗拒否され、振替便による到着時刻が予定より1時間以上遅れた場合のみ補償が認められる。到着時刻の遅れの幅に応じて、チケットの購入額の2倍か4倍の補償を受け取ることができるが、1300ドル(約13万円)が上限となっている。
航空会社がこの訴えに応じず、問題が裁判所に持ち込まれることもある。
そのときはPDFファイルが送られてくるため、印刷と署名を行ってAirHelpに郵送する必要がある。法的な委任の手続きで、この署名によってあなたのクレームが裁判にかけられるのだ。
この場合も、裁判に勝ったときだけ25%のコミッションをAirHelpに支払うことになる。なお、AirHelpによると、負ける確率は極めて低いという。
たとえ賠償金が得られなくても、裁判にかかった費用を請求されることはない。ただし、裁判にまで発展したときには、結論が出るまで数ヶ月の時間が必要となる。
過去3年間に使ったフライトについても、航空会社の違反があれば請求することができる。覚えていなければ、AirHelpのシステムを利用し、これまでに受け取ったメールをスキャンしてもらうことも可能だ。このサービスは航空会社の名前でスキャンするため、フライトの搭乗券がメールの中にあればすぐにわかるという。
賠償請求権についての知識が乗客になく、航空会社の方でも旅客に知らせてこなかった
AirHelpの創業者はデンマーク人のHenrik Zillmer(以下、ジルマー)氏。あるとき同氏の乗ったフライトが3時間以上遅れたことが、サービス開始のきっかけだった。
このとき、ジルマー氏は旅客の法的な権利について何も知らなかったが、ふと疑問を抱き、旅客の権利について調べてみた。その上で航空会社のウェブサイトに遅延便についてクレームを入れたが、航空会社からの返事は得られなかったという。
旅客の権利を調べるうち、ジルマー氏は愕然とした。EU圏では毎年2000万人の旅客が損害賠償権に該当する事態に遭っているのに、賠償金を手にしているのはそのうちの1%に満たなかったのだ。
ジルマー氏は、乗客たちがこれまで賠償金を受けてこなかった理由を、賠償請求権についての知識が乗客になく、航空会社の方でも旅客に知らせてこなかったからだと考えた。
そこで、こうした賠償請求権を一般の人たちにも知ってもらえるサービス、賠償を簡単に得られるサービスをと、2013年1月に「AirHelp」を創設。経済的な理由から香港にオフィスを構え、ヨーロッパ便のクレームを処理していった。
AirHelpの仲間となったのは弁護士ではなく、それぞれビジネスのかたわら航空機を頻繁に利用し、同じ疑問を抱いてきた人たちだった。その中にはSkypeの開発者として知られるMorten Lund氏もいる。
最初のうちは弁護士を雇い、法的な知識を彼らから得た。その後わずか数ヶ月で、35カ国、4500件以上のクレームを処理していったという。
現在同サービスのチームは16人に増えた。また法廷に臨むときには弁護士と組んでいる。裁判にするべきか否かの判断も提携する弁護士によってなされているようだ。
AirHelpを利用し、賠償金を得た利用者たちは同サイトにこのような声を寄せている。
"私はAirHelpを使って遅延便の賠償金を600ユーロ(約8万3000円)もらいました。eメールを2~3通やり取りしただけで、話はとっても早かった。さすがプロフェッショナルです。手続きもとても簡単でした。600ユーロはすごくうれしかったわ"
"私はエールフランスで2日も遅れて到着したんです。最初、自分でエールフランスを訴えたけど、なしのつぶてでした。そこでAirHelpに相談したら、みごとに勝訴。賠償金が手に入りました。素晴らしいサービスです。また困ったときにはよろしく!"
簡単な質問に答えるだけで賠償権があるか判断するシステム
「僕たちは3つの大きな挑戦をした。1つは一般市民にフライトに関する損害賠償権について理解してもらうこと。2つめは簡単な質問に答えるだけで賠償権があるかないかの判断をするシステムを構築すること。そして最後の挑戦は、航空会社が誠意を見せないときは裁判にまで持ち込むこと」(ジルマー氏)
AirHelpの成功要因は、同氏のコメントに集約されていると言えるだろう。
一般市民にとって法的な問題は取り扱いが難しい。訴えが妥当かどうかを調べるのも一苦労で、手続きも煩雑、訴えるべき場所や手段も広く共有されているとは言えない。同サイトはそうした問題を「フライトに関する損害賠償権」の1点に絞ることで、扱う問題や手続きの単純化に成功したのだ。
また、完全成功報酬制となっていることも、利用者にとっては安心して利用できる要素のひとつだろう。
フライトに関する損害賠償以外にも、一般の人々にとって不満や不安を抱えているのに手の届きにくい問題は多い。同様の発想やシステムを適用できるサービスは多いのではないだろうか。


