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米国でもやっと始まった「遺伝子組み換え食品」をめぐる戦い

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重い鉄の扉は開いた

 ただし、このカルフォルニア州やワシントン州の挑戦は、完全な敗北ではありません。なぜなら、この投票による敗北は、他の州の活動家の驚きと怒りによる行動を駆り立てるキッカケとなりました。さらに、全米のより多くの人々が、この問題に注意を払い始めたのです。

 そしてとうとう今年の5月、バーモント州で、重い鉄の扉が開きました。表示を義務化する法案が州議会で審議され、新たな法律が成立したのです。また、現在では、全米29州で遺伝子組み換えの表示義務化に関する84の法案が議会に提出されています。コネティカット州やメーン州では、法案はすでに可決されており、いくつかの近隣の州が参加すれば、法案が有効になります。米国では、各州における立法化は、他の州の状況を窺いながら進められます。特に、表示義務化のように、全米でこれまでに立法化した州がないケースの場合、ニューイングランド地方にある小さな州などは、近隣の州に協力を仰いで訴訟に備えなければなりません。さらにオレゴン州では、11月の住民投票にむけて、署名活動が行われています。

Maine becomes second state to require GMO labels,The Washington Post,Jan.10

Malloy signs state GMO labeling law in Fairfield,CT POST.COM,Dec.11,2013

Oregon proponents of GMO labeling say expect ballot measure to qualify,REUTERS,Jul.1

 しかしながら、こうした動きに反対派である食品業界も黙していません。2016年からバーモント州が表示の義務化を開始するまでに、なんとしても阻止するつもりのようです。一旦重い扉が開けば、他の州でも次々と義務化が決まることが予想されます。そうなれば、政治家(とくに民主党)も消費者側を後押しするでしょう。

 そこで現在、反対派の食品業界側は、バーモント州に対して訴えを起こしています。恐らく、2016年までには、この訴えが正式な裁判になるかどうかの判断が裁判所から下されるでしょう。ただし、どちらの側にとっても、裁判は時間、費用もかかり、巨額の損害の可能性があるため、裁判開始決定の前に和解となる可能性もあります。その判断がいつごろ下されるのかはまだ見通せませんが、間違いなく全米の注目を集め、他の州の行動に強く影響すると思います。米国でもようやく、遺伝子組み換え食品の安全性に対する消費者の意識が世界レベルになったようです。

日本も表示できなくなる可能性が

 さて、最後に、TPPの話題に戻ります。多くの米国民は、TPP交渉について怒りと不安を感じています。というのも、この交渉は内密に非公開で行われ、国民や政治家であっても交渉内容の情報にアクセスすることができません。ただし例外として、600人の大企業顧問は、交渉や提案に参加ができるのです。TPP交渉は自由貿易のためというより、大企業に有利のようです。

Obama’s Covert Trade Deal,The New York Times,June. 2,2013

『ボストン・グローブ』紙では、「NAFTA on steroids(北米自由貿易協定にステロイド増強剤を使用したくらい最悪な協定)」とも批判されています。

Take trade agreement off fast track,The Boston Globe,Dec.22,2013

 遺伝子組み換え食品の表示義務に対する米国の現状や、少ない情報をもとに考えると、このTPP交渉次第では、逆に遺伝子組み換え食品の表示ができなくなる可能性もあると思います。その場合、日本のように遺伝子組み換え食品を表示していると、TPPに違反することになるため、 日本政府がTPPに参加している国の企業に訴えられる可能性もあります。『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、実際に過去の例として、貿易協定違反のため、大手タバコ会社が、タバコの箱の健康の害に対する警告について、ウルグアイやオーストラリアの政府を訴えたケースもあるのです。ひょっとすると日本は、現状のような規制の緩い遺伝子組み換え食品の表示すらできなくなる可能性もあるかもしれません。それだけに、TPP交渉の行方にも十分な注意を払っておくべきだと思います。

Cigarette Giants in Global Fight on Tighter Rules,The New York Times,Nov. 13,2010

Trans-Pacific Partnership and Monsanto,Nation of Change,June.24,2013

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執筆者:大西睦子

内科医師、米国ボストン在住、医学博士。1970年、愛知県生まれ。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月からボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、2008年4月からハーバード大学にて食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。

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