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「仮面ライダー」だけじゃやってけない!?――これからの生活困窮者支援 - 大西連×中村あずさ×藤田孝典

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制度の枠組みを争う空中戦から、仲間を増やして繋がっていく地上戦へ。80年代生まれの3人が語り合う、これからの生活困窮者支援。(構成/山本菜々子)

本当に必要な人に届かない

大西 3人でそろって会うのは実ははじめてですね。中村さんは池袋で、藤田さんは埼玉で生活困窮者支援をおこなっています。自己紹介がてら、お二人はなにがきっかけで活動をはじめたのかお聞きしてもいいですか。

中村 高校生まですごく狭い世界で生きていたので、東京に出てきて世の中の広さにびっくりしました。とにかく、世の中でなにが起こっているのか知りたくて。たまたま知り合いが池袋の夜回りの活動に参加していて、一緒にいってみたのがきっかけです。

はじめは、なにを話したらいいのかわからなくて、みんなの後をくっついて歩くだけでした。でも、ずっと参加し続けていると、ホームレスの方たちも顔を覚えてくれてるようになりました。彼らの安否確認をするはずの活動が、「元気か?」と逆に心配されたりして。

その当時は、路上で亡くなる方も多くて、仲良くなった方も亡くなっていきました。炊き出しで会えると毎回、「会えて良かった」とお互いおもえます。それが自分にとっては強烈な体験でした。当たり前に人は存在しないというか。会えるだけで、奇跡だと。みんなと仲良くなってどんどんハマっていったという感じです。

当時は働ける年齢の「ホームレス」の人達は、生活保護を受けられないというのが通念になっていました。そこから、法的には認められるということを情報発信して、「ホームレス」の方と生活保護とを結びつける活動が活発に行われるようになり、支援団体の人もそのノウハウをもつようになりました。

そこでつながる人も出てきましたが、つながれなくて、路上に戻ってしまう人も多くいて。支援とつながれなかった人たちが亡くなっていくのを実際に目の前でみてきました。しかし、そんな人たちに対し「この人たちは支援に値しない」とか「やる価値がないから」という人もいて、それが悲しくて悔しかったんです。

そして、2008年と2009年に支援につなげても路上に戻ってしまう方達を対象に調査をおこないました。精神科医やソーシャルワーカーといったさまざまな専門性をもつ方に協力して頂き、路上生活をしている方の中には、精神または知的に障害がある方がいることがわかりました。

障害があることによって、自分の望んでいることや求めていることをうまく表現できなかったり、生活を計画的に送るのがすごく難しい。多様な生きづらさを抱えている人に対して、紋切形の就労支援であるとか、100件以上も案件を抱えているケースワーカーがサポートするのは無理があることを調査では示せました。さまざまな障害やニーズがあることを基に、今の活動をやっています。

藤田 私は2002年から活動をはじめました。もともと社会福祉学部の学生でした。当時は、介護保険ができた流れで、高齢者が好きな人は福祉学部へという流れがあったんです。おばあちゃん子だったので、自然と福祉の道へ進路を決めました。授業では「社会福祉はうまく機能している」と教えられ、それに疑問も抱くこともありませんでした。障害のある人も、失業している人もケアされているんだとおもっていました。

ある日たまたまホームレスのおっちゃんと道でぶつかり、それがきっかけでお話をするようになります。彼は銀行の支店長をし、出世街道を歩んでいたのですが、激務で鬱病を発症してしまいました。しかし、失業保険も適用されないし、労災も適用されていない。それで路上生活になってしまったと。

「生活保護は使わないんですか」と当時学んだ知識を基に聞いたら、「『若いから働け』といわれる」という答えが返ってきました。ですが、そもそも鬱病だから働けないし、住所もないから働けないんですよね。

基本的に社会福祉はホームレス状態を容認していないので、理論上は存在しないはずです。しかし、目の前には社会福祉から漏れてしまった人がいました。本当に必要な人に機能してないんじゃないか。ここから社会福祉の見かたが一変します。

社会福祉士の本来の役割は、支援が必要な人達と社会福祉をつなぐことです。しかし、当時は、ホームレスを対象にするという人は殆どいませんでした。多くの人達が高齢者や障害のある方にしか関わりません。でもここに社会福祉のやるべき課題があるとおもって活動をおこなうようになったんです。

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ハウジングファースト

大西 中村さんも藤田君も「住まい」の問題、特にケア付きの住居にも取り組んでいますね。既存の制度では、一人でアパート生活をするために、その準備としてワンクッションおけるような場所、特にきちんとした生活支援をおこなえるところが少ないんですよね。一方で、「無料低額宿泊所」といわれる生活保護の方が入居する施設などがありますが、これらは、個室じゃなかったりと環境がよくないところが多いんです。貧困ビジネスも問題になっていますよね。

ほとんどの福祉事務所では、ホームレス状態など、住まいのない方が生活保護を申請しようとすると、「まずは施設に入ってください」などといわれます。でも、法的には「居宅保護の原則」というものがあって、その人が望めばアパートなどの安定した住まいが確保できるとされています。しかし、実際にはすぐアパートに入居させずに、まず施設に流すというのを暗黙のルールでやっています。

中村 「ホームレス」の方にとっても「生活保護」と聞くと、酷い環境の施設に入れられてしまい、搾取されてしまうようなイメージが定着してしまっています。でも、支援側からすると、「ここで耐えられないお前が悪い」となってしまいます。耐えられる能力がある人がアパートにいけて、耐えられないんだったら支援を受ける資格がない、それが現在の私たちの周りの福祉事務所で起こっている実情です。

でも、私は、それは逆だとおもっていて、そこで耐えられない人に対してはより環境の良い場所で手厚く保護すべきです。きちんと丁寧に関わっていくと、どんな人でもどんどん変わっていくのを私は見て来ました。だから自分たちで支援を始める段階で、ケアつきの住宅をつくりました。

大西 どうしても、最低限の「生存」のラインだけを考えがちです。でも「生存」でラインを引くと「生活」はできないんです。寝る場所があるといっても、隣の人と手がぶつかる距離にいたら、それは「寝れた」といえるのか。そういった施設で、例えば毎食からあげ弁当やインスタントの食品を食べて、それは「食べた」といえるのか。たしかに、生存は可能かもしれませんが、その人が社会の中で生きていくためには、逆に大きなハードルになってしまうんですよね。

中村 そうですよね。私は「ハウジングファースト(Housing First)」モデルを積極的に日本に広めたいとおもっています。これはアメリカで始まった支援モデルです。アメリカでは70年代からホームレスの増加が問題になり、80年代に彼らを収容するシェルターがつくられたんです。でも、それはシェルターに収容しただけなので、問題の解決にはなりませんでした。そこで出てきたのがハウジングファーストです。

それまでの支援モデルは、まずシェルターに入れ、就労支援をし、それができたらアパートにいきましょうというものでした。なにかの課題をクリアしたら良い環境を与えるというものです。

しかし、ハウジングファーストはどんな状態であろうと、本人が望めばすぐ家に入居してもらい、地域で支えていきます。そうした方が、費用対効果も高く、定着率も高いんです。アメリカではかなり成功しているモデルです。ヨーロッパでも取り組みが広がっています。

藤田 本当に成果が上がりますよね。家にまず入れることで、周辺の社会資源を整備できますから。一方、シェルターは入ってもすぐ移動してしまいます。なかなか社会資源を整える事はできません。

日本でも2004から2006年にかけて「ホームレス地域生活移行支援事業」というのがありました。月額3000円の家賃でホームレスの人に東京都の借り上げアパートを提供するという施策でしたね。東京都が福祉団体に委託したものです。賛否両論あるとおもいますが、アパートに入れた方が地域生活や就労の定着率が上がったのは確かです。

中村 一方で、その制度は生活支援も十分になく、期限付きだったという問題点もありましたね。

大西 これからは、単に「住まい」を確保するだけではなく、「生活していく」という視点にたって支援を継続していくことが求められていくのでしょうね。

入口ばかりが増えていく

大西 藤田さんは現在特別部会(「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会審議会」)の委員もされていますよね[*1]。

[*1] 本稿は2013年7月1日配信「α-Synodos vol.127」からの転載です。

民主党時代から、当時は「生活支援戦略」という名前で、2020年までの間に、生活困窮者支援の新しい枠組みを体系化しましょうという議論がありました。その中の一番の目玉事業が各自治体に総合相談窓口をつくってワンストップ(一括)で相談を受けようというものです。そこだけ聞くとすごくいいかなとおもったりするんですが、藤田さんは「福祉事務所が結局は入口で、ワンストップの役割を担っているんだから、そこを強化するべき」と発言していましたよね。

藤田 福祉事務所って、稼働年齢層というだけで生活保護を受けさせようとせずに突っぱねたり、生活保護受給世帯に、ちゃんと訪問していないところが多いんです。機能していないから、支援から漏れてしまう人がいるわけです。

そもそも福祉事務所が機能していないことが問題なのに、失敗しているから別の新しいものをつくろうとしています。失敗から反省せず、新しいものをつくることで解決した気になっている。本当は、反省をして問題点を改善していくという方向に舵を取らなければ、また同じ問題が出てきてしまうだけですよね。

中村 福祉事務所では、ケースワーカーも2・3年で変わってしまうので、どんなに信頼関係をつくってもすぐリセットされてしまいます。それに、個人差もすごくあります。熱意がある人もいれば、仕方なく来た人も沢山いて。やる気のない人がケースワーカーになってしまうのはお互いにとって不幸です。

そんな中、窓口を増やすことが実態を反映しているとはおもえないですね。総合相談窓口もいいんですが、入口ばっかり増えても……。それこそ、社会資源をつくっていくということも並行してやらないと、いき先がないと意味が無いようにおもいます。

大西 新しいものがすごく良くても、結局は既存のものにヒモづけられてしまうわけだから、既存のものが良くならないと動きがどうしても鈍くなりますよね。その辺のことが整理されないまま、進んでしまうんでしょうね。

藤田 そもそも、予算が絶対的に少ない。日本の相対的貧困率は16%あるんですよ。これに対して本気でなくしていきたいと考えるのであれば、介護保険並みの予算をつけて支援していかないと、成果は出ないとおもっています。

大西 今回はモデル事業で約30億の予算がつきますよね。

藤田 どの程度かは未確定ですが、相当少ない予算額です。本当ならば私たち支援者も「予算をつけるとこういう効果が出ます」と財政面も含めてデータを示しながら、予算をつけることの意義と、支援の意義を可視化していかないといけません。今は、社会保障は無駄遣いで、支援してもしょうがないでしょ。と、なっている風潮がありますから。

部会でも寄り添うように支援する「伴走型支援」をしていこうと話しているにも関わらず、結局は就労中心の自立支援をゴールにしていることに疑問をもちました。

生活保護を受けている稼働年齢層の多くがすぐには働ける状態でないことは、データを見ても明らかです。就労ありきで進めていくのは不可能です。半分就労、半分福祉だとか、いろんな自立の形態を模索しないといけないんだけれども。結局は、生活保護からの脱却や廃止を目標にすることが掲げられてしまっているように感じます。

大西 「生活保護受給者が怠けている」というのは、データに基づかない印象論の議論ですよね。

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