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ベネッセに学ぶ - ホールディングス体制の危うさ

『会社名に”ホールディングス”が付く会社は慎重に見た方がよい』と以前にコメントしたが、今回のベネッセ・ホールディングス(HD)による顧客データの流出騒動はこの法則にピタリと一致する事例と言えるだろう。

この話題はセンシティブな時期にあるので、すべてを語ることは控えたい。ただ、外部から企業を観察する一投資家としては、ノーサプライズというのが正直な感想である。そのくらい同社のガバナンスはザルであるという認識を持っていた。

最初に違和感を覚えたのは今から3年ほど前であった。ベネッセの成長ドライバーであった中国の「こどもチャレンジ」(楽智小天地)の成長率が、僅かに期待を下回り始めていた。その後、私の情報網から同事業の現地での評判があまりよろしくないという報告も上がってきた。

私はこれらを受けて、ホールディングスの経営陣に会う度に中国事業の進め方や、責任者の仕事ぶり、現地の事業パートナー(福利会)との関係等について多くの質問を投げかけたが、毎度満足のいく回答は得られなかった。


やがて、同じようなことが「ベルリッツ」でも生じ始めた。また、有価証券報告書に、小規模ではあるが理由がよくわからない投資案件が散見されるようになり、その都度説明を求めたが、クリアにはならなかった。経営陣は白を切っているというよりは、本当に現場の状況を把握していないように思えた。

そうこうしているうちに、主力事業である「進研ゼミ」にも暗雲が立ち込めてきていた。私は米国の教育業界において、ITによるイノベーションと価格競争が始まっていることを肌で感じていたので、ベネッセの経営陣にそれを問うたが、まともなディスカッションにならなかった。

これらのことが重なり、その他の重要な周辺情報と合わせて考えるに、創業家、社長、副社長という、「福」から始まる3名のキーパーソンの指導力・ガバナンス体制・先見性等が、投資対象としての基準に達していないという結論に至った。今から2年ほど前の話である。

ホールディングス体制の問題点はグループの傘下の事業会社に権限委譲をしてしまうことで、経営のグリップが効かなくなってくることにある。普通の事業会社における部長は、ホールディングスの場合には傘下の子会社の「社長」になる。

機能的には部長と同じでも、「社長」という一国一城の主であるという事実が、グループ経営の障害となることが多い。「社長」が実力のあるリーダーであれば現場の求心力が高まり有効だが、そうでない場合、都合の悪いことは上には報告しないようになる。

ホールディングス側としても、権限委譲して一方面を任せた人物の報告を全面的に信じるしかないというバイアスがかかる。仮に数字が思わしくなくとも、性善説に基づき「きっとベストを尽くしているはず」という前提で管理をしているため、事態が取り返しのつかない状況になるまで立ち入ることはできなくなる。

ベネッセの場合も完全にこれに当てはまる。ホールディングスが問題のある事業会社の社長を交代させる頃には、致命的な事業の失敗が露見した後であり、結果責任を取るかたちで、ホールディングスの経営陣もまた会社を去る。こうしていつまで経っても効果的なガバナンス体制が構築されないまま、同じことを繰り返す。

原田新社長にとっては、就任早々の災難であったが、私から彼にアドバイスがあるとすれば、自身が組織を採点する「赤ペン先生」になるということである。子供(事業会社)を励まし、時に道を外れればそれを修正し、支援する。ベネッセが信頼を取り戻し、不の連鎖から脱するためには、真のコーポレート・ガバナンス体制の構築から始めるしかないだろう。

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