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投信乗換営業~「成果主義」と「ベンチマーク運用」の産物

「金融庁は一つのテーマを業界横断的に検証する『水平レビュー』を初めて実施した。今回の対象は投資信託の販売上々だ。銀行での投信の窓口販売は1998年に解禁された。収益の柱の一つに育つ一方、販売手数料を優先した営業が多く、顧客目線を欠いているのではないかという問題意識が金融庁にはある」(15日付日本経済新聞「変わる金融検査 投信販売、見直し迫る」)

金融庁は、政府自らが「貯蓄から投資へ」という旗振り役を担っていることもあってか、大手信託銀行による「顧客目線を欠いているのではないか」といわれる投信回転売買などに強い警戒感を抱いているようです。

「個人の投信保有期間は13年度末時点で平均2年。09年度から1年近く短くなった」(同日本経済新聞)

金融庁と日本を代表する経済紙は、投信保有期間が短期化しているのは、販売会社の「乗り換え販売」によるものだと考えているようです。しかし、現実問題として「回転売買は好ましくない」といくら叫んだところで、問題解決にはなりません。何故なら「回転売買」を生む要因は、販売会社側と、運用会社側の両方にあるからです。

販売会社側の理由は、この記事で紹介されている「大手銀の女性営業員からは『販売を増やさなければ生活できない』と切実な声がある」というところからも分かるように、「投信の販売額に比重を置いて営業員を評価している」という問題です。アベノミクスが「成果主義」による「生産性向上」を目指す限り、こうした矛盾を排除することは出来ません。投信販売の「成果主義」における矛盾に関しては、先日の記事「投信、乗り換え販売増 ~ 矛盾する『販売額重視から預かり資産残高重視への転換』と『成果主義』」で詳しく紹介しましたので、そちらを読んで頂けたらと思います。

「乗り換え販売」の問題でほとんど触れられていないのは、運用会社側の理由です。

それは、「貯蓄から投資へ」のなかで中核的な地位を占める投資信託は、「運用商品」でありながら、実際は「販売商品」になってしまっているというところです。

投資信託の多くの商品は、株価指数など特定のベンチマークに連動するような商品設計になっています。そして、連動させるものを国内株式にしたり、外債にしたり、REITにしたりすることで、商品としてのリスク量や分配金の規模などが異なる商品を提供して来ています。つまり、投資信託のリスクは、連動させるベンチマークのリスク量によってほぼ決定しており、ファンドマネージャー-がコントロールしているわけではありません。

例えば、日経平均株価のリスク量(ボラティリティ)は、大雑把にいって20%程度ですから、「高位組入れを原則とする」ことを謳っている公募投信のリスク量も概ね20%前後ということになります。リターンの源泉はリスクですから、仮に年間6~8%程度のリターンを欲している投資家が公募投信を利用したとすると、期待するリターン(6~8%)の3倍程度のリスクをとらなければならないということになります。

投資家の期待リターンとベンチマークのリスク量が同水準であるのであれば問題ありませんが、ミドルリスク・ミドルリターンを目指す投資家にとっては、多くの公募投信のリスク量は、期待リターンに対して高過ぎるというのが現状です。

ファンドマネージャーはベンチマークに連動する(若干のプラスを乗せる)ことを目指して運用(現実は管理)しており、ミドルリスク・ミドルリターンを望む投資家のためにリスクをコントロールしてくれることはありません。ですから、投資家自身が、市場のリスク動向に応じてリスクコントロールをしていく以外にないわけです。それは、自分の期待リターンに対して過剰なリスク量を持っている投資信託を(一部も含め)売却するという投資行動となりますから、投信の保有期間の短期化に繋がっていくことになります。

投資信託の「乗り換え販売」が後を絶たないのは、販売会社の「成果報酬」体系とともに、公募投信のリスク量をファンドマネージャーがコントロールしてくれないがために、投資家自身でリスクコントロールを行わなければならない状況にあるということを無視してはならないと思います。

2014年から登場し、「貯蓄から投資へ」の切り札としての期待を集めているNISA。その弱点として「損益通算が出来ない」ことが指摘されています。損益通算が出来ませんから、NISA口座向けの公募投信にはリスクが高くない、損失額が大きくならないような商品が選ばれています。

「損益通算が出来ない」ことに対しては、投資家にとって使い勝手が悪いという批判もあります。しかし、投資信託という商品が、プロの投資家として一般投資家に代わってリスクをコントロールして行く必要に迫られるということは、これまでリスクもリターンもベンチマークに連動させてればよかった運用会社の運用能力、リスク管理能力を上げて行くためには望ましい制約条件だと思います。

NISAに「損益通算」を認めてしまえば、運用会社はこれまで通り、リスクもリターンもベンチマーク任せという受け身の運用に安住し続けることが出来ますから、今後も運用能力や、リスク管理能力が向上することは期待出来ません。運用能力もリスク管理能力も低い運用会社が運用する公募投信が蔓延り続けるという事態こそ、「貯蓄から投資へ」の大きな障害になることです。

「必要は発明の母」というように、運用会社が一般投資家に代わってリスクをコントロールして行く必要に迫られ、運用会社の能力を向上させることこそ、「貯蓄から投資へ」を実現するための第一歩のはずです。問題は、投信業界がこのように捉えることが出来るかというところです。

「成果主義」で「生産性向上」を目指す販売会社と、リスクもリターンもベンチマーク任せにするだけの運用会社が提供する公募投信。こうした現状の組合せにメスを入れて行かない限り、「貯蓄から投資へ」が実現することは期待できません。

金融庁が「乗り換え営業」の見直しを図ることは結構ですが、一般投資家が「乗り換え禁止」という表面的な目的を達成するために、リスクもリターンもコントロールして貰えない商品の「長期保有」を迫られるという最悪の事態を押付けられることのないよう、十分に配慮して頂きたいものです。

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