- 2014年07月17日 07:17
派遣社員逮捕で検証すべきは「働き方」
ベネッセが持つ膨大な数の親子の「個人情報」が盗まれ、名簿業者に売られていた事件。
ベネッセコーポレーションの顧客データベースの保守管理を担当していた外部業者の派遣社員の男について、警視庁は逮捕状を請求した。17日中にも逮捕される見通しだ。
情報を盗んでいた「30代の男」が逮捕される。ぱっと記事を読んでも分かりにくいが、この男はどういう人物なのか。
報道する会社によって表現は違うが、
ベネッセの「下請け業者」、あるいは
「外部業者」の
「派遣社員」で、SE(システムエンジニア)だという。ベネッセが同社のキャラクターである「しまじろう」などの絵がついた雑誌などを通じて集めた「個人情報」を密かにコピーし、外部に漏らしていたという犯罪は重大だ。それぞれの子どもがいくつで、住所はどこで、誕生日はいつか、という情報が漏れていて、すでに外部の名簿業者の手にわたっているのだから。
今後は、それぞれの企業が集めた「個人情報」をいかに守るか、漏らした場合のペナルティをどうするか、など、罰則強化の議論が行われることは確実だ。
他方で、今回の事件の問題で、このまま行くと抜け落ちそうな視点があるので、ここで指摘しておきたい。
それは、個人情報を盗んだ犯人の「働き方」の問題だ。
「派遣社員」。
1986年に労働者派遣法が施行されて以来、派遣労働は急速に拡大する一方だ。
2000代後半に、派遣労働の様々な問題点が目につくようになった。
ネットカフェ難民などの社会問題の背景に日雇い派遣の拡大があった。
2008年には自動車工場の派遣労働者が東京・秋葉原で無差別殺傷事件を引き起こした。
日雇い派遣の最大手だったグッドウィルが二重派遣などの海運荷役など許されない形の派遣を行っていたことが発覚し、けっきょく廃業に追い込まれた。
それらがきっかけとなって、派遣労働について「規制緩和」が行き過ぎていたのでは?という反省が社会全体が共有するものとなって、労働者派遣法を改正して日雇い派遣の原則禁止など、これまで一貫して緩和され続けてきた規制をほんの少し強化する方向に政策がシフトされた。
ところがである。
政権交代で、労働の分野の規制緩和路線を掲げる自民党・安倍政権の下、
派遣について、再び「規制緩和」の方向で法改正がなされようとしている。そういう矢先に起きた、「派遣社員」による犯罪だということは注目しておいた方がいい。
私はここで「派遣社員」であることが事件の元凶だとか、決定的な要因だと言おうとしているのではない。
しかし、同種の事件を防ぐために、容疑者が逮捕された段階で、報道機関がその「働き方」を検証すべきだと考えている。
一般的に、正社員に比べると、派遣社員の方が自分が実際に働いている職場(派遣先企業)への忠誠心や一体意識を持ちにくい。
(もちろん、なかには強く持っている人もいることは承知しているが、あくまで一般論として、だ。)
そうなると、一生その職場やその企業で働く可能性が強い「正社員」よりも、その現場での労働も「一時的なもの」と考える意識も芽生えるだろうと思う。
そういう、ベネッセへの一体意識の欠如が、今回の「30代の派遣社員」にはなかったのか、検証すべきだ。
そして、それがその職場でどのように生み出されたかもー。
今やどこの業種の会社に行っても派遣社員だらけの状態だ。
そうした中で、どこまでを「派遣社員」に触らせ、どこからが「社員」じゃなければ触れないようにするか、という情報管理をどう区分するかは難しい。
たとえば、筆者が長く働いていたテレビ局という業界でも、一般の視聴者や取材相手の連絡先などの情報にまず最初に接するのは、実は「社員」よりも「派遣社員」の方が多いのが普通だ。
取材をするのも「社員」よりも「派遣社員」が多い(取材という行為の絶対量でいえばそうだろう)。
番組への情報提供や感想などを寄せてくれた視聴者についての情報も、「社員」よりも「派遣社員」が接する機会が多い。
もちろん、会社としても「個人情報の保護」については、厳しく注意を呼びかけていて、情報の保護、管理、廃棄をどうするかは、個人情報保護のための「研修会」や「パソコン上での研修」などを通じて時々実施している。
その対象は、社員も派遣社員も等しく行っている。
でも、今回の容疑者のように、派遣社員が「確信犯」で情報を盗もうとした場合はどうなるのか?
従来の研修会などでは、実は防ぎようがない。
その会社への忠誠心などで一体感が薄い派遣社員について、どう対処するかは本当に難しい。
同じフロアで同じ職場なのに、パソコン作業でも「派遣社員が見ることができる画面はここまで」「これ以上は社員じゃないとダメ」などという区別をすると、働く当事者にとっては非常に感じ悪い。ギスギスしかねない。
今の政府は、労働者派遣法で規制緩和路線を取っているけれど、実は派遣労働の拡大でこうした個人情報の保護をどうするかという視点はまったく議論の対象にさえなっていないのが現状だ。それだけない。
今回の逮捕状が出ている容疑者。
派遣社員というだけでなく、仕事がSE(システムエンジニア)だという点もポイントだ。
正社員であってもSEという仕事は、長時間の一人作業の労働が多く、かつ、精神的にうつなどの病を発症する場合が少なくない、というのが筆者が「ブラック企業」の問題などを取材してきた実感だ。
SEをたくさん雇用する職場は一般的にいわゆるブラック企業が少なくない。もうじき、容疑者が逮捕されて、その素顔や所属企業名が報道で明るみに出るに違いない。
その報道では、ぜひ容疑者の「働き方」にも注目して、各社の報道をチェックしたい。
犯罪の背景には、必ず「働き方」の問題がある。
それをぜひ明るみに出してほしい。
(こういう原稿を書くと、必ずと言ってよいほど、「派遣だから、罪を犯していいのか?」とか「派遣社員がみんな犯罪者になっているわけではない」と言って、働き方の議論をしようとしない人が出てくる。秋葉原事件でも結局そうした議論になって、国民全体としては議論の深まりはなかった。私は「働き方」が犯罪の唯一無二の理由だと言っているわけではない。「要因のひとつ」であるのかないのかを検証する必要があると言っている。見落とされがちな「働き方」の問題や社会全体の流れを頭に入れて事件を見ようとしないと、事件をその当人が犯した問題として片付けて「思考停止」に陥ってしまう。そのことが何より恐い。)
※Yahoo!ニュースからの転載


