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生きることを通じてしかできない発見 ―― 「困ってるひと」のタンスの引き出し ‐ 『シャバはつらいよ』著者・大野更紗氏インタビュー

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誰にでも手に取ってもらいたい

―― そういう反応は実際にありましたか?

そうですね。『困ってるひと』で、圧倒的に多かった反応は「実はわたしも!」でした。患者さんが「言えなかったこと」っていっぱいあったのだなあと、『困ってるひと』を出版した後にいただいたお便りやメールで知りました。

―― 『シャバはつらいよ』は違いましたか?

『シャバはつらいよ』も、私と同じような難病患者さん、そしてその周囲の反応はたくさんありましたが、もっといろいろな困ってるひとたちが多かったです。例えば、精神障害をお持ちの方、発達障害の人、親御さんの介護をしている人とか、介護職や福祉施設で働いている人……。なんらかの形でケアをしていたり、されている人の反応が『困ってるひと』に比べて多くあったように思います。

うーん、でも、私は読者層や反応とかは文章を書いている時は意識しないので、あんまりわからないですね。

―― 意識しないんですか? 意外です。

「こういう人に届けたい!」って書くわけじゃないから。ごく単純で、読んでくれている人に「おもしろい」と思ってもらいたい、それのみです。

『困ってるひと』の取材でもよくお話したんですけど、ちょっと本が読める中学生から、70、80歳のおじいちゃんおばあちゃんまで、特別な知識とか社会関心がなくても、読み物としておもしろく、誰にでも手に取ってもらえたらいいなと思いながら書いています。

――『困ってるひと』よりもさらに読みやすくなっているので、強く意識されているのだと思いました。というのも使われている言葉が今まで以上に身近に感じたんです。「ナントカカントカ」って難しい医学用語が減って、普段の生活で使うような言葉が増えていて。「どうして同じカギを使うのに、家の鍵穴はふたつあるんだ……つらい……」なんて、「あるある」と思いながら読みました。

全然意識していませんでした(笑)。私は、たぶんですけど、「自分の作品はこんな風に作り込みました」「こんな意図があるんですよ」ってタイプの書き手ではない。読んでくれた人が「こういうことですよね!」とか「こう思いましたよー」って感想を話してくださって、「ああ、そうなのかもしれないなあ」って書いた後で思いかえすタイプの書き手なんですよね。

だから、『シャバはつらいよ』は、『困ってるひと』で医療的なものに目が行っていた自分が、もう少し社会全体とか、市井の生活感みたいなところに近づいているのかもしれないです。

困ってるひとたちの意識の地域間格差

―― 困ってるひとたちを取り巻く社会環境ってどんな風に変わっているんでしょうか?

いろいろな捉え方はあると思いますが、メニューは増えました。社会制度の選択肢は増えたし、障害者総合支援法も施行されて、関連法も整備が進み、障害者権利条約も批准されましたね。東京に限った話ですけど、福祉サービスについては、選択の幅や量は悪くはなっていないと感じます。

でもこれは東京に限った話です。大学院生として、地方に住んでいる患者さんの生活実態をヒアリング調査すると、厳然とした地域間格差があることがよくわかります。それは、サービスの量とか種類とかだけじゃなくて……。たとえば宮城県で難病に対応できる病院は、主には仙台市に集中しています。すると県内の患者さんだとしても、病院までものすごい遠距離移動をしなくちゃいけない。

―― とんでもないお金と時間、労力がかかりますね。

それだけじゃなくて、社会サービスを利用する意識にも違いがあります。一言目はまず、「大丈夫ですから」から始まります。サービス利用について、意識の地域間格差があるんですよ。

初めてインタビューするときが一番緊張しますね。自分を試されてるような気持ちにもなる。患者さんは「困ってることなんて、あまりないですよ」ってずっとお話になるんですよ。

そうして一時間くらい話を聞いていて、「これとこれって大変そうですけど……」と少しお尋ねすると「言われてみれば確かにそうかもしれないなあ……でもうちらは難病患者だから、こんな社会制度使えないよ」という回答がようやく返ってくる。社会サービスを使うことを前提として諦めている状況がある。

都道府県や市区町村の現場の方々が、努力していないとは言いません。めまぐるしい制度の改定のただ中で、よく、ここまでもたせてくださっているとも感じます。ですが、難病については新しい制度について周知や認知はまだまだ低いですし、当事者の方は「傷ついた体験」を持っていることが多いです。

一番困ってるひとの声を伝えたい

―― いまの大きな課題ですか?

いま気になっているのは、社会にいる難病に限らないありとあらゆる困ってるひとたちが、忸怩たる思いを抱えていても、社会システムの変革に繋がるようなチャンネルがない状況です。

―― 困ってるひとたちの声を社会に届ける場がない?

患者会に入るとか、地域の活動に参加するとか、そういうことはあります。でも、本当に深刻な状態に陥っている患者さんは、それすらもできないんです。患者会の集まりがあっても、そこに行くことすら難しい。一番困ってるひとは、待っているんじゃなくて、こちらから探しに行かないと見つからないんです。

そういう人たちは本当にたくさんいますし、そして変えたいというエネルギーを確実に持っているんですけど、それを社会に繋げる回路が、いまはまだないんですよね。

―― どうしていままでなかったんだと思いますか?

「社会変革」って日本はハードルが高いですよね。たとえばロビイストになるにしても、プロフェッショナルな側面がある仕事ですから、現実では限られた人にしかできません。NPO法人を立ち上げるのだって、実際にはそれなりに難しいことです。特に、困ってるひとたちが、思い立っていきなり取り組むには往々として何事もハードルが高い。

普段から地元の議員さんに陳情しに行く人はさておき、いまから議員さんの事務所に訪ねて、お願いをしにいくのは、ただでさえ社会から切り離されてしまっているひとにとっては……。

―― 怖いですね。

そうそう。日本って政治に関与・参与したいって思っても、方法があんまりないんです。私も難病政策の提言をしたりしていますが、ああいう現場ってやっぱりエリート主義的というか、政策論議に対して反射神経の速度が高い人のほうが使い勝手がいいですから、そういう人の声が結局、融通されてしまうところがあるわけですよね。

本当に声の出せない人たちの状況を、代弁するのではなくて、できる限り伝えに行く。できれば、ご本人たちに引き渡す。それができたらいいな、といまは思っています。

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