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- 2014年07月16日 08:03
「日中関係史1972−2012」出版 その2―日中関係 笹川良一からの系譜―
2/3軍人交流という難事業
もっとも、うまくいった事業もあれば、うまくいかなかった事業もあります。人民解放軍と日本の自衛隊との交流は、前者のケースです。
世の中には、「軍人とは好戦的な人だ」といった誤った考え方が流布しています。ところが、軍人は一番死にたくない人たちです。どの国も文民統制をしていて、文民が「戦争をしよう」というから、仕方なく戦場に赴かなければならないだけなのです。
日中関係を眺めてみたとき、最も距離が遠かったのが軍関係者でしたから、人民解放軍と自衛隊の交流を進めようと考えました。これだけ近距離にいながら、お互い相手のことをまったく知らないのですね。統合幕僚長や人民解放軍の総参謀長レベルでは、儀礼的交流はありましたが、互いの基地を訪問したり、相手国の農村部や社会を見たり、といったプログラムはありませんでした。
中国は中国で、反日教育一辺倒で育ってきていますから、最初に日本に来られた時はびっくりしたようです。兵隊に溢れた軍事国家日本のイメージを抱いてきたのに、「街に兵隊がいないのはどうしてか、みな私服に着替えているだけなのか」と聞かれ、こちらが当惑したものでした。日本は日本で、中国がこんなに発展しているとは考えてもいなかったようで、10日間程度の交流は互いにとって非常によかったと思います。
中国人民解放軍が発行している『解放軍報』という新聞がありますが、そこの記者が同行され、日本での見聞を広めたのですが、後に「今まで私たちは、間違ったことを人びとに教えてきた。中国には資料がないので、こういったものだと思って教育してきたけれど、日本にやってきて率直に反省した。私たちは日本の正しい姿を伝える義務がある」とまでおっしゃいました。その方は、その後娘さんに「お金を出すから日本に行って勉強してきなさい」と言ったようですが、娘さんは「お父さん、簡単に転向してしまったのね」と言い返し、いまだに日本に来てくれないと笑っておられました。
トラック2の重要性
私は、トラック2という考え方を重視しています。
政府間レベルでは、緊張関係が高まれば、国家の威信もあれば、置かれた政治指導者の立場もありますから、関係が悪化するのです。その点、私たちのような民間が絡むことになれば、リスクが減ります。トラック2、正確にはトラック1.5というべきでしょうが、これもこうした困難な時にこそ交流をするのが大切だという発想に基づいています。
上述の軍人交流は、単に軍事施設を見るだけではなく、お互いの社会、最新鋭の工場もあれば農村見学もある。この交流は、軍人がお互いの国の社会全般を理解する上で大きな効果があり、中国政府においても高い評価をしたプロジェクトでした。中国の潜水艦が日本の領海に侵入した時にも、小泉首相の靖国参拝の時にも、交流は続けられました。
こうした困難な時期にあっても、直接対話をするルートをもっていたことで、私たちの活動は国際的に高く評価されてきたのですが、残念ながら、中国で軍部指導者の交替があり、尖閣問題で、「交流を延期したい」という書簡が送られてきました。「こうした時だからこそ、交流すべきだ」と思いましたが、うまくいかず、結局、私たちはこのプログラムを廃止することにしました。
大変残念な結果ですが、時期が来ればプログラムを組み直し、また交流を進める必要があります。トラック2を維持するのは大切ですし、中国海軍によるレーダー照射事件が起こりましたが、日中間で「この一線を越えてはならない」という内々の秘密合意を持っておかないことには、大事件に繋がってしまう恐れがあります。
世界の歴史を見るとわかるように、隣国同士の関係が良好なところはありませんし、どちらかの国家が消えるようなことが多くありました。ところが2000年の長きにわたり、中国と日本の交流は世界史的に見ても、例外的にうまくやってきていると思います。
地政学的に見ても、切っても切れない隣国としての関係は、今や互いが重要な貿易相手国となり、経済的には相互補完関係にありますから、日中関係は、政治家や国家の思惑だけではどうにもならない、「いい状態」に置かれていると思います。いくら中国ががんばっても、日本との協調的な関係がなければ中国の経済成長はありえませんし、日本の食料や衣料の多くは中国からやってきています。
国民レベルでは、こうした相互補完関係が出来上がっていますが、一方で政治的に、近親憎悪的な心理もある。こうした状況にあって最も避けるべきは、互いの民族主義を煽ることです。冷静に対処すべき時に民族主義を煽ると、悲劇が起こる可能性があります。
中国の若者は、近代史の一部にばかり目がいっています。これは中国共産党が、日中の近代史の一部を切り取り、拡大して国民に見せている、いわゆる反日教育に徹せざるを得ないところに原因があります。私は、そこに中国の限界があると思っていますが、ともあれ、これを突破できたときに、日中関係は本当に良好な関係となるでしょう。
強圧的な体制は長続きしない
ここ最近、中国では「物言う民」が生まれてきており、日本政府や中国政府に強硬な物言いをする人たちが出てきていますが、これは健康な状態だと思います。
とはいえ、中国の対日世論が硬化しているのは、中国共産党が繰り返し行ってきた反日教育の結果と理解することもできます。子々孫々までの日中友好を謳いながら、テレビを含めて過激なまでの反日教育を進めざるを得なかった「咎め」が、こういった形で生まれてきているのです。
国家は「柔構造」の方が健全です。多様な意見、多様な組織を受け入れるには、一種の柔らかさがなければなりません。ところが現在の体制は非常に硬直して、不満分子を頭から押さえつけようとしています。
私は現在の体制は、鄧小平さんに会って以来、最も強圧的な政権だと考えています。不満分子があっちこっちで、いろいろと不満を述べてくれていた方が社会はある意味健全であり、安定は保たれるはずなのですが、政治体制としてこうしたことを許すことができないのでしょう。
世界史を紐解いてみればわかるように、開明派はいつも少数派です。日本海軍もそうでしたし、北朝鮮や中国にも開明派はいます。ところが開明派は「すぐ海外と安易に話し合いをする売国奴」と批判され、国内的には民族主義の方が強くなるといった構図が広く見られます。そして、これが常に騒動のもとになってきました。今や中国は世界の超大国になりました。グローバリゼーションのこの時代、世界あっての中国であり、決して中国あっての世界ではありません。
中国では、温家宝さんも胡錦濤さんも、何度も海外に行って、世界がどのような状況かよく知っています。グローバリゼーションの時代、経済を含めていろいろな一体化が進んでいますから、一国だけで生きていくことなど不可能なはずなのに、ほとんどの中国人は、中国以外のことは知らず、反日教育を受けていますから、そこから一歩も出られない。そのため民族主義が力をつけてしまうといった、悪循環が生まれてしまっています。
本当は人びとがある程度言いたいことを言った方がガス抜きできるのに、今の政権は都合の悪いことを言った者を虱潰しに弾圧し、中国は国内的に非常に緊張した状況に置かれています。



