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カレー、チンして食べたら治りました――スプリング・躁鬱・スーサイド! / 坂口恭平×末井昭×向谷地宣明

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主人公は記憶がなくなるので、必死に刺青とかを入れて未来の自分に記憶を残そうとする。そんな風に、次は右に曲がれだとか、将来の自分に書いておかないと。

向谷地 うつ病の時は記憶がないと本では書いていますよね。

坂口 事物の記憶はあるんですよ。ただ、感情記憶が失われるんですよ。今日のトークショーのことは全部覚えてるけど、どういう気持ちでトークショーをしてたのかは失われてしまう。

鬱状態になると、悪い記憶がすべて吸着されます。昔失敗した記憶なんかと結びついて、3人くらい嫌な奴に睨まれていたとか、そんなことを思い出してしまう。

今、僕は多少上がり気味なのですが、躁状態になりきると、すべての人間が今日は楽しんでいるんだと誤解してしまうわけですよ。それは誤解ですよね。極端なんです。自分だけを疑えって僕は決めてます。

「カレー、チンして食べたら治りました」

向谷地 「誤作動」という言い方は、べてるの家でもするんですよ。もしかしたら、偶然の一致かもしれないですけれども。基本、精神疾患というのは、五感にいろいろ変調が出てきて、幻聴とか幻視もそうですけど、基本、誤作動だらけなんですよね。

末井 べてるでは、「幻聴さん」と呼んでますよね。2000人の幻聴さんがいる人もいるとか。

向谷地 そうです。誤作動に名前をつける。幻聴の他にも、触られてないのに触られたとか、叩かれてないのに叩かれたとかそういった誤作動もあります。

「死にたい」と思うのも誤作動です。患者さんに「死にたい」と言われたら、「あっ、それは誤作動だな」と僕たちは受けとめるんですよ。「今日は、なんの誤作動だと思う?」って聞くことにしています。そしたら、「う~ん、あれかな、これかな」と本人は言うんですが、「ところで、ご飯食べた?」って言うと、「朝から何も食べてない」って返ってきたりして。

「じゃ、何か食べてみたら?」と言って家に帰したら、「カレー、チンして食べたら治りました」って電話がかかってきたり。つまり、「空腹誤作動」だったわけです。ただ空腹なんだけども、「空腹」ってサインをなぜか本人が「死にたい」と感じてしまう。

坂口 僕も、夫婦で喧嘩がはじまったときに、「ちょっと待て、フーちゃん!」と。「この展開は覚えがあるぞ」って。「おそらく俺らは餃子を食べたら治るはず」って。そして、治るんですよ(笑)。

向谷地 夫婦で誤作動を起こしてるんだ。

坂口 そうそう。すぐに感情とか揺さぶられるので。僕はいつも、「メカニックな方向に行け」って言うんですよ。ヒューマニズムの方に走ったら、ろくなことにならないので。

ヒューマニズムに目をむけたら、死ぬ! 情死! 心中! みたいな勢いになってしまうんですが、たぶん人間ってもっとメカニックですよね。

(後編へ続く 本記事はα-Synodos vol.152号から転載です。)

(2014年4月 末井昭『自殺』×坂口恭平『躁鬱日記』発売イベント「スプリング・躁鬱・スーサイド!」(UPLINK)第一部より、一部抄録)

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坂口恭平 躁鬱日記 (シリーズ ケアをひらく)
著者/訳者:坂口 恭平
出版社:医学書院( 2013-12-09 )
定価:¥ 1,944
Amazon価格:¥ 1,944
単行本(ソフトカバー) ( 296 ページ )
ISBN-10 : 4260019457
ISBN-13 : 9784260019453

末井昭(すえい・あきら)
編集者

1948年、岡山県生まれ。工員、キャバレーの看板描き、イラストレーターなどを経て、セルフ出版(現・白夜書房)の設立に参加。 『ウイークエンドスーパー』、『写真時代』、『パチンコ必勝ガイド』などの雑誌を創刊。2012年に白夜書房を退社、現在はフリーで編集、執筆活動を行う。主な著書に『素敵なダイナマイトスキャンダル』(北栄社/角川文庫/ちくま文庫/復刊ドットコム)、『絶対毎日スエイ日記』(アートン)、『純粋力』(ビジネス社)、『天才アラーキーの良き時代』(編集、荒木経惟氏著、バジリコ)、『パチンコからはじまる○×△な話』(山崎一夫氏、西原理恵子氏との共著、主婦の友社)がある。平成歌謡バンド・ペーソスのテナー・サックスを担当。

画像を見る 坂口恭平(さかぐち・きょうへい)
作家・建築家・画家・音楽家
1978年熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。作家・建築家・画家・音楽家。路上生活の達人の生活を記録した『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)で注目される。2011年5月に独立国家を樹立、新政府総理に就任。その経緯と思想を綴った『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)がベストセラーに。自らの躁鬱病体験を当事者研究した『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)を刊行し話題を呼ぶ。最新作は『坂口恭平のぼうけん 第1巻』(土曜社)。

画像を見る 向谷地宣明(むかいやち・のりあき)
「浦河べてるの家」理事

1983年北海道生まれ。北海道浦河町の社会福祉法人「浦河べてるの家」理事で北海道医療大学教授、向谷地生良氏の長男。生まれた頃から、べてるの家の精神障害を体験した当事者達と共に育った。国際基督教大学卒業。べてるの商品を扱う株式会社エムシーメディアンの代表取締役。当事者研究のワークショップを各地で主催するほか、各地域の家族会や当事者会活動を応援している。

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