記事

医学部の差別化が進む?2023年問題

記憶に新しいところに2000年問題というのがありました。1999年から2000年に変わるときに、コンピュータが誤作動して大変な事が起るのではないかと言われた問題です。莫大なお金が投入されて(そのおかげかどうかわかりませんが)事なきを得、まさに「大山鳴動して鼠一匹」とう感じの事件でした。さて、今度は2023年問題です。これは日本の医大関係者の間で大騒ぎになっている問題です。私はいつも情報には疎く、これを知ったのもつい最近の話ですが、もう四年前(2010年)からの懸案事項だそうです。

外国医大卒業生がアメリカで研修するためにはECFMGという機関に認定してもらう必要がありますが、そのECFMGが「2023年以降は、世界医学教育連盟(WFME)で認定された医大の卒業生しかECFMG認定の対象としない」と2010年に発表しました。2023年問題はそこに端を発しています。「あー、そーですか」と感じですし、「それがどーした」とも思います。何と言っても、先進国であり、長寿国でもある日本の医学教育が、世界基準に達してないとはとても考えられませんから。

ところが、驚くべき事に日本にはWFME認定医大が一校も無いのです。ということは、2023年以降は日本の医大を卒業しても、アメリカで医学研修を受けたり、医師として働く事はできないというわけです。「アメリカで研修なんて考えてないからそれでも関係ないね」と言う声も至極もっともです。私も学生時代はECFMGなど雲の上の人がとる資格で、自分にはまったく関係ないと思っていましたから。

しかし、日本の医大関係者は事の重大さを敏感に察知して、対策を立て始めています。何がそんなに重大かというと、今後WFMEに認定された医大かどうかで、大学の序列化が進む可能性があるからです。国際化の流れの中で、受験生たちが「国際規格の進路(WFME認定医大)を選ぶようになる」と想像するに難くありません。すると非認定の医大は、あくまで「国内向け医大」として二流校に転落してしまう可能性があります。この問題を解決するには、2023年の卒業生が医大に入学する2017年までにWFMEに認定されている必要があるので、あと三年しかありません。日本の医大関係者が焦るわけです。

日本の医学教育カリキュラムは欧米諸国に比べ臨床実習期間が短く、医学生の扱いも「見学者」の枠を超えないため、医学教育の「質」を重視するWFMEの認定を受けるのは現状のままでは不可能と思われています。「アメリカ基準のカリキュラムを組めば、WFMEも文句ないはずだ」ということで、日本の多くの医大が、アメリカの医大を手本にして教育カリキュラムの改正に乗り出しています。一番の変更点は臨床実習です。

たとえば、カリフォルニア州の医師免許取得条件は、72週以上の臨床実習を修了していることですが、一年間に52週しか授業週数の無い日本の医大では、これまで通り一年間だけで臨床実習を終わらせるわけにはいきません。それで、急いで72週規格を作ろうとしているわけですが、臨床実習が二学年に渡る事態になります。そうすると、一学年100人の医大であれば、二学年分の200人が一気に臨床実習に出る時期が必ず出てきます。(http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02989_01)今までの実習生数の二倍ですから、大学病院だけではさばききれません。市中関連病院などの協力が必要です。実習時間が長くなっても講義時間は減らせませんから、最初の二年間の教養課程を削って医学教育に充てないとダメかも知れません。WFME認定を勝ち取るためには、形式だけでなく教育の「質」も問題です。質の良い教育者を確保できるでしょうか。アメリカのように医学生をMedical Clerkとしてチーム医療の一員に組み込むのでしょうか。

だとしたら、医学生の医療過誤保険は誰が払うのでしょうか。医学教育全体を再構築する大手術が必要で、私などはちょっと考えても頭が痛くなりまが、日本の医大関係者の方々は、この変化に対応するため着々と準備を進めておられます(本当に素晴らしい!)。

私の頃は、医学生は病院で完全にお客様(見学者もしくは邪魔者)でした。臨床実習の前にガイダンスも何も無く、聴診の仕方も分からないまま病棟に放り出されました。いてもいなくても良い状態だったので、二日酔いのときは気軽に休めましたし、実習グループ全員で平日にスキーに行ったこともあります。日本の医大がWFME認定を受けて世界規準になり、それによって日本の医学教育の質が向上するならば、それほど喜ばしい事はありません。ECFMGを取得してアメリカで臨床研修すること自体に意味が無くなってしまうかも知れません。私のような不真面目な医学生も淘汰されていくことでしょう。少し寂しいですが、それは多分とても良い事です。

あわせて読みたい

「医療」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。