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適性評価と医療への影響(特定秘密保護法)

ある医師の団体から、特定秘密保護法と医療との関係について講演を頼まれて話をしてきた。
そのために、秘密保護法の適性評価と医療について調べてみると、思ったよりもきちんと問題点が書かれていないように感じたので、少しまとめておきたい。

特定秘密保護法において、いわゆる「特定秘密」は「適性評価」をパスしないと扱うことはできない(大臣などは除く)。

「適性評価」を受けられる対象者であるが、国家公務員、地方警察、関係する民間事業者の社員に絞られる。

よって、地方公務員や独立行政法人の職員(国立大学法人も含む)はその対象にならない。

地方においては、警察官や各地の駐屯地にいる自衛官が主な対象にあたるだろう。


適性評価の内容は次のものが含まれる(第12条第2項)。
一  特定有害活動及びテロリズムとの関係に関する事項
二  犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
三  情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項
四  薬物の濫用及び影響に関する事項
五  精神疾患に関する事項
六  飲酒についての節度に関する事項
七  信用状態その他の経済的な状況に関する事項
これらを調べるためには、「調査対象者(=本人)の同意」が必要である(第12条第3項)。

また、調べるためには、本人や知人などに質問したりできるだけでなく、「公務所若しくは公私の団体」=警察や病院などに聞くことが可能となっている(第12条第4項)。

さて、病院が対象になっている以上、上記の四~七あたりは、確実に担当医に情報提供の要請が来ることは間違いないだろう(七は診察料をきちんと払っているか否かということ)。
とくに四~六は医師、特に精神科の医師にしかわからないことも多くあるだろう。

そうなると、医師の「守秘義務」(患者の情報は他人に漏らさない)との関係はどうなるのだろうか。

まず、国会において政府がどういう答弁をしているかというと(鈴木良之内閣官房内閣審議官、衆議院国家安全保障に関する特別委員会、2013年12月2日)
 十二条四項におきまして照会権限が国の行政機関に認められておりますので、照会を受けました団体におきましては回答する義務があると考えております。
と述べており、病院側が問い合わせを受けたら、答える「義務」があるとされている。

また、この問題をもう少し具体的に述べた答弁では(原徳壽厚生労働省医政局長、参議院厚生労働委員会、2014年3月13日)、
 この場合に、例えば医療機関に照会されるということがあるわけでありますが、その場合に、必要な事項は報告を求めることができるというふうになっておりまして、原則として医療機関は報告すべき義務を負うというふうに考えております。その際に、精神疾患に関する事項について調査すること、あるいは必要な範囲内において照会を行うことがあることについて対象者の同意を得ることとされておりますので、医療機関にも本人の同意を得た上で照会するということになると思います。

 このため、医療機関が本人の同意を前提にこの行政機関の長に対する回答を行うことになるということになりますので、そういう意味では医師の守秘義務の違反には当たらないというふうに考えております。
とのことであり、つまり、「本人の同意があるんだから守秘義務違反にはならない」ということが、政府の方針であることは間違いないだろう。

さて、ここで問題になるのは、「①その政府答弁に従って問題ないのか」ということ、もう一つは「②答えた場合になにが起きるか」ということだろう。

まず①については、医師の最大の業界団体である日本医師会が反対していないことから、日医はこれで問題ないと考えている可能性が高い。

しかし、そもそもその「同意」は、拒否すれば出世への道は断たれるし(重要な「特定秘密」を使う仕事ができない)、理由を勘ぐられる可能性も高いので、事実上「強制」に近いだろう。

そういった「同意」を「自発的」と見なせるのかという問題はあるだろう。

日本精神神経学会は、「特定秘密保護法における適性評価制度に反対する見解」(2014年3月15日)において、この「同意」のあり方を勘案した上で、
「対象者の権利を損なわず、治療関係にも影響を及ぼさない対応が求められる」
とし、
この法に基づく情報提供の要請は、患者自身のためのものではなく、政府が秘密裏に規定する特定秘密への忠誠心に関して実施する公安上の目的によるものである。従って、医師に科せられた守秘義務を解除する理由には到底なるとは思われない。
として、情報提供を拒否することができると述べている。

この論理で情報提供要請を拒否できるのかは、医学に素人の私にはわからないが、少なくとも「同意」があれば守秘義務違反にならないということは簡単には言いきれないということは良くわかる。

また、①がOKだったとして、実際にもし医師が情報提供要請に従うことが当たり前になった場合、これによってなにが起きうるのだろうか(②)。

まずは、患者が正確な病状を医師に話さなくなる可能性がありうるだろう。

特に精神疾患や飲酒癖については、情報を提供されてしまうのだから、将来的な出世などのことを考えれば、医者に黙ってた方が良いかもしれないと考える人が出てもおかしくはないだろう。

また、場合によっては、「不利になることを書かないでくれ」と医師に頼んでくる患者もいるかもしれない。

もし適性評価にパスしなかった際に、医師が逆恨みをされる可能性だってなくはないだろう。

なお、国会で民主党の足立信也参議院議員(医師出身)が質問をしていたが(参議院厚生労働委員会、2014年3月13日)、適性評価を通った人が病気になり、精神的な副作用のある薬物で治療を行うようになった時にどうするのか。

いちいち、薬を飲んでいることを上司に報告するのか(外されるかもと考えれば申告しない可能性もありえよう)、医師の側が自主申告するのか。

さらに、この適性評価は、上記の一~三あたりは警察が調べることになる可能性が高く、さらに適性評価自体を警察に丸投げする機関が出ることもも十分にありうる中で、果たしてこういった精神病患者の情報を警察に集中させる可能性への警戒はないのだろうか。

これについては、日本医師会の特区対策委員会が「特区の現状と課題および対応について」(2014年3月18日)で、
 さらに適性評価と称して遺伝子情報を含むIT化されたあらゆる情報が、特定秘密保護法の名の下に、国民のまったく知らぬ間に収集され利用され、優生思想に基づく生命の選別までもが実行され、それらの事実すら明らかにされない社会になることも懸念される。
という指摘を行っている。

やや焦点がずれているような気もしなくもないが、医療関係の情報を、国などが集中的に収集することの危うさへの警戒心があるということだろう。

この適性評価のために集められた情報は、目的外使用はしないということにはなっている(第16条第1項)。

しかし、それがどこまで守られるのかはなんとも言いがたい。

ここまでを考えてみると、「本人の同意」があるから「守秘義務違反にならない」というような簡単な話ではいかないのではないか。

もっと、この点については、きちんと詰めて議論されるべき問題だと思う。

また、現場の医師や業界団体は、秘密保護法施行後のさまざまな状況を想定して、対策を考えておく必要があるのではないだろうか。

医学関係は素人なので(普段は公文書管理制度から論じている)、もしなにか誤解している点があれば御指摘願えればと思う。

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