- 2014年07月10日 22:34
「フリービジネス」化するテレビ業界の行く末
■300万円以上の経済効果を生んだ野々村氏
今月は例の兵庫県議の野々村竜太郎氏が各メディアを大いに賑わせ、硬派な報道番組から軟派なコメディ番組に至るまで、ありとあらゆるメディアで野々村フィーバーが吹き荒れたということになりそうだ。
兵庫県議会には数千人もの人々から苦情の電話があり、同県のオンブズマン(市民団体)からも刑事事件として訴えられる可能性も出てきたとも伝えられているが、世間一般の人々を見ている限り、特に怒っているという様子でもなく、どちらかというと、お笑いニュースとして受け止めている人の方が多いかもしれない。
300万円のギャラを支払って、これだけ世間を笑わせることのできるお笑い芸人はなかなかいないだろうけれど、議員ともなれば、300万円程度でこれだけ日本中を笑いの渦に巻き込むことができるわけだ。
ネット界隈では、「野々村氏はスケープゴートにされた」という珍説も聞かれるが、もし仮にそれが本当のことであったとしても、ここまで騒ぎが大きくなることは予想だにしていなかったことだろう。予期せぬ野々村フィーバーは海外メディアにも波及し、「野々村Tシャツ」などの関連グッズまで販売されるに至り、皮肉にも彼が不正したとされる300万円(?)を遥かに超える経済効果を生んでしまったとも言える。
上記はもちろん半分ジョークだが、今回の事件を観るにつけ思われることは、未だテレビというメディアは圧倒的な伝播力を有しており、その影響力は認めざるを得ないということに尽きるだろうか。
もし、この事件が、映像も音声もない紙媒体のみで報道されていたとすれば、騒ぎはここまで大きくはならなかったはずで、ほとんど誰も歯牙にも掛けなかったに違いない。せいぜい、「世の中には悪い奴がいるな」という程度の騒ぎで収まっていただろうし、当の野々村氏も不正したお金を返却するだけで済んでいた(有耶無耶になっていた)かもしれない。要するに、騒ぎが大きくなるかどうかはマスコミの取り上げ方次第だとも言えるわけだ。
一応お断りしておくと、私は野々村氏を擁護しているわけではないので、誤解のないように。
■遅れてきた最大の「フリービジネス」
さて、俗な前置きはこの辺にして本題に入ろう。
昨今は「フリービジネス」という言葉が流行り、無料で商品を提供することで副次的に利益を生む商売(ビジネスモデル)を創出するという活動が盛んに行われているが、この「フリービジネス」の大本のモデルは、実は無料の民間放送(テレビ)に既に存在していたとも言える。
無料であるがゆえに、お金を気にすることなく、一日中でもテレビにかじり付いている人(主に老人や主婦)は大勢いる。また、無料であるがゆえに、映像や音声を他の媒体に持ち込むことにも気を遣うことなく、ネット上ではテレビで放送された映像や音声をコピー利用し、中には、その副次的に加工された情報が商行為に繋がっている場合もある。今回の野々村氏の号泣会見映像や音声も実に様々な形に加工されてYouTube(一例)などに出回っている。
テレビを利用した新手の「フリービジネス」として思い付くのは、TBSで放送されていた人気ドラマ『MOZU』の続編が有料のテレビ番組(WOWOW)として放送されたことだろうか。私自身は『MOZU』を観ていなかったが、熱烈なファンともなれば、 WOWOWに加入して続編を観るという人もいたかもしれない。
ドラマのシーズン1を無料で放送し、言葉は悪いが、その番組で釣れた視聴者を続編が放送される有料番組へと誘導する。もっとも、別にそれが悪いというわけではなく、立派な商行為だと言える。元々、無料で放送されている番組が途中から有料になったからといって、誰にも文句を言う資格はない。観たくもない番組を無理矢理に観せて視聴料を徴収するとかいうなら問題だが、「お金を支払いたくない人は観れません」というだけのことだから、何の問題もない。
病院が「お金が無い人は診察できません」と言うのと、テレビ局が「お金を支払う気の無い人は番組を観れません」と言うのとでは訳が違う。テレビ番組を観れないからといって、健康を害することも死亡することもないので、文句を言っても始まらない。
■時代は「テレビドラマの有料化」へ動いていく
TBSとWOWOWは以前からタッグを組んでいるので、今後もこういった手法はどんどん採られるだろうし、他のテレビ局も真似ていくかもしれない。
例えば、『闇金ウシジマくん』という人気の深夜ドラマも、無料(MBS)から有料(BeeTV)になったことはよく知られている。1度、試験的に行っただけかもしれないが、人気ドラマは、今後、無料放送を皮切りにして、有料放送に変わっていくのが当たり前になっていくかもしれない。
続編が予定されているテレビドラマ『半沢直樹』が、シーズン2から有料になれば、さすがに憤る人がいるかもしれないが、製作している側からすれば、無料で放送しなければならない道理も義理もないわけで、有料でも観てくれる人が多いのであれば、いつ何時有料になるか分からない。それが、テレビを利用した「フリービジネス」の今後の行き着く先かもしれない。
なんせ、数十年もの間、無料で番組を放送し続けてきたわけだから、このフリービジネスと無関係な人はまずいない。意識するしないに拘らず、ほぼ全ての国民がこのフリービジネスに片足を突っ込んでいるとも言える。そんな状態だから、視聴者数がこれ以上増加しないという飽和状態(頭打ち)になれば、有料化を目指すのは至極当然の成り行きだとも言える。
加えて、テレビ業界自体がスポンサー企業からの広告収入で成り立つという違う意味での無料のビジネスモデルが崩壊すれば、テレビ番組は自ずと有料になっていく運命にある。まさに遅れてきた「フリービジネス」の最たるものが「テレビドラマの有料化」というわけだ。
しかし、視聴者にとっては、有料化にも希望は有る。視聴者から多大な人気を獲得した番組だけが有料化への道が開かれるのであれば、製作者は手抜きすることなく、面白い番組を創らなければならないというモチベーションにも繋がるので、日本のテレビドラマも海外ドラマのように面白くなっていくかもしれない。
いずれにしても、今後のテレビ業界は、視聴者を無視しては成り立たなくなることだけは間違いなさそうだ。