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「アラブの春」再考

最近出版された『アラブ革命はなぜ起きたのか』のエマニュエル・トッドは、識字率の上昇と出生率の低下が中東地域で見られていることを糸口に、同地域の市民による民主化運動が起きることを予測した。

中東地域のアラブ産油諸国は、オイル・マネーをアラブ経済開発基金、イスラム経済開発基金を通じて中東諸国内に分配したことで、非産油国の経済的基礎が整備された。さらに、その中で、外国投資を呼び込むために国内の法整備に加え、規制緩和、人材育成に努めた国々があった。

これらのことに鑑みれば、トッドの指摘の通り、中東諸国はある程度、政治変動を起せるまでに市民の生活レベルに達していたといえる。

しかし、トッドも触れているように、「アラブの春」と一括りにされる政治・社会変動が起きているとはいえ、中東地域各国の風土、国民性は異なっている。したがって、こうした先行条件の違いから、変動を起させる要因(識字率上昇、出生率低下など)は共通していても、異なるプロセスを辿り、違う結果が生じることはあって然るべきだろう。

さらに言えば、出生率の低下、識字率の上昇は政治変化を起させる必要条件であるが、十分条件ではないかもしれない。政治変化が起きるのは、治安関係機関の力が中立もしくは市民側に傾いている場合(ケースA)、もしくは、治安関係機関の力が現政権側に傾いていた場合でも明確な「国際介入」が行われる場合(ケースB)だといえるのではないだろか。

チュニジアとエジプトの政変はケースAに当たる。リビアはケースBである。またシリア、イエメンは現在のところ、A、Bのどちらでもなく、治安関係機関が市民活動を抑え込んでいる状況だといえる。

この観点からすると、政治変動の最中にあるシリア、イエメン、バーレーンの今後の動向を考えるポイントは、(1)国際介入の動き、(2)治安関係機関の動向であるといえる。

しかし、これら3カ国に対し、リビアでとられたような軍事力を使っての国際介入は、欧米の経済状況、国連安保理事国の勢力バランスの現状から見て実施は難しいだろう。

したがって、治安関係機関の今後の動向がカギを握ることになる。

具体的に、イエメンでは、反政府市民活動家がノーベル平和賞を受賞したことで、治安機関が強硬姿勢を取りにくくなっていると推察される。そうであれば、リビアの反体制派の「勝利」がイエメンの反体制活動を優勢にする蓋然性は高まっていると言えるのではないだろうか。

端的に言えば、a(先行条件)×X(出生率の低下、識字率の向上)=Y(政変)という式にもう2つ要因を加えて、a(先行条件)×b(治安機関の中立性)×c(国際介入)×X(出生率の低下、識字率の向上)=Y(政変)という式で表現できるのではないだろうか(シリア、イエメン、バーレーンについては、現在のところc=1)。

「アラブの春」を見る際には、共通要因となるものと、各国の特性要因を見分けることが重要となる。この観点から、改めて各国の政治・社会変動を整理しなおす必要があるように思う。

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