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現代美術のハードコアはじつは世界の「宝」である / 東京国立近代美術館・主任研究員 保坂健二朗氏インタビュー

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東京・竹橋の東京国立近代美術館で、『現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより』という、ちょっと変わったタイトルの展覧会が開かれている。ヤゲオ財団は、世界トップクラスの美術コレクションを持つ台湾の財団で、理事長のピエール・チェン氏は大手パッシブ(電子部品)メーカー、ヤゲオ・コーポレーションのCEOを務める実業家でもある。

本展では、約400点のコレクションから74点が展示される。特徴は、「美術史的価値」と「経済的価値」とを並行して提示しているところだ。そのような試みができるのは作品がどれもミュージアム・ピース(美術館に収められてしかるべき一級品)だからであるが、「なぜこの作品が何億円もするの?」という素朴な疑問を一緒に考えようとしてくれた展覧会は今までになかったような気がする。企画者である保坂健二朗さんに話を聞いた。(聞き手・構成/長瀬千雅)

美術作品とともに暮らす家

―― ヤゲオ財団コレクションとはどのように出会ったんですか?

去年、当館で開催した「フランシス・ベーコン展」を担当したんですが、その時の出品交渉相手の一つがヤゲオ財団でした。ヤゲオ財団がベーコンの作品を持っていることを知ったのは、それより前、イギリスのある美術館でベーコンの展覧会を見た時です。そこで初めて、「YAGEO Foundation」が3点も持っていることを知ってびっくりしたんですね。ぼくはベーコンの研究をしていたので、どの美術館が、あるいは誰が、どの作品を持っているかということはある時点までは相当把握していたんですが、ヤゲオ財団の名前はその時初めて見ました。しかも台湾の組織だということも驚きでした。ともかく借りに行こうということで台湾を訪れたら、ご自宅に招いてくださったんですね。それが最初の出会いです。

ご自宅にうかがうと、リビングにグルスキー[*1]の写真があったんです。今回出展されている「メー・デーⅣ」が飾られていたんですが、幅5メートルもあるんです。そのかたわらにリヒター[*2]があって。サンユウ[*3]があって、モディリアニ[*4]があって、という感じで、ぼくが知ってるものも知らないものもありましたが、とにかく、案内してくださるすべてのフロアのすべての場所にアートピースが置いてあるんです。

[*1] アンドレアス・グルスキー 1955-。ドイツの現代写真を代表する写真家。

[*2] ゲルハルト・リヒター 1932-。現代ドイツを代表する画家。

[*3] サンユウ(常玉) 1901-1966。中国の画家。1921年渡仏。途中2年ほどアメリカなどに住んだことがあったものの、亡くなるまでパリで活動した。

[*4] アメデオ・モディリアニ 1884-1920。イタリアの画家。エコール・ド・パリの画家の一人。

―― カタログに載っている写真を見ると、すごい豪邸ですね! これだけ美術作品が飾られているのは個人のコレクターでは他にあまり例がないんですか?

自宅に美術作品を飾っている人はもちろんいます。ベーコンを飾っている人もいるし、ヨーロッパの有名なコレクターでジャコメッティの大きな彫刻を玄関に飾っているという事例を聞いたこともあります。ですが、5メートルの写真というのはあまり聞いたことがないですね。

リンク先を見る

アンドレアス・グルスキー《V&R》2011年 ヤゲオ財団蔵 ©Andreas Gursky / VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2014 E1016

―― 個人コレクションは、コレクターの好みが反映されますよね。たとえば、最近では、昨年の「アメリカン・ポップ・アート展」(国立新美術館)で展示されたパワーズ・コレクションは、ニューヨークに住んでいたパワーズ夫妻らしく、ポップアートが中心でした。チェンさんのコレクションにはどんな傾向がありますか?

ポップアートもありますが、それだけではないですね。チェンさんのコレクションの傾向として言えるのは、まず、政治的なメッセージが強すぎる作品はあまりありません。それから、ミニマルにすぎる作品もあまりない。たとえば、買えるかどうかは別として、ジャクソン・ポロック[*5]、バーネット・ニューマン[*6]、モーリス・ルイス[*7]などのような、色だけ、線だけで描かれている抽象的な作品はほとんど含まれていません。どちらかというと具象的な要素を含んでいる作品が多いです。

[*5] ジャクソン・ポロック 1912-1956。アメリカ抽象表現主義を代表する画家。

[*6] バーネット・ニューマン 1905-1970。アメリカ抽象表現主義の画家。カラーフィールド・ペインティングで知られる。

[*7] モーリス・ルイス 1912-1962。同じくアメリカ抽象表現主義の画家の一人。村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の装丁のルイスの「Pillar of Fire」という作品が使われている。

ただ、チェンさん自身は、具象を集めているわけではなく、自分にとって生活空間の中で心地いい作品を集めたら結果としてこうなっているんだとおっしゃっています。よくも悪くも、理論的に系統立てて収集しようとは考えていない。そこもおもしろいところです。人の言うことを気にせず、論理性や整合性も関係なく、好きなものを集められるのが、本来個人コレクターの醍醐味であるはずなので。

―― 現代美術というとインスタレーションとかコンセプチュアルアートみたいな難解なものをイメージしますが、タブローと彫刻が中心で、素直に「美しい」と思える作品が多かったです。ところで、パワーズ夫妻もそうですし、「ハーブ&ドロシー」のヴォーゲル夫妻[*8]もそうですが、アーティストと積極的に交流を持つタイプのコレクターもいると思うのですが、チェンさんは、そうではないようですね。

まず一つに、チェンさんは、人は自分をコレクターと言うけど、自分で自分をコレクターだと思ったことはないと言っているんですね。仕事とプライベートのバランスをとりたいから美術品を買うのであって、コレクションすること自体は主たる目的ではない、と。そういう考え方をしていくと、ただでさえ多忙な日常の中で、アーティストとの交流に時間を割くことはたぶん、物理的にできないだろうと思います。

[*8] ハーバート・ヴォーゲル、ドロシー・ヴォーゲル夫妻はアメリカの現代アートコレクター。ニューヨークの郵便局員、図書館司書としてつつましく暮らしながら5000点を超えるコレクションを築いた二人の歩みは『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』『ハーブ&ドロシー2 ふたりからの贈りもの』という映画になっている。ハーブは2012年89歳で亡くなった。

コレクターの中には、ある種の社会的役割としてやってる人もいると思うんですよ。たとえばアメリカの社会ではソーシャライト(Socialite、社交界の名士)というポジションがあるように、一般人から見ると奇妙な、富豪特有の立ち位置がありますよね。社交を仕事とする、あるいは、財を成した後に社交に重きを置く人たちです。その層と、いわゆるコレクターは重なる部分があると思います。アーティストと交流したり、アーティストと他のコレクターをつないだりする役割があったり。しかし、チェンさんの場合は、今なお第一線の実業家でもある。

それから、これはチェンさん自身が言っていることではなく、今の質問を受けてのぼくの予想ですけど、彼のベースはあくまでも台湾なので、やっぱりアジアに住んでいるという「地の不利」があるんじゃないか。

―― ああ、パリやニューヨークに住んでいれば。

違うでしょうね。でも、チェンさんの場合、ニューヨークに仕事で行ったところでアーティストに会おうとするわけでもないようなので、そういうスタンスを潔く守られているなという気はしています。

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