- 2014年07月01日 07:00
「集団的自衛権」のリアル――自衛隊の戦略的活用を考える - 伊勢崎賢治×柳澤協二
2/3外からみると「やっている」
伊勢崎 ぼくは東京外国語大学で、いわゆる紛争当事者国出身の学生を集めて平和構築学を教えています。先日、学生たちに「今話題になっている集団的自衛権の議論が全然分からないから説明してくれないか」と言われたんですね。
それで「日本がアメリカと一緒に戦争をするかどうかについてもめてるんだよ、今まではやってこなかったから」と説明したら、シリア出身の学生がびっくりしていました。「もうやっちゃったでしょ! アレはなんだったの!?」と(笑)。
柳澤 イラク戦争でやったじゃないのと。
伊勢崎 中東の彼らから見ると、日本はすでにアメリカの戦争に参加している。そう記憶の中に刻まれているわけです。たしかに、イラクだけではなくて、アフガニスタン戦争のときもインド洋給油活動をしましたよね。
でも、日本での議論では今まで「やっていない」ことになっているけど、外からみると「やっている」。この辺を議論の出発点にしていかないといけません。
そもそも、日本は、アメリカと違って、アフガニスタンとイラクでどんな活動をしたのか、どうするべきだったのか総括が出来ていません。
柳澤 ブッシュ大統領の回顧録を読んでいて、印象に残っているのがあります。彼はNY同時多発テロの直後、当時のブッシュ大統領が最初に言ったのは「これは戦争だ」ということでした。わがアメリカを攻撃するのは絶対に許せんと。国民も「そうだ、そうだ」と賛成していってアフガニスタン戦争がはじまります。
でも、振り返ってみると、あの事件は通常の国際法的な観念からすると、戦争ではなく国際犯罪ですよね。
伊勢崎 インターポール(国際刑事警察機構)の範疇ですよね。
柳澤 そうです。「戦争」と理解して兵隊を出した結果、多くの米兵も犠牲になりました。9.11の貿易センタービルで犠牲になった方が2700人くらいなのに対して、アフガンとイラクでの米兵の死者数は約6000人です。人数で戦争の成否を決めるわけにはいきませんが、それは、間違った教訓として受け継がれなけばいけません。
日本だって、自衛隊が大変な思いをしてようやく犠牲者を出さずに帰ってきている。その一方でPTSD(心的外傷後ストレス障害)で帰国後30人ほどが自殺していると言われています。
最近になって、アメリカでは9.11テロ事件は「犯罪」だったと理解しています。実際に、空港の入国チェツクは厳しくすることで防ぐようにしている。しかし、そういう反省や検証が日本にはありません。以前、ある新聞社の人に「うちの社は検証しない。なぜなら、自衛隊が一人も死んでいないからだ。」と言われました。
伊勢崎 犠牲者がいないから検証しないと言うわけですね。
柳澤 犠牲が無い時に検証しないと、次に起こる「なくてよかった死」を防ぐことができません。
それに、自衛隊派遣以外の面でも、アフガンのDDRや現地の警察の人件費に、日本は相当のお金を出しています。東京裁判を経てA級戦犯が悪かった、軍部独裁が悪かった、で済んでいるけど、なぜそういうことになったのかというプロセスが検証されてないですよね。
でも、嫌なこと、振り返りたくないことをあえて検証することで、次に起こるかもしれない「嫌なこと」を減らせるかもしれない。そういう文化がもっと必要だと思います。
任務は「そこにいること」
伊勢崎 ぼくは、誰も殺さずに無傷で戻ってきて、自衛隊は本当にいい働きをしたと思っています。ですが、その総括もされないまま、自衛隊の法的な集団的自衛権の話をすることに、どれだけの意味があるのか疑問です。
柳澤 これは東京新聞記者で防衛省を長年取材している半田滋さんの話を聞いて「なるほど」と思ったんですが、あの時自衛隊は緑色の迷彩服を着ていたんですよね。
迷彩服は背景にとけこむから迷彩服なんです。アメリカ軍は砂漠に溶け込むようなグレーとベージュの迷彩服を着ていた。なぜ、自衛隊はグリーンにしたか。つまり、自分たちは戦争をしに来たのではないとアピールしたかった。ヘルメットにも胸にも日の丸を大きくつけて、ものすごく目立つわけです。戦争しないことをアピールするためにあえてやった。その陸上自衛隊の知恵と勇気を率直に私はほめたいと思っているんです。
『検証 官邸のイラク戦争』という本にも書いたんですが、あのとき私は官邸にいて、自衛隊に犠牲者が出るかもしれない、出たらどうすべきか、ということを考えていた。
ところが、上司の政治家にその話をしたら、「自衛隊員が1人怪我したら自衛隊は撤収しないとダメだろう、内閣がつぶれてしまう」というんです。ちょっと待ってくれ、と思いました。自衛隊は任務を達成するために、犠牲覚悟で行っている。それなのに、1人が怪我したら帰って来なきゃいけないような任務で、そもそも自衛隊を使わないでくれと、そう思ったんです。
でも、確かにそうなんですよ。あの時の自衛隊の「任務」はアメリカのお付き合いで「そこにいること」でした。だとしたら、自衛隊がそこで死んだりしたら損ですよね。それ以来私は、イラクに向かう部隊の部隊長が挨拶に来る度に、「君の最大の仕事は何もしなくていいから隊員を全員無事に連れ帰ることだ。なぜなら政治がそれしか望んでないからだ」と言って送り出していました。
そこは、非常に矛盾に満ちていますよね。それを乗り越えて「犠牲覚悟でやってこい」と政治が言うのかどうかが問われているわけです。
弱みや強みを補完しあう
伊勢崎 今、国際社会で問題になっているのは、先ほどのパネルで説明されていた正当防衛のケースではなく住民の保護です。ルワンダの大虐殺では、PKOがいたにも関わらず、100万人も亡くなってしましました。
その反省から、住民を「保護する責任」が国連でも重視されるようになりました。自衛隊が参加している南スーダンを含め、PKOのマンデード(使命・権限)の中に住民の保護が含まれています。その場合、住民が武装勢力に攻撃されそうにあったら、助けなければいけません。
さらに、住民を保護するために、先制攻撃するべきだという声も出てきています。コンゴのPKOでは実際に敵対武装勢力に対する先制攻撃が行われました。人権団体も「当然のことである」と反対していません。駆けつけ警護どころの騒ぎではありません。
柳澤 やりすぎると、より戦闘を悪化させてしまう可能性がありますね。やるなら国連のPKO部隊が十分に強くないといけません。
伊勢崎 その通りです。このような中で、PKOに参加する国のリスクは非常に高くなります。そもそも、住民への「駆けつけ警護」をするのはある程度の大きな部隊しかできません。ですが、PKOに大隊を出している国は先進国にはあまりない。外貨が稼げるから、発展途上国の「お仕事」になっています。
柳澤 ああ、PKOに兵隊を送ると、兵士1人あたりいくら、という手当が国連から出るんですよね。
伊勢崎 大きな部隊を出すのは彼らの領域なんですよ。じゃあ、先進国は何をするのか。司令部要員などの政治的な部分を担うわけです。ぼくは、個人的に自衛隊のイメージにフィットすると思っているのは非武装の軍事監視団、停戦監視団です。武装勢力とも対話しなければいけないので、PKOの中でも一番重要な働きをします。
司令官クラスの軍人たちが、非武装でチームをつくって多国籍の軍事監視団を結成し、現地の武装勢力と信頼醸成をやっていく。これは、国連の本来の業務ですし、非常に名誉ある仕事です。武装勢力にも「こいつらが言うならちょっと話を聞いてみるか」と思わせなくちゃいけないわけで、非常に高度な業務です。日本の自衛隊はクリーンなイメージがありますから、その役割を担えると思っています。
柳澤 私もゴラン高原で国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に参加していた監視要員のサイトを視察したことがありますが、本当に丸腰でした。丸腰だからかえって抑止力があると感じましたね。でも、最近はそういったPKO派遣の在り方は議論されていないですね。
伊勢崎 ぼくがこういう発言をすると、「最前線に自衛隊を丸腰で送るなんて馬鹿なことができるか」と批判が来てしまいます。ですが、これは伝統的な国連の業務です。そもそも、国連は外交の場で戦争回避のための組織ですよね。武装した軍隊を派遣するPKOなんていうのは、近代的な発展形に過ぎない。停戦監視こそが、本来の業務であることを今一度認識してもらいたいですね。
それに、ぼくはNATOと一緒に武装解除の仕事をしましたが、その活動を近くから見ていて、同盟各国の軍をまとめる統合指揮が目指すものは、補完の関係だと思いました。同盟国の中には事情があって、弱みや強みもあるわけです。
たとえば、ノルウェイは平和外交の旗手ですよね。そのノルウェーに対して、イギリスやフランス並みに軍事力を行使することは求められていません。なぜかというと、ノルウェーにはノルウェーの強みがあるからです。だから、ノルウェーにはタリバンの政治交渉とか、そういう面を任せるわけです。
あと、日本以上に海外派兵に対して国民のアレルギーがあるドイツに対しても、あんまり無理はさせられない。もし、ドイツ軍が人権侵害を引き起こして、ドイツ国内の反戦世論が沸騰し、離脱なんてことになったら、アメリカにとってこれほどの痛手はないわけです。
多国籍軍の統合指揮ってそういうことなんですよね。いろんな国の長所を出し合いながら補完し合って、総合力にしていく。日本も軍を出さなかった良いイメージがありましたから、アフガニスタンではその強みを生かすような活動をしたわけです。
それぞれが、それぞれの強みを出し合いながらやっている中で、日本のイメージを捨ててまでも、集団的自衛権って必要なのか。そして、今、アメリカは「テロリスト」という概念と戦っている。非常に厄介で終わりの見えない戦いです。
柳澤 アメリカって世界最強の軍事力を誇りながら、第二次大戦以降すべての戦争に勝った試しがない。特に、軍事力に頼ってやろうとした時は失敗していますよね。
伊勢崎 そこに参加していく可能性も含めて、集団的自衛権について考えるべきだと思うんです。
柳澤 やたらとにかく自衛隊が出て、日本がなんでもできる強い国になることが、国際社会から求められてもいないし、それが一番賢い道でもないと思います。



