記事

続・リビアで今、起こっていること 〜アーデル・スレイマンさんインタビュー

4/4

◆人は「現状に甘んじる」もの


――まさに課題は山積み、という感じですね。それを前に、リビアの人たちは今、どういう思いでいるんでしょうか。

「やるしかない」という感じですよね。課題は大きいけどやるしかない、自分たちにはやれる、という意識はあると思う。

今回の革命を通じて、リビアの国民1人ひとりの意識はすごく変わりました。自分たちで政府を倒したということと、今までできなかった社会参加――例えば市民団体をつくるとか、同じ思いの人が集まって何かプロジェクトを始めるとか、そういうことができるようになった。それによって、街を、国を「自分たちのもの」と思えるようになったんだと思うんです。

以前は見かけたことのなかった(笑)自主的に街を掃除する人たちが増えたのもその現れかな、と。街を歩いていても、至るところでみんな革命の話、政治の話、これからのリビアの話をしているのを見かけました。そうした変化は、リビアにとってすごく大きいことだと思います。

あと、大きいのは若者の力ですね。今回の革命は一部で「腰パン革命」って言われてるんですよ(笑)。

――腰パン?

日本でも、若者がやってるアレです。つまり、今まではちゃらちゃらしていると思われていたような若者たちが立ち上がって、主体となって起こした革命なんだ、ということ。

トリポリでも、こんな場面を見かけました。おじさん2人が話をしていて、1人が「最近の若者は…」みたいな愚痴を言い始めた。そうしたらもう1人が「おまえな、だけどその『最近の若者』が今回の革命を起こしたんだぞ。あいつらを悪く言っちゃだめだ」と(笑)。

そのくらい、若者が主体になったんだ、これからの国をつくっていくのは若者なんだ、という意識が強いんです。国民評議会も、教育や雇用など、若者に関係する社会問題の解決が最優先課題の一つだ、と表明していますね。

――課題は数多いけれど、それに立ち向かおうとする士気も高いという感じなんでしょうか。最後に少し日本の話を聞きたいのですが、そうしてリビアの状況が大きく動いた今年、アーデルさんのもう一つの祖国である日本では、東日本大震災という未曾有の出来事が起こりました。これを機に、日本はどう変わっていくのか、変わるのか…いまの日本社会を見ていて、感じていることはありますか。

3月にボランティアで東北に行ったときに、震災によって、日本社会が抱えるいろんな問題が浮き彫りになったと感じました。原発のこともそうだし、政府の統率力のなさ、地方自治体のもろさ、そしてメディアがそうしたことを何も報じないという問題…。

これまで日本社会は、何に対しても「他人事」というか、「臭い物に蓋」みたいな姿勢でやってきたところがあったと思うんです。でも、それではいいかげんダメなんじゃないか、大丈夫大丈夫と言ってきたけど実は大丈夫じゃないんじゃないか、ということが分かる大きなきっかけが、今回の震災だったと思います。

ただ、人間というのは、現状に甘んじるものですよね。難しいことは後回しにするし、何かあっても見ないふりをして、今までどおりの生活をしようとする。「変える」ことは難しいんです。

リビアだって40年以上ずっと後回しにしてきて、やっと今回「変える」という厳しい選択肢を取ることができたわけで。
日本でも、ほとんどの人はまだ「見ないふり」を続けて、今までの生活を続けようとしている。そのほうが簡単だから、楽だから。

そうして楽なほうへ流されていく中で、いかに「変化」という厳しい方向を見ている人、厳しいけど後々のことを思えばこっちのほうがいいんだ、と考える人たちを増やせるかですよね。

リビアが変わったのは、みんなが本気だったから。人が本気で動いて変わらないことって多分、ないと思います。本気でこの仕事をやりきるんだと割り切る、その瞬間に、多分その周辺にはすごい力が生まれるんじゃないでしょうか。

特に、ポイントになるのはやっぱり若者の力ですよね。腰パンの力は半端ない、はずです(笑)。

リンク先を見る

「カダフィ死亡」のニュースが伝えられたのは、お話を伺ってからちょうど1週間後。拘束後に「処刑」されたという報道もあるなど、その死の状況は不透明なままです。

アーデルさんはこれに対して、こんなふうにコメントしてくれました。

「率直に言えば、残念に思っています。過去の象徴であったカダフィが死んだことは、リビアのこれからの国づくりに大きな意味を持っているし、人々にとっての精神的な弾みにもなるでしょう。でも、本当ならこんな殺され方をするのでなく、リビアの法で裁かれ、42年間の清算をしてほしかったというのが個人的な意見です」

国民評議会も、死亡経緯の検証に乗り出すと表明しており、真相の究明が待たれます。



「国際社会の関心は、今後のリビアがイスラム原理主義国家にならないかということでしょうが、リビアの土着の文化はイスラム教に基づいたもの。

そのことと原理主義とは別ですが、イスラムが政治体制のベースになることは間違いないでしょう」とも、アーデルさんは話してくれていました。

リビアがここから、どんな国になっていくのか。それを、国際社会はどう受け止めるのか。何よりも、人々の希望や高揚が、踏みにじられることのないように、と思います。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    総裁選で高市氏が怒涛の追い上げ 単純な「極右ムーブメント」とくくってよいのか

    倉本圭造

    09月17日 14:15

  2. 2

    男性パートナーの得意な家事「皿洗い」に女性は不満?意識のギャップを防ぐカギは【9月19日は育休を考える日】

    ふかぼりメメント

    09月18日 08:50

  3. 3

    高市早苗総裁候補VS小泉進次郎議員の抗争勃発?!重要争点の一つは「エネルギー政策」だ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月18日 08:32

  4. 4

    自民党政権の危機管理の失敗【2】後悔のない対策

    山内康一

    09月18日 08:43

  5. 5

    岸田氏が首相になれば真っ向から中国と対立、総裁選の争点になったウイグル人権問題

    木村正人

    09月17日 10:35

  6. 6

    靖国神社公式参拝は当たり前では

    和田政宗

    09月18日 08:37

  7. 7

    中村格氏が警察庁長官という人事はひどすぎませんか。安倍・菅内閣による検察、警察人事の露骨な恣意性

    猪野 亨

    09月17日 09:07

  8. 8

    毎日使うスマホ機種代をケチる貧乏性。毎日使う重要な道具こそお金をかけるべき!

    かさこ

    09月17日 09:50

  9. 9

    新型コロナの影響で「九九」の勉強がおろそかに 顕在化するコロナ禍の子どもへの影響

    石川奈津美

    09月17日 08:07

  10. 10

    堀江貴文「西野亮廣の『えんとつ町のプペル』が大成功したたった一つの理由」

    PRESIDENT Online

    09月17日 16:17

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。