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自滅する国家 自壊するマスメディア - 鈴木耕

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 9月11日、大震災からちょうど半年。そして原発が荒れ狂い始めてから6ヵ月。この国は、何が変わったか? なんだか、何も変わっていないような気がするんだ、僕には。いっとき息をひそめていた連中がゾンビの如く甦り、また思いどおりに国を動かし始めた。違う?

 新聞を開けばまたしても「大臣辞任」。テレビは「なでしこジャパン」で大フィーバー(古い表現!)。「なでしこ狂想曲(放送局)」とでも駄洒落で名前を変えたらいかがかと思う僕は、ただの臍曲がり。
 
 むろん、なでしこたちの健闘ぶりは素敵だし、それを祝う気持ちは僕にもあるけれど、これでいいのか、と立ち止まってしまう自分がいることも確かだ。
 ツイッターを見ていたら、こんな呟きが目に留まった。
@kentaro666 竹熊健太郎さん。
「国家の自滅」なんて滅多に見られるものじゃない。歴史上、戦争もせずに自滅した国家なんてありましたか?
 ドキリとした。そのとおりじゃないか。僕らの国は、すでに崩壊過程に入っているのかもしれない。しかも最悪なことに、それを必死に押しとどめようとする気配が、政治にも文化にも感じられない。政治は放射能汚染になす術もない。子どもたちの被曝への不安は母親たちを独自の動きに走らせている。政治が機能しないからだ。

 原発の“安全神話”など、とうの昔に崩れ去った。もはや誰がそんなものを信じるか。効果を失くした古証文などさっさと捨てればいいものを、まだ後生大事に拝み続ける輩。

 またしても“黒塗り”の事故対応マニュアルとやらを国会の委員会へ提出し、恬として恥じない東京電力。黒塗りではなく“恥の上塗り”。

 東京電力という会社は、「東電を潰すことはできまい。やれるもんならやってみろ!」と開き直ったとしか思えない。
 
 電力会社の地域独占体制を解体し、発送電分離による一層の電力自由化を実現しなければ、この国のエネルギー政策、つまり原子力政策を抜本的に改革することはできない。だが、それを阻止するために蠢きだした者たちがいる。春でもないのに、啓蟄よろしく、潜り込んで隠れていた泥の中から、ジュルジュルと姿を現し始めた。

 新しい未来図を描けない政治家や、金のことしか頭にない財界人、自身の保身のみを考える電力会社の経営者たち。こんな人たちが…。それこそ「戦争もせずに自滅する国家」への道か。
 
 そこからはみ出ようとする者は潰される。

 鉢呂吉雄氏が、どこへ向かおうとしていたのかは、何もやれずに去ってしまった今となっては定かではない。だが、彼の経産相辞任劇は、僕にはどうも納得できない。確かに、「放射能つけちゃうぞ」とほんとうに言ってしまったとしたら、それはやはり大臣にふさわしくない、と批判されても仕方ない。だが、そう言われたという当の「毎日新聞記者」は、なぜか自分の言葉でその時の状況を正確に説明しようとしない。不可解。
 
 朝日新聞(9月13日付)が、この問題をやや詳しく取り上げている。それによれば、新聞各社の鉢呂氏発言は微妙に違う。
 「放射能をつけちゃうぞ」朝日、「ほら、放射能」読売、「放射能をつけたぞ」毎日、「放射能をつけてやろうか」日経、「放射能をうつしてやる」東京、「放射能をうつしてやる」産経、「放射能をうつしてやる」共同、「放射能を付けたぞ」時事…
 各社とも、「…との趣旨の発言をした」と逃げているが、これだけバラバラだと、その信憑性が疑われて当然だろう。

 もし、これらの記事を書いた記者が自分の耳で聞いていたのなら、こんなに多様な言葉が出てくるはずがない。つまり、きちんとした録音やメモをとってはおらず、“どこかのメディア”が発信したために「乗り遅れるな」とばかりに、あやふやな記憶や伝聞に頼って一斉に報じたとしか考えられない。しかも論調は「鉢呂、大臣失格」の大合唱。「右へならえ」の一斉報道ならば、メディアの独立性などないに等しい。

 では、どこが最初に発信したか。朝日の記事によれば「『放射能』発言を最初に報じたのはフジテレビとみられる」ということだ。

 各メディアによって言い回しがみな違うということは、つまり、ほんとうは鉢呂氏がどう言ったのか、どのメディアも正確には掴んでいなかったことになる。

 鉢呂氏自身も「そう言ったかどうか記憶が定かではない」と会見で語っている。ならば、当の言われたという毎日新聞の記者自身が、正確に鉢呂氏が発したとされる言葉とその時の状況やニュアンスを明らかにするべきではないか。その“言葉”によって、ひとりの大臣の首が飛んだのだ。それは報道者としての当然の責務だろう。

 なぜ、隠すのか? どうも、怪しげな臭いがする。
 同じ朝日の記事によれば、こうだ。
 (略)毎日新聞は「毎日新聞記者に近寄り、防災服をすりつけるしぐさをしながら『放射能を付けたぞ』という趣旨の発言をした」と報道。9日に報じなかった理由は「経緯についてはお話ししかねる」(社長室広報担当)という。
 妙な話だ。鉢呂氏の発言は8日の午後11時20分ごろ。それをフジテレビが報じたのが、なぜか翌日(9日)の午後6時50分過ぎ。なぜこんなに時間がたってからの報道だったか。さらに、新聞各社が報じたのは10日朝刊。どうもおかしい。

 しかも、ネタモトの毎日新聞は「…という趣旨の発言」と、妙に奥歯に物の挟まったような表現で、その上「経緯は話せない」と言う。いったいなんなんだ、これは。自社の記者への発言だったのなら、正確に伝えればいい。なぜ隠す必要があるのか。なぜこんなにも報道が遅れたのか。裏にどんな事情があったのか。

 ここまで調べて書いた朝日だが、自分のところのこととなると、とたんに歯切れが悪くなる。同記事の末尾に、こんなふうに付け加えている。
 朝日新聞の渡辺勉・政治エディターは「8日夜の議員宿舎での発言の後、鉢呂氏は9日午前の記者会見で『死の町』とも発言。閣僚の資質に関わる重大な問題と判断して10日付朝刊(最終版)で掲載した」と話す。
 おかしくないか? なぜ10日の朝刊最終版だったのか。9日午前の「死の町」が問題になったといっても、「放射能」は8日夜のことだった。ならば、9日夕刊には十分間に合う。それがなぜ10日のしかも最終版になったのか。まるで説明になっていない。
 
 「『死の町』発言が閣僚の資質に関わる重大な問題なのかどうかを、果たして社内できちんと判断したのか」という疑問はさておいても、「他社に遅れてはならない」の横並び意識、そこには「これをどう報じるべきか」の逡巡も迷いも疑問も自らへの問いかけも再調査への意識も問題化すべきかどうかの判断も、ここにはまるでないではないか。

 朝日が、この問題に目をつぶらなかった姿勢だけは認めるにしても、それならば自らの姿勢もきちんと問うべきではなかったか。

 よってたかっての「鉢呂おろし」。少し前の「菅おろし」の、あの凄まじいメディア・スクラム報道とどこが違うのだろう。こういう一色に染まった報道が人々の不信を買い、マス“ゴミ”(僕は嫌いな言葉なので使わないが)とネット上などで吐き捨てられるようになりつつあることに、なぜ、当のマスメディア内部の人たちが気づかないのか。

 鉢呂氏の「脱原発」志向と今回の“鉢呂おろし”は、果たして無関係だったか。もし、まったく関係なかったのだとすれば、なぜこんな一斉報道が巻き起こったのか。それを検証する義務が、マスメディアにはあるのではないか。

 もうひとつの辞任理由の「死の町」発言については、なぜそれがこんな大問題になるのか、僕にはよく分からない。チェルノブイリのルポなどで「死の町」とか「ゴーストタウン」などという表現は、これまでに何度も目にした。新聞や雑誌で読んだし、テレビのリポーターがそう言うのを耳にしたことも、何度もある。外国への表現はなんでもなくて、日本国内での言い回しであれば問題化される。どうにも納得いかない。

 これについて、的確に呟いてくれている方がいた。
@tako ashi 小田嶋隆さん。
「死の町」という描写は被災者の心を傷つけた。だから大臣は辞任した。ということはつまり、被災地を描写するにあたって「被災者を傷つけない言葉」を見つけることができなかった人間は、被災について言及することが許されない。実質的な言論タブーの成立ですよ。
 この文意に、僕は賛同する。僕も文章を書いている。むろん、読んでくれる方たちに“不快の念”を与えないように、それなりに注意を払って書いているつもりだ。しかし、それでも「不快だ」という方が時折反論や批判を寄せてくる。それは仕方ない。

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