- 2014年06月25日 12:05
袴田事件の再審開始決定を契機に日本の刑事司法改革を進めよう! - 西嶋勝彦
2/4 私たちは、袴田事件の開始決定から何を学び取るべきでしょうか。
まず実現すべきは、取り調べの可視化(録音・録画)です。現在、法務省の法制審議会(法制審)で議論を進めていますが、可視化の対象とするのは裁判員裁判だけという事務当局の案が有力でした。つまり全事件の3%以下となるのです。これでは意味がありません。袴田事件のようなえん罪を防ぐには、取り調べの最中に否認から自白に転じるところ、つまり取調べの全過程を可視化することが不可欠です。日弁連が適用事件の拡大を求めていますが、認められたとしても特捜事件など検察独自捜査の事件に留まるかもしれません。それも、例外規定を設けられる可能性があります。本人が拒否した場合や、暴力団事件などで事案の真相解明に支障がある場合は、捜査官の判断で可視化しないことが認められるのです。こうした例外を許してはいけません。
取り調べに関しては、「弁護人の立ち会い」も必要です。いくら捜査官側に録音録画を義務づけても、実行しないこともあるはずだからです。録音録画するかどうかを含めて、被疑者が弁護人に相談できる状況を作らなければなりません。もちろん、「すべての事件に弁護士が立ち会えるのか」という指摘もありますが、重要な事件に絞って対応すれば、無理ではありません。大切なのは、弁護人の立ち会いを捜査官側が拒めない状態にしておくことです。
取り調べの可視化と弁護人の立ち会いは、先進国ではすでに常識となっています。
同じように、「代用監獄の廃止」も国際的な常識です。本来、勾留決定後の被疑者・被告人は、法務省所管の拘置所に収容されなくてはなりません。しかし日本では、長期間にわたって警察署に拘束することが認められています。この問題は、国際人権規約委員会が4年に一度行う条約実施状況の審査で、いつも改善を求められています。
最近、同条約の自由権規約委員会が、次のようなゼネラル・コメントを発表しました。
「刑事上の罪に問われ逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の前に速やかにつれて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する。裁判にふされる者を抑留することが原則であってはならず」
勾留が決まったあとは拘置所に移して、必要なら捜査関係者が拘置所まで出向いて取り調べなさいということです。しかし、法制審ではまったく議論されていません。
このゼネラル・コメントは、日本の「人質司法」をも批判しています。日本の司法制度では、一度、勾留されるとなかなか保釈が認められません。被疑者・被告人は接見禁止となり、弁護人以外、家族とも、仕事上の重要な関係者とも会えなくなります。早く釈放されたい一心から、うその自白をしてしまう可能性が高く、えん罪事件の温床になっています。あくまでも身体拘束は例外であることを徹底させ、人質司法から脱却しなくてはなりません。
次に、「全面的証拠開示」もまた、袴田事件から学ぶべきテーマです。もしも証拠開示がなされなければ、袴田事件の再審開始決定が実現したかどうか、難しいところです。しかし、証拠は検察のものではありません。税金を使って捜査し、収集したのですから、国民全員のものです。少なくとも訴訟活動に関わる弁護人や被告人が開示を求めたなら、見せるのが当たり前といっていいでしょう。現在も法制審で審議が進められていますが、裁判員裁判事件、あるいは公判前整理手続を実行する事件に限って、証拠リストを開示することで落ち着きそうです。このリストとは、「何月何日捜査報告書」「誰が誰を調べた供述調書」と書かれているだけで、供述の中身が全くわかりません。せめて再審事件については、全面的証拠開示にするように求めていますが、全く動く気配がありません。
えん罪問題は、ようやく再審開始決定にたどり着いたとしても、検察官の即時抗告によってひっくり返されることがあります。例えば名張毒ぶどう酒事件。一審は無罪、その後、いったんは再審開始決定が下りましたが、検察が上訴したため名古屋高裁が再審開始決定を取り消しました。福井女子中学生殺人事件や、日本の再審のルーツといわれる吉田岩窟王事件も、名古屋高裁が再審開始決定を取り消しています。免田事件では、1956年に熊本地裁で再審開始決定が出ましたが、福岡高裁で取り消されました。それから20年以上経ってようやく再審開始決定が確定し、再審公判によって無罪が確定しました。検察官の上訴は、なんとしても禁止しなくてはなりません。



