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「イスラエル・パレスチナ問題」その3―ハッサン王子の発言

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ハッサン王子は故フセイン国王の弟で、国王がアメリカでの長期病気療養で不在の際には、実質的に国王を務められた。かつてはローマクラブの会長を務め、現在は世界宗教者平和会議の議長を務めている。

その発言は示唆に富んだものだが、極めて難解で、来日の折の講演会で、日本の第一級の通訳者が王子の講演終了後、戸惑いの表情で通訳ブースから出てきたこともあった。

今回の私との会談は、国際グループの小林立明がメモしたもので、ハッサン王子の発言をまとめてみた。
1. 水の問題について
イ) 水については、資源保護という観点だけでなく、社会的正義の実現という観点が必要。すべての社会階層が良質の飲料水と衛生用の水にアクセスすることができる権利を保障するという観点から議論すべき。水が脅威なのではなく、民主主義が脅威なのである。

ロ) イランにおいても水の問題は重要な問題となりつつある。

ハ) イスラエル政府は、パレスチナの権利を認めていないが、飲料水の半分以上は占領地域から来ているという現実がある点も忘れてはならない。

2. 西アジア・北アフリカ地域の課題について
イ) 中東和平に、アラブの国々を改めて関与させる必要がある。水の問題のみならず、難民の問題も大きく、track 2の対話メカニズムが必要だ。この地域はますます断片化しつつある。断片化すればするほど、流血の事態が発生する可能性が高まる。この地域の豊かな多様性を再認識し、地域の課題を解決していくための新たな対話の場が必要である。対話の場において、地域の「創造的な共有財(creative commons)」は何かを考えてみたい。

ロ) 西アジア・北アフリカの対話メカニズムとして、ヘルシンキ・プロセスがモデルとなりうる(注:2002年にフィンランド政府とタンザニア政府がスタートさせたグローバル・ガバナンスに関するイニシアチブ。2005年までの第一フェーズにおいてマルチ・ステークホルダー協力に向けた概念を発展させ、2007年までの第二フェーズにおいてこの実現のための行動計画やフレームワークを構築した。)

ハ) 21世紀はアジアの世紀である。東アジアのインフラ整備の成功は大変参考になる。東アジアの成功例を取り入れるため、東アジアと西アジアのwisdom(英知・知恵)を交換できるような対話の機会が必要。シンガポール大学の中東研究センターのように、東アジアの視点で中東を見ている研究所と共同して対話プログラムを作れないか。

ニ) 今まで、経済発展や開発が議論の中心となってきた。しかし、現在は、こうした問題を超えて、「人間の尊厳」について考える時期にきている。たとえば、ケリー国務長官は、この地域の発展のために40億ドルの投資を行うと言明した。しかし、今必要とされるのは、贅沢なホテルを建設するために巨額の投資を行うことではなく、地域の安定と人権のためにより多くの時間と資金を投入すること。このため、アジア開発銀行やアフリカ開発銀行と同様の機能を持った「アラブ地域開発銀行」の創設なども検討されるべき。

ホ) 中東アラブ地域が自立するための新たな経済政策が必要。日本のアベノミクスのような強力なイニシアチブが求められる。しかし、アラブ地域では、既存勢力が影響力を失うことを恐れて、このような新たなイニシアチブに反対している。イスラエルが西アジア・北アフリカ地域の平和と安定に果たすことのできる潜在的な役割は極めて大きい。

ヘ) 人権の問題以上に、人道の問題に焦点を当てるべき。人道の問題の方がより包括的である。西アジア・北アフリカ地域の安定化のためのフレームワークを構築する必要がある。そのためには、どのような未来を構築するかというビジョンが不可欠。

3. イスラエル・パレスチナ問題について
イ) エルサレム聖地のマネジメントを考える必要がある。これは政治から切り離して行われなければならない。

ロ) アラブ文化の観点からユダヤ人を捉えなおす必要がある。

ハ) ナショナリズムに基づく紛争が、宗教紛争になってしまうという問題がある。

ニ) 「地域市民のための投資(Regional Citizenship Investment)」という考え方は、すべての人々に訴えかける力がある。我々は、「共生(Convivial)」を目指さなければならない。
**********************
第6回WANA(西アジア・北アフリカ)フォーラム
―スピーチ要旨―

日本財団会長 笹川陽平
2014年6月11日
於:ヨルダン・アンマン

私はハッサン王子と長年にわたり親交を深める中で、WANA地域の平和で安定的な発展に対する殿下の熱い想いを幾度となく伺い、その確かなビジョン、情熱、揺らぐことのない志に大変感銘を受けてきました。

WANA地域に目を向けてみますと、ここが社会的、経済的、政治的、そして自然環境の側面から見ても世界でも極めて重要な地域の一つであるということを痛感します。
しかし、長年の紛争やそれに続く暴動は、人間の安全保障を脅かし、政情不安を煽り、WANA地域に困難な課題をもたらしています。

このフォーラムが、WANA地域の成長を妨げ、人々の生活を困難にしている様々な問題にWANA地域の関係者が取り組むための対話の場を築いてきた経緯は評価すべきことであり、まさに、ハッサン殿下の先見性によるものであると思います。

今年のフォーラムのテーマは、「リーガル・エンパワメント」です。世界中の何十億人もの人々が法の保護の外に追いやられていると言われており、WANA地域も例外ではありません。法の支配からの排除は、経済発展や人材育成に弊害をもたらし、さらには、インクルーシブな社会の構築への道を閉ざしてしまうでしょう。

私がこれまで行ってきた人道支援活動においても、このような暗い現実に何度も直面してまいりました。社会や法の保護から置き去りにされた人々。貧困にあえぎ、基本的な権利があることを意識していない人々。そのような人々の中でもハンセン病患者・回復者についてお話したいと思います。

ハンセン病は人類の歴史の中で、誤解され、偏見の対象となってきた病気です。治療をしないと、顔や手足などに目に見える変形が生じることもあるため、人々に恐怖の念を抱かせました。また、神の罰や祟りであるとも思われてきました。多くの国々では、ハンセン病感染者が家族から引き離されて孤島や遠隔地に隔離されてきました。

何世紀にもわたり、ハンセン病患者・回復者は法の保護の外で生きることを余儀なくされ、公共サービスにアクセスすることもなく、彼ら自身の人権を意識することもなく、そして、貧困から脱却することもありませんでした。

最近になってようやく、ハンセン病患者を取り巻く状況が改善されるようになりました。その背景には、国際機関、政府、NGO、そしてハンセン病回復者自身など様々な関係者の協力がありました。

こうした関係者との取り組みの中でも「リーガル・エンパワメント」がもたらした成果は顕著なものでした。多くの国々でハンセン病に対する差別法が撤廃されました。さらに世界中の様々な国々においては、ハンセン病患者・回復者自身が自らのための組織を設立し、法の下に平等な権利を持つ市民であると認識されるような活動をしています。彼らの努力は、ハンセン病患者・回復者の公共施設や社会的リソースの利用ができるような具体的な成果へとつながりました。そして、最も重要なのは、ハンセン病患者・回復者自身が自ら声を上げ、社会に発信できるようになったことです。

しかしながら、真の意味でのインクルーシブな社会を実現していくためには、多くの人々の意識を変えるという努力を同時に進めていかなければなりません。私は、公正を欠いた行為が、長年の慣習と伝統に根深く結びついているという社会を多く見てまいりました。あまりにも根深いため、意識の高い人ですら、このような現実に気づかないのです。これからの議論でこうした視点も検討の対象に含めていただければと思います。

WANA地域において、様々な分野のリーダー的立場にある皆さまが、個人や自国の利益に捉われず、この地域全体のより良い未来を追求するために、忌憚なく議論することができるこのような機会は大変意義深いものです。WANAフォーラムが、今後WANA地域の発展と人々の明るい未来に貢献することを期待しています。

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