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  • 兎園

新所持罪を含む児童ポルノ規制法改正案の可決・成立、その施行に向けて気をつけておくべきこと

 今年の国会で、著作権法改正案と特許法等改正法案(第309回参照)、地理的表示保護法案(第311回参照)、児童ポルノ規制法改正案が可決・成立した。(意匠法の改正と関係してハーグ協定のジュネーブ改正協定とロカルノ協定も承認されている。)

 児童ポルノ改正法改正案について、先週6月17日の参議院法務委員会での審議において定義の問題についてなどかなり突っ込んだ議論がされたところもあり(インターネット審議中継参照)、以下のような附帯決議(pdf)がついたのが不幸中の幸いとは言え、
 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

一 児童を性的搾取及び性的虐待から守るという法律の趣旨を踏まえた運用を行うこと。

二 第七条第一項の罪の適用に当たっては、同項には捜査権の濫用を防止する趣旨も含まれていることを十分に踏まえて対応すること。

三 第十六条の三に定める電気通信役務を提供する事業者に対する捜査機関からの協力依頼については、当該事業者が萎縮することのないよう、配慮すること。
条文解釈上まだ曖昧なところは多い。そこで、ダウンロード犯罪化の時に書いたことと同じなのだが(第282回参照)、今回の通常国会で成立した中でも一番問題の大きいこの法改正についての注意はいくらあっても悪くはないだろうと思うので、前回に続き、ここで少しネット利用との関係でまず考えられる注意を書いておきたい。

(1)P2Pファイル共有ソフトは法律的なことと技術的なことをある程度理解してから使用すること

 著作権法のダウンロード犯罪化の摘発例は今のところまだないが、児童ポルノの新所持罪(性的好奇心目的所持罪)が導入されることで、P2Pファイル共有ソフト利用のリスクはさらに高まることになる。余計なトラブルを避けるために、P2Pファイル共有ソフトを使うのであれば、使おうとするソフトが技術的にどのようなことを行っているのか、それが法律的にどのように考えられるのかについてできるだけ知っておいた方が良い。P2Pファイル共有自体が違法や犯罪であるということにはなり得ず、新所持罪の導入で違法ファイル共有の摘発数が劇的に増えるということも考えがたいが、警察はネット関連の最初の摘発対象・スケープゴートとして違法ファイル共有ユーザーを狙って来るだろうと考えられるのである。

(2)家庭で無線LANを使う場合は必ず暗号化を施すこと、軽い気持ちで他人にインターネット回線を貸さないこと

 児童ポルノ新所持罪について警察がどのような運用をして来るか読めない中で、無線LANを暗号化せずに使うことほど危険なことはない。また、インターネット回線を軽い気持ちで他人に貸すべきでもない。他人の行為で、警察が我が家に家宅捜索に来て痛くもない腹を探られるような事態を避けるためには、家庭で無線LANを使う場合必ず暗号化を施すことを忘れないようにし、また、基本的に他人にインターネット回線を貸すようなことをしないよう気をつけておいた方が良い。さらに言えば、暗号化方式の強度もなるべく高い方が良いだろう。

(3)スマートフォンなど携帯電話も含め子供のインターネット利用に気を配ること

 親が自ら変な写真を撮ったりしないよう気をつけるのは無論のことだろうが、児童ポルノ規制法はそのそもそもの性質から子供が関係して来る法律である。普通の意味で性犯罪の被害者になる可能性があることだけではなく、本来の法律の趣旨からすると奇妙な話ではあるのだが、読売新聞の記事などでも書かれている通り既に自画撮りの摘発例も多く、今回の法改正によって子供が自身の行為によって児童ポルノ関連罪で摘発される可能性が高まることになることも全ての親が知っておいて良いことだろうと思う。子供のインターネット利用を親が全て監視するべきだなどと言うつもりもなく、無意味に子供を脅すこともないだろうが、インターネットへのアクセスが無制限に可能なスマートフォンなどの携帯電話を制約なしに使わせるようなことはまず止めるべきだろうし、子供のネット利用についてさらに気を配る必要が出て来るのは間違いない。

(4)サイト管理者は書き込みやリンクの掲載などに気をつけること

 幇助による摘発の可能性も考えると、何かしら書き込みを可能としているサイトの管理者は書き込みやリンクの掲載に常に気をつけておく必要がある。普通ほとんどの場合で問題になるとは思えないが、警察が何をして来るか分からない中で、警察に目をつけられているだろう各種サイトの管理者は特に気をつけておいた方が良いだろう。

(5)児童ポルノを使って脅すようなメールなどについてはまず詐欺やウィルスの可能性を疑うこと

 これも他の国の例でかなり見かけるが、児童ポルノを使って脅すようなメールやサイト表示はまず詐欺やウィルスの可能性を疑った方が良い。今後このような詐欺・ウィルスはさらに増えると思えるのである。とにかく、そのようなものを見ても慌てないこと。ただし、日本でも警告の取組は行われており、本物の警告である場合もあることには注意しておいた方が良い。警告に関する法律的なことが良く分からなければ、専門家への相談を考えること。(弁護士などでも良いが、そこまでの話でなければ、警察庁・各県警のサイバー犯罪担当課へ直接確認してみれば良いのではないかと思う。)

(6)インターネットを今まで通りに使い必要以上に萎縮しないこと

 以上多少注意点について書いてきた訳だが、最低限の注意以上のことはやりようがなく、必要以上にネット利用について萎縮することはないだろう。今後どうなるかは何とも言いようがないが、この点で、前回書いた通り「取得の時期などを含めて、自己の意思に基づいて所持するに至った時期とか経緯などについて、できる限り客観的、外形的な証拠によって確定するべき」という法改正提案者の趣旨と、上で引いた附帯決議の内容が警察・検察にきちんと尊重されることを私も望んでいる。

(なお、このブログを読んでいる方にそんな方は大していないのではないかと思っているが、警察の捜査の端緒として国会答弁ではっきりと言われていた唯一の例である児童ポルノ業者の顧客リストに名前が載っているような方々は早めにこのような問題に詳しい弁護士に相談に行くのが良いのではないかと思う。)

 上で書いたリスクはダウンロード犯罪化でもあったリスクだが、今のところ著作権法での違法ダウンロードの摘発例がいまだなく、児童ポルノの新所持罪についてネットとの関係で警察・検察が何をやってくるか読めない中で、ネット利用についてさらに今回の児童ポルノの新所持罪のリスクが加わることになる。恐らくこれもすぐにどうこうということはないだろうが、濫用の懸念は常にあり、今後も運用について十分な注視が必要である。著作権法と比べて非親告罪であることがここで何かしら影響して来ることも十分に考えられるだろう。

 また、幸いなことに児童ポルノ規制法改正案に関する実務者協議の中で漫画やアニメに関する調査研究条項は削除されたが、自公議員が審議で見せた執念から考えても、残念ながら今後も青少年健全育成基本法や刑法の猥褻規制などと絡めて漫画やアニメの規制が何かと取り沙汰される辛い状況が続くのもまずもって間違いのないところだろう。

 法改正後も児童ポルノ規制法については定義の問題から運用の問題からブロッキングの問題から何から何まで問題は山の様に積み残されたままである。国会の答弁でははぐらかされているが、非常に微妙な論点として通信傍受法の改正検討との関係もある。どんなことでも法案が通ったらそれで終わりということはない。さらに言うなら、情報の所持・取得罪自体に問題があるという認識がなかなか広く浸透しないのは非常に残念であるものの、その点に関して私の考えに変わりはないし、私は今後もそう言い続けるだろう。

 次回は6月20日に決定された知財計画2014の内容について取り上げる予定である。

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