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3.11以降の世代間倫理を考える――討議か、想像力か - 戸谷洋志

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民主主義と世代間倫理の連結

以上のヨナスの思想は、社会的に大きな影響を及ぼし、哲学史の文脈においても新しい地平を切り開くものであったが、同時に、それが民主主義の逸脱する可能性をもつものとして批判を受けた。そうした批判者には、例えば科学哲学者のカール・ポーパーがいる(Popper [1987])。ヨナスのいう未来の世代への責任は、討議によって合意を得るという手続きを踏むことなく課せられる義務である。それは場合によっては暴力的な義務の押し付けにもなりうる。

原子力発電所の廃炉をめぐる議論を例にとってみよう。もし廃炉を決定することができれば、未来の世代が被る危険性を軽減することができ、私たちは責任を果たすことができる。一方で、それは現在の世代に電気料金の値上がりを強制するものであり、多くの人々の生活を苦しくさせる。そのため、原子力発電所を存続させるべきだ、と考える人々が社会で多数を占めているとする。そうした状況にあっても、ヨナスの思想は、あくまでも廃炉の決定を促す。何故なら、現在の世代の人々と合意を得られるか否かは、そもそも問題にはならないからである。そうだとすれば、多くの人々は自らの意志に反した生活苦が強いられるのであり、そもそも反論の機会すら用意されていないことになる。ここに、世代間倫理と民主主義の矛盾が露呈することになる。

この観点から、両者を接続させようとするのが、討議倫理学の旗手であるカール・オットー・アーペルである。アーペルは、そもそもヨナスが前提にしている、私たちと未来の世代との非対称的な関係を疑問視する。確かに、私たちは未来の世代を一方的に傷つけることができるが、だからといって私たちが「大人」で未来の世代が「乳飲み子」だと考えることは妥当ではない。むしろ未来の世代は、たとえまだ存在していないのだとしても、潜在的には民主主義的な共同体の成員として認められるべきである。そうである以上、私たちと未来の世代は同じ権利を有しているのであり、あくまでも対称的な関係にある(Apel[1988], S.196.)。

アーペルは、民主主義の改善を追求することから、未来の世代への責任を導き出す。私たちの社会は、開かれた討議による合意のプロセスによって、ルールを形成していくべきだ。しかし、現実の世界にはそうした討議を阻むものが多くある。権力、偏見、不平等などである。私たちが民主主義を支持する限り、その前提として、開かれた討議の場を実現するための努力が必要になるのであり、コミュニケーションの状況は漸次的に改善されていかなければならない。ただし、もちろんそうした改善は短期的には実現せず、無限とも思える時間が必要である。民主主義の前提となる開かれた討議の場の実現と、そのための現状の不断の改善は、未来の世代へ引き渡されるべき課題である(ibid., S.203.)。そうである以上、私たちは未来の世代が存続できるように配慮しなければならない。

アーペルの思想に従うと、現在の世代と未来の世代の利害が対立したときには、どのような結論に至るのだろうか。ヨナスとは異なり、アーペルはあくまでも現在の社会での討議を重視し、そこで得られた合意をルールとして採用する。ただし、そのルールは未来の世代の存続と両立するものでなければならない。そうでなければ、当の討議が依拠している民主主義の基盤自体が崩壊するからである。そのように考えることで、アーペルは世代間倫理と民主主義の連結を試みる。

討議か、想像力か。

ドイツにおける世代間倫理の最近の研究では、以上のような討議倫理の思想を前提にするものが多数派を占めている。ただし、そこにも依然として検討されるべき問題が残されている。それは、アーペルの考える世代間倫理においては、討議のプロセスが尊重される以上、専門家の意見が圧倒的な影響力をもつということである。アーペルは、未来の世代への責任を議論する際には知識人よりも専門家が主導的な役割を担うべきであると主張する(ibid., S.81.)。もちろん、高度な科学技術の運用に際して、専門家の知識は不可欠のものである。しかし、同時に考えなければならないことは、専門家による安全性の保証が、もはや必ずしも信じられなくなったということである。私たちはその現実を福島第一原子力発電所事故によって実感したはずだ。

前述した通り、アンダースとヨナスは科学技術の制御の困難さを指摘した上で、専門的知識よりも想像力の力を重視する。そうした想像力には論証がなく、根拠がない。そうである以上、討議の場で相手を説得するには使えない。しかし、討議の場で説得力のある論証が、いつでも信用できるものであるとは限らない。特に原子力技術を巡る技術において、そのことは特に留意されるべきである。ここには、討議を重視するべきか、想像力を重視するべきかの対立構造が示されている。

本論の中で結論を下すことはもちろんできない。ただ、討議倫理が多数派を占めているという現状を顧みた上で、また福島第一原子力発電所事故の経験を踏まえた上で、筆者は想像力の重視を一つの選択肢として擁護したいと思う。3.11以降の世代間倫理は、科学技術が原理的に制御不能であるという現実を前提にしなければならない。その上で、そうした制御不能なものと付き合い続けるためには、逞しい想像力を鍛えることが必要になるはずである。アンダースが主張する「道徳的想像力」、ヨナスが主張する「恐怖に基づく発見術」というアイデアは、その意味で参照するに値する。

そうした想像力が発揮された実例の一つを、「100,000年後の安全」に見ることができる。設計者たちは、放射性廃棄物の永久処分場を、ムンクの「叫び」として表象させようとした。もちろん「叫び」と処分場の間に直接的な関係はない。しかし、「叫び」として表された処分場は、「処分場」と名付けられるよりも、一層その本質を暴露しているように思える。そうした飛躍を可能にするような、しなやかな想像力を鍛えることが、未来への責任の一翼を担うのではないだろうか。

以上の考察に基づいて、筆者は具体的に次のような提案をしたい。原子力発電所の外装を、芸術家のデザインに基づいてリフォームしてはどうか。あるいは、これから建設される予定の関連施設の設計に際して、芸術家を交えては議論してはどうか。もちろん、オルキルオトの処分場のように、不快感の惹起だけを追及する必要はないし、ヨナスのように、あくまでも恐怖のみを追及する必要もない。しかし、私たちが造るものが私たちの想像力を超えているのなら、そこに想像力を超えた外観を与えることで、将来起こりうる危機の回避を促すことができるかも知れない。そして、そうした常人ならざる想像力をもつのが、例えば芸術家であろう。大阪府の舞洲工場など、芸術家が工場をデザインした例はある。特に原子力技術に焦点を絞るとき、そうした試みは単なる設計者の趣味に留まらず、未来の世代への責任として機能するはずである。

参考文献
Anders, Günter [1983] Die Antiquiertheit des Menschen 1. Über die Seele im Zeitalter der zweiten industriellen Revolution, Verlag C.H. Beck, München.
Anders, Günter [1984] Die Antiquiertheit des Menschen 2. Über die Zerstörung des Lebens im Zeitalter der dritten industriellen Revoltion, Verlag C. H. Beck, München.
Apel, Karl-Otto [1988] Diskurs und Verantwortung: Das Problem des Übergangs zur postkonventionellen Moral, Suhrkamp Verlag, Frankfurt am Main.
Apel, Karl-Otto [1994] “Die ökoligische krise als Herausforderung für die Diskursethik” in: Ethik für die Zukunft: Im Diskurs mit Hans Jonas, Dietrich Böhler(Hrsg.), Verlag C.H. Beck, München, SS.369-404.
Jonas, Hans [1979] Das Prinzip Verantwortung: Versuch einer Ethik für die technologische Zivilisation, Insel Verlag, Frankfurt am Main.
Popper, Karl Raimund [1987] Das Interview mit K. R. Popper in: DIE WELT, 8. Juli 1987.


サムネイル「Imagination」Benjamin Thompson

http://www.flickr.com/photos/beija/4585213707

画像を見る 戸谷洋志(とや・ひろし)
倫理学

1988年、東京都世田谷区生まれ。専門は哲学、倫理学。法政大学文学部卒、大阪大学前記博士課程卒(文学修士)。現在、大阪大学後期博士課程に在籍。日本学術振興会特別研究。2013年5月から2014年2月まで、大阪大学文学研究科助教代理。2014年4月から2015年3月まで、ドイツのフランクフルト・ゲーテ大学に留学。ドイツの現代思想を中心に、科学技術をめぐる倫理のあり方を研究している。

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