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日本国2分割案、 「原発依存国」と「非原発国」 - 鈴木耕

 3.11以降、まったく本が読めない状態に陥っていたのだが、このところ少しずつ、本の世界へ戻り始めている。

 だが、よく考えてみると、福島原発の過酷事故がまったく収束する気配を見せないどころか、むしろ刻々と悪化している状況の中で、本の世界へ入るということは、僕もまた、原発から目を逸らし「終わりなき日常」(宮台真司)へ回帰しつつある、ということか。

 日常回帰し始めた世の中の流れに、僕もやすやすと乗せられているのだろうか、それでいいのか、とどこかで呟く僕自身の声も聞こえる。それでも、眠れぬ夜はようやく遠のきつつある。人間の強さか、それとも忘却という自己防衛本能か。

 原発の恐ろしさは、どうやっても拭えない。

 いまだに「原発がなければ日本は崩壊する」とか「日本再生のためには原発再稼動に頼らざるを得ない」などと発言する人たちは、僕などとは比較にならないほど強靭な神経と意志を持っているのだろう。決して尊敬などしないけれど、スゴイとは思う。だがそういう人たちに巻き添えにされるのは、絶対にゴメンだ。

 繰り返すが、僕は怖い。原発が恐ろしくてたまらない。そして憎い。だから、放射能という目に見えぬ汚風を吐き続ける恐ろしい原発に頼る気など、毛頭ない。

 僕は夢想する。日本という国を、ふたつに割ってしまえばいい、と。「原発依存国」と「非原発国」と…。

 どこかにきちんと線を引き(お隣のように緯度線か経度線で分けても構わない)、あちらは原発いっぱいの国、こちらは1基も原発のない国、と分割してほしいのだ。むろん、僕は「原発なしでやっていく国」の住民になる。「それでも原発が必要な国」には、そう思う人たちが移り住めばいい。そうすれば、もう争うこともない。

 ただし、ひとつだけ条件がある。「原発依存国」は、国境線の少なくとも100キロ圏内には原発を造らないということ。「非原発国」も、国境線100キロ圏内には、民家と農地は造らない。そこはたとえば工業団地にする。そうすれば、少なくとも原発から200キロ圏内には「非原発国」の住民はいないということになる。

 工業団地で働く人たちは高速鉄道で通い、住居は100キロ以遠に限定する。「原発大好き国」でたとえ今回のようなすごい原発事故が起きたとしても、「原発嫌い国」の人たちは、少なくとも自分の家は捨てなくてもすむ。福島のように、故郷を追われて流浪せざるを得ないような悲劇を繰り返さずにすむ。

 「原発依存国」は、原発による大量の電気によって、不安は抱えながらも経済的には潤うかもしれない。「非原発国」は、国境地帯の工場を除けば、多くは静かな農業地帯になる。たいした収入は得られないかもしれないが、少なくとも原発事故の恐怖からは逃れて、ゆったり暮せる。

 むろん、「原発なし国」は「原発あり国」から電力を輸入しない。身の丈に合った暮らしでいい。大都市への一極集中という形はとらないから、ヒート・アイランド“現象"も“減少"(駄じゃれ)するだろうし、夏の風も涼しげになるかもしれない。ゆかたと打ち水の似合う国。それでいい…。ゆったりと生きながらも、日本人が得意とするIT技術などを駆使して、いまとは違った豊かさを獲得できるかもしれない。

 「どうしても原発は大切人間」と「怖いから原発止めてよ人間」が同じ国に住んでいるからギクシャクする。いっそ、どちらかに分かれてしまえば、静かに暮せるじゃないか。

 こんなバカなことを書けば、またさまざまな批判や揶揄、罵倒が飛んでくるのは分かっている。だから断っておく。これはあくまで僕の夢物語だ。どんな夢を見ようと、それはカラスの勝手でしょ。

 ですから、この部分への批判は受け付けませんので悪しからず。

 こんな夢物語に遊んだのは、ある本を読んだからだ。

 『黄金の騎士団』(講談社)と『グロウブ号の冒険』(岩波書店)、どちらも井上ひさしさんが遺した未完の小説だ。帯には、こうある。
子ども共和国をつくるために、聖母の騎士園の少年たちが商品先物取引で数百億円の資金を生み出すと、国際資本と政治家が立ちふさがった。逆転の大芝居の結果は!? 『黄金の騎士団』

宝探し ロマンス 裏切り 冒険!! 『グロウブ号の冒険』
 つまり、この2編の小説に通底するのは、「ユートピア」と「小さな独立国」である。

 井上さんには名作『吉里吉里人』(新潮社)がある。もうみなさんご存知の如く、東北の寒村が突然独立してしまうという、奇想天外抱腹絶倒思想深遠文章透徹文学芳香方言満載現代社会痛烈批判未来展望医学立国一読驚嘆続編希望読書不眠再読再悦ノ名作小説、である。

 『吉里吉里人』が書かれたのは1970年代末で、単行本の発行は1981年。井上さんの独立国=ユートピア志向は、このころからはっきりとした形をとったわけだ。

 そして、『グロウブ号の冒険』が書かれたのは1987〜89年(雑誌『世界』に連載)であり、『黄金の騎士団』は1988〜89年(『夕刊フジ』連載)である。井上さんの中で「小国の独立」という夢は、10年以上にもわたって途切れることなく、熟成され続けていたのだろう。

 『黄金の…』は、日本の過疎地に子どもたちだけの共和国を創ろうとする物語だし、『グロウブ号…』は、カリブ海に浮かぶ名も無き島を舞台にしている。どちらも、ある意味で隔絶された場所でのユートピアをめぐる物語なのだ。当時の社会(いや、現代社会にも十分に通用する)への痛烈な批判に満ちた、しかしユーモアに溢れた小説である。


 こんな本を2冊続けて読んだものだから、僕の小さな灰色の脳細胞は精一杯の活動をした。そして、上記のような日本分割案に辿り着いたというわけだ。

 正直な話、ぼくの中にはもう、「原発それでも推進論者」と話す気力がなくなりつつある。だから、「原発必要論者」はあっちへ、「原発不要論者」はこっちへ、と単純極まる「日本国2分割」という発想が出てきてしまったのだ。うむ、我ながら単純である。

 「原発それでも推進論」といえば、とたんに生臭い話になるけれど、海江田万里経産相は、近々、佐賀県の玄海町を訪れて「玄海原発再稼動」を要請するという。その根拠は「原子力安全・保安院が調査した結果、原発の安全性が確認されたから」だという。そんなバカな、と"普通"の感覚の人間なら思うだろう。少なくとも、僕は"普通"のつもりだ。

 福島原発事故は、まるで収束の気配を見せない。毎日のように冷却装置の不具合が見つかり、高濃度汚染水の低レベル化による原子炉冷却などいつのことやら、という状況。また、いままで大きな地震などなかったとされている原発立地地域にも、次々と歴史的大地震の形跡が発見され、どの原発の耐震性にも疑問が持たれ始めている。

 そんな中で、保安院はたった10日間ほどで、全原発の安全性を審査し終えたというのだ。特に実地の立ち入り検査はわずか2日間。これで、どうやって安全性確認がなされたというのか。大地震や巨大津波対策が、そんな短期間でどうやって万全になったというのか。ハリー・ポッターの魔法だって不可能だろう。

 しかも、あの班目春樹原子力安全委員会委員長でさえ「今回の福島原発事故は人災だった」と、はっきり認めているではないか。であれば、それを防ぐ手だてが必要になるはず。班目委員長もそれについて「2〜3年かけて、全原発の安全指針を完全に見直す必要がある」とも発言している。だが、そんなことに保安院はまるで触れていない。

 保安院は唐突に「原発の安全性は確認できた」と言うばかり。大の"仲良し"で、いつも同じ言葉を、まるでオウムのように繰り返していたはずの安全委員会と保安院は、いつから言うことが異なるようになったのだろうか?

 保安院とは本来、原発の安全性をチェックする規制機関であったはずだ。しかしなぜか、保安院は原発推進の立場に立つ"経済産業省"の管轄下にある。推進機関と規制機関が同じ省庁に属している。アクセルとブレーキを同時に踏めばどうなるか?

 もう、書くのもイヤになる。

 玄海原発をめぐる茶番はこれだけではない。

 6月26日に佐賀市で行われた「住民説明会」という名のセレモニー。なんと、保安院が「原発再稼動に向けた安全性の説明」の前面に立ったのだ。もはや「原子力行政のチェックを行う規制機関」という肩書きさえかなぐり捨てての大醜態。しかも、「住民代表」は、国が選んだたった7名。しかもしかも、80万人の県民のうち12万人しか加入していないケーブルテレビでの中継。あとの県民には、説明する義務も必要もないということか。

 なぜそういう姑息な手段に出たのか、という質問には、主催者側はこう答えたという。「説明会用の経費が600万円しかなかったので、大きな会場は借りられなかったし、地上波テレビの番組は買えなかったから」なのだと。

 噴飯ものとしか言いようがない。これまで原発に関しては、千億円単位の原発マネーを各自治体にばら撒き続けてきたではないか。600万円しか費用がない? そんな言い訳が通るものか。

 さすがに、呆れ果てたのは僕だけではないらしい。各新聞もかなり皮肉まじりで書いている。見出しだけでも拾っておこう。
玄海原発再開 国が説明会 
質問1回1分 参加者7人限定(朝日新聞)

政府側、安全性を強調 玄海原発再開へ説明番組 
佐賀県民、納得程遠く(東京新聞)

参加者限定に批判 玄海原発再開へ政府が説明会(毎日新聞)
 特に、東京新聞はコラム「こちら特報部」で、かなりきつい批判をしている。これも見出しだけをあげておく。
保安院は“原発推進院”か 玄海など再開へ安全性強調 経産省と一体、「独立検討」国際公約に矛盾
 これらの批判に、政府・経産省・保安院はどう答えるのか。いつものように、口をぬぐって知らんぷりか。保安院は"原発推進院"とまで皮肉られても平気なのか。

 さらに、この説明会をめぐっては、看過できないことがある。説明会オブザーバーとして高村昇長崎大学教授が同席していた(東京新聞)ということだ。この高村教授、例の山下俊一長崎大学教授とともに、「福島県放射線健康リスク管理アドバイザー」というご大層な肩書きを持って、「20ミリシーベルトまでは安全」とか「レントゲンと比べてもこの数値は安全」などと福島県内を言い回って歩き、心ある住民たちから解職要求まで出された人物である。

 しかし、彼は肩書きが示すように、放射線医学の教授だ。原発の安全性などの工学系には素人といっていい。原発の安全性が議論されるはずの場に、なぜ彼がオブザーバーとして呼ばれたのか。またしても、「多少の放射線は体に害はない」などと安心を売るためだったのか。売るものがあるうちは、恥などかき捨ててどこへでも出向く。

 この一点だけを見ても、住民説明会なるものがいかにデタラメで、原発再稼動へ向けた単なる儀式、パフォーマンスでしかなかったことが分かるだろう。

 この原稿を書いているのは6月28日。いっせいに各電力会社の株主総会が開かれた。テレビで見る限り、東京電力の株主総会は、凄まじい数の警官や機動隊員に守られての開催だ。電力会社が国家権力そのものであることの象徴のような光景。

 電力を、国民の手に取り戻せる日は来るだろうか…。
 
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久しぶりに多摩川へ散歩。河川敷のグラウンドでのアマチュアラグビーを観戦。楽しかった。
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多摩川の土手に咲いていた可憐なネジバナ

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