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歴史の転換点を生き延びるにはどうすればいいのだろう

いま世界は歴史の転換点に位置している。サブプライム危機を発端として米国が金融危機に襲われると、経済安定のために数兆ドルという規模の税金が投入された。金融崩壊の影響は米国に留まらず、世界各国に波及し、とりわけ債務危機を抱える国々には深刻な事態を引き起こした。2010年に入ると、ギリシャに国債を返済する経済能力が備わっていないことが発覚した。するとすぐさまスペイン、ポルトガル、アイルランドにデフォルト(債務不履行)を懸念する声があがり、市場が大きく反応した。それは金融システムの相互連関が、金融機関を柱として網の目のように人々の生活にまで繋がっているから、ユーロを導入している16ヶ国すべてが経済危機に陥る可能性があるからだ。いまやわれわれは継続的な危機と、複数のバブル崩壊の後始末に直面している。残されたのは、大量の政府借り入れや増大する公的債務、記録的失業、そしてバランスシートを直そうと必死の消費者たちだ。

こうした現状をうけて、多くの国や地域では、これまでの世界経済の動かし方に再考を促し、政府が市場に介入して新しい法律や規則を制定しようと必死になっている。バーゼルⅢ、ドッド・フランクといった規制案を金融機関に対して実行し、まずは金融システムの相互連関を紐解こうとやっきになっている。将来最も成功する社会というのは、実験の余地が残され、時間をかけて制度を進化させていく余裕のある社会であるはずだと考えられるが、それもできないほどに目の前しか見えていない。さらにこうした危機に対応するため、とりわけ欧州地域では、競争力回復に不可欠な構造改革や財政再建に力をいれている。構造改革は、既存の枠組みで生活する人々に痛みを伴うものであるから、長期化すると、改革に反対する勢力が活況となり、本来の方向から外れる可能性がある。まさにイタリア、フランスではこうしたことが憂慮されるほどに、緊縮財政疲れが見え隠れする。

日本でも財政再建・構造改革の一環として消費税増税がうちだされた。まず消費税増税が消費に与える影響は、「駆け込み需要とそれに伴う消費の反動減」である。駆け込み需要に関しては、消費税が5%に引き上げられた97年と比較しても、ほぼ同程度であったが、その反動減は、それを大きく上回っている。これは現内閣の予想外のことであると思われるが、さらに問題なことは、実質可処分所得が4月に90年以降で2番目の下落率を記録したことだ。消費税増税が物価水準を押し上げ、実質所得を低下させる消費減退効果があることは広く知られているが、ここに円安に伴う輸出増加を見込んだ戦略により、減退効果が緩和されると考えていたのだろうが、世界的な需要減退により、輸出数量が伸びておらず、実質所得が大幅に低下する可能性が憂慮され、われわれの生活に今後じわじわと影響してくることが予想できる。

事態を一発で打開できるような簡単な処方箋はいまや存在しない。われわれは大量の苦痛を生み出す状況をつくりだしてしまったのだ。いままさに必要なのは、あらゆる組織で、透明性、論理、コラボレーションといった新しい規範に基づいた制度や仕組み作りなのだ。ビジネスで成功するには、確立されたルールや規則を正確に理解し、それを巧みに利用した商品やモデルを打ち出すことにほかならない。これを実行するために、専門家を収集し、そこで切磋琢磨させる方法が、これまで当たり前とされてきた。現在では、ひとつの専門性やモデルでは、もはや規制の圧力や時代の変化に対抗するのは困難であろう。例えば金融業界においても、ひとつの商品やモデルを永続的に担当し、市場での歪みを利用して収益をあげる構造が実施されてきた。これはバランスシートに制限がなく、市場を独善的に利用することができたからこその法則であろう。しかしながら、これから電子媒体の多様性や向上、並びに市場へのアクセスが規制緩和されたことから、簡易的なものは専門家の手を介さずに、つまり手数料を払わずに行なうことが可能になってきている。投資家がプライマリー市場に直接アクセスすることができれば、何も証券会社に高い手数料を払わずとも国債などを購入することができるし、マーケットの動きに合わせた取引を瞬時に実施できるシステムが確立されれば、単純取引を判断、プライシングするトレーダーも必要なくなる。そして透明性があり、オープンな電取引市場が創造されたならば、相対取引市場で、投資家が自由にビッド・オファーを提示・閲覧することが可能になり、思考力や創造力の乏しい営業マンは排除されることになるだろう。

もはや組織に選択の余地はないのだ。世界は透明性を高めて、収益構造をクリーンにしていく方向に大きく舵をきりはじめている。つまり消費者に商品やサービスの適正価格が伝わり、一部の専門性は陳腐化している。ここで生き残るには、高い専門性に付加価値をつけるようなコラボレーション型のビジネスモデルを創造するしか道はない。これは多くの産業で求められることになるだろう。金融業界でいえば、あらゆる商品設計を創造・立案するエンジニアチーム、その商品を理解するだけの高い専門性をもった営業チームが、確立された販売網に説明責任を適切に果たす、そしてその商品の流動性や需給を適切に判断できるトレーディングチームが価格を提示し、リスク管理チームがその複雑な商品を適切に管理する。このような以前では考えられなかった部門を越えた制度設計が必要不可欠になってくるのは紛れもない事実だ。それは不動産担保証券といった過去の遺産に多額の賠償命令が下っていることからも明らかだ。

知識やモデルがオープンになり、透明性が高まるというのは言葉でいうと理想的で簡単なことであるが、一組織、一個人の専門性が喪失することに直接結びつくわけであるから、導入することは困難を極めるだろう。しかし時代の流れは待ってはくれない。時代にそって生きていくのか、はたまたあえて反発して既存のモデルにすがり、保護していくのか、それは個人の選択に依存される。そのどちらが正しいかは、近い将来わかることになるだろう。新しい時代はもうすぐそこまできているのだから。

参考文献
マクロウィキノミクス 画像を見る
エンドゲーム ― 国家債務危機の警告と対策 画像を見る
国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源 画像を見る
あなたも不合理な世界の恩恵を受けている1人かもしれない リベラル日誌

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