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「新聞社の都合優先」なんて論理を 今どき通用させますか? - どん・わんたろう

 東日本大震災と原発事故をめぐるマスコミ(主に新聞社)の取材姿勢について、思わず「やっぱりなぁ」と漏らしてしまうような話を耳にした。それぞれ社員から聞いているので確度は高いはずだけど、ウラの取りようが難しい事案ではあるため、社名などは出さずに記すことにする。社会性が高いテーマには違いないから、メディアリテラシーを磨く材料というイメージで読んでいただきたい。

 ある新聞社は震災の被災県で、地元のタクシー会社を1社まるごと借り切ろうとしたそうだ。震災取材にあたって、記者を中心に後方支援の要員なども合わせれば、報道機関によっては一度に100人単位の陣容を全国から投入していた。東京からハイヤーを派遣したりもしていたが、費用がかさむし地元の地理にも不案内だ。そこで、本社の編集幹部の号令となったらしい。

 しかし、言うまでもなく、タクシーというのは地元の人たちの足である。とくに震災で公共交通機関が不通とあっては、マイカーを持たないお年寄りらにとっては、いつも以上に必要欠くべからざる交通手段となっていた。それを金に任せて独占してしまうのはいかがなものか、と社内外から声が出たのは当然の理だろう。おそらく報道各社は少なからぬ数のタクシーを借り切ってはいたのだろうが、「1社まるごと」については結局、取りやめになったそうだ。

 震災発生直後に、被災地だけでなく全国でさまざまな「モノ不足」に悩まされたのは記憶に新しい。ある新聞社は、保存食や生活資材を全国の組織を通じて大量にかき集め、被災地に送った。もちろん、自社の取材陣や販売店のためである。

 ところが、取材拠点の県庁所在地など津波の被害を受けなかった地域では早々に保存食に頼る必要はなくなり、生活用品も地元で揃うようになった。その結果、かなりの物資が余ってしまったというのだ。被災地にモノが足りないとさんざん書き散らかし、都市の住民には「買い占めをやめよう」なんてもっともらしく呼びかけていたのは、いったい誰だったのか……。

 原発事故に関しては、福島県南相馬市に支局・報道室を置いていた一部新聞社・放送局がすぐに撤退したことを、ジャーナリストの田中龍作氏が指摘していた(http://tanakaryusaku.seesaa.net/article/194663548.html)。付け加えれば、女性記者を福島県外に待避させた報道機関もあるという。今後、妊娠した時の影響を心配してのことだ。

 マスコミがタクシーを借り切ることも、物資を買い占めることも、何が何でも悪いとは言わない。ただし、被災者や国民の生活を超えて、報道機関が「特権」を享受するための条件がある。地元の人に、さらに国民に、不便を強いることによってしかできない取材があり、知る権利に資する報道があったことだ。もちろん、それを判断するのは国民であるが、前提としてマスコミ各社は被災地での行いを開示したうえで自ら検証することが不可欠である。

 原発事故への対応でも、早々に避難することが悪いとは言わない。記者だって人間だし、身を守ることは必要だ。ただし、撤退するのなら、どういうデータをどう分析し、どんな根拠で撤退の判断をしたのか、読者(国民)にすべて明らかにすべきだ。そして、社員を避難させる必要があるくらい危険な状況なら、全住民を避難させるよう紙面で徹底的に主張するのがスジだろう。少なくとも、一般国民が知り得ない情報を知り得る立場にあるマスコミたるもの、肝心な情報を伝えずに自分たちの安全のためにだけ利用していると思われるだけで失格だ。隠れてコソコソやるのが一番良くない。

 ところで、そんなこんなで震災や原発事故に対応しているうちに、新聞各社、かなりの経費を使った。取材費や出張費、タクシー代に加え、不足して高騰した紙やインク、ガソリンの調達、設備の復旧、等々。半面、震災発生から1カ月ほどは「自粛」の影響で広告がほとんど載らない紙面だったこともあり、経営的にけっこうな痛手を受けたという。せっかくリーマン・ショック後の不況から立ち直る兆しが見え、春以降、電子新聞(朝日)や小学生向け新聞(読売)といった新規事業を軸に攻勢に出ようとしていたのを挫かれた。

 で、目下、各新聞社の経営陣が一番懸念しているのは、消費税の引き上げだそうだ。震災に電力不安が重なって産業界が受けている打撃が大きいとあっては、しばらく広告収入が期待できないし、購読部数への影響も免れない。新聞離れの加速が怖くて、消費税率のアップ分を新聞料金に転嫁するなんて、とてもできないのだ。

 でもね、菅さんという方が昨夏の参院選で消費増税に言及した時、双手を上げて賛同したのは誰だったか思い出してみよう。在京各紙では、東京新聞以外はみんな大賛成の論調を掲げ、その風潮を私は「消費増税ファッショ」と命名させていただいたことだった(http://www.magazine9.jp/don/100630/)。
 ちょうど今、被災地復興と社会保障の財源をセットにした形で改めて消費増税が取りざたされている。新聞社が抱える「懸念」を頭に置いて最近の各紙の社説を読むと、とても興味深い。さすがに読売は「広く薄く負担して支援するという復興税の目的を考えれば、消費税を中心に検討することになるのではないか」「社会保障の安定財源確保に向けた消費税引き上げの重要性は、震災後も変わっていない」(4月20日付)と腹が据わっている。ずるいのはやっぱり朝日で「日本経済に対する震災の打撃が大きい現状では、消費税の増税をはじめ、負担増に踏み切る時期については十分に配慮すべきだ」(4月17日付)なんて逃げ腰だ。

 安易に消費税を上げない方向への論調の変化は歓迎するにしても、トーンが下がった背景には自社の経営の事情があるのでは、と勘ぐってしまうよね。タクシーや物資の話と根は同じで、「自分の都合優先」の論理が、いまだに社会で通用すると思い込んでいるんじゃないかと考えると、奢りを感じちゃって、単純に笑って済ませられない。

 全国紙4社の共同調査とやらによると、今回の震災と原発事故で重要度が増したメディア・情報源として新聞を選んだ人が86%いたそうだ(朝日新聞・5月14日付朝刊)。手前味噌の調査結果に喜んでいるサマは、何とも哀しい。自分たちの振る舞いが明かされれば記事を読まれる時にどう影響するのか、少しでも想像力を働かせた方がいい。意識が世間と乖離していて、ちょっとのきっかけで過去の威光はあっけなく崩れ去る崖っぷちにいることを、認識されるようお勧めする。

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