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- 2014年06月14日 23:03
ワールドカップサッカー、最強コンテンツの理由
サッカーは長らく政治の広報係として利用されてきた。
1939年のイタリアワールドカップでは独裁者ムッソリーニの工作によりイタリアの優勝が演出され、78年のアルゼンチン大会では軍事政権による審判団の買収疑惑が闇に葬り去られた。
クラブレベルでは、フランコ独裁政権下のレアル・マドリーとカタルーニャ自治政府のバルセロナの対立(当時の会長は射殺されている。)やACミランオーナーのシルヴィオ・ベルルスコーニの政治利用がよく知られている。
94年5月、ミランがバルセロナを4-0で下して、5回目の欧州王者となった年、ベルルスコーニによる最初の政権が誕生した。
彼は「フォルツァ・イタリア」(頑張れイタリア)という政党を組織し、党員は「アッズーリ」(イタリア代表の愛称)と呼ばれた。
その時の公約が「イタリアをミランのようにする。」
さて、しかし、この十数年でサッカーオーナーの主導権は政治から経済に移ったように見える。
03年にロシアの富豪、ロマン・アブラモヴィッチがイングランド・プレミアリーグのチェルシーを買収した頃は、まだ投資家による巨額の買収工作は珍しかったが、今やサッカークラブは富豪たちの草刈り場と化している。
マンチェスター・シティを買収したUAEの投資グループやマンチェスター・ユナイテッドの株式を買い集めたグレーザー一族、パリ・サンジェルマンの筆頭株主であるカタール投資庁など有名クラブのみならず、2部リーグや地域クラブにも投資の手は伸びている。
中にはプレミアリーグ、カーディフ・シティのマレーシア人オーナー、ヴィンセント・タンのようにサッカー文化にほとんど理解のないような人物も珍しくない。
タンは監督を次々と解任した挙句、1月の移籍市場で、中国圏で縁起が良いとされる「8」の番号が選手の誕生日にあれば、誰でも獲得するようにと指示したり、チームバッジを中国皇帝の象徴である「竜」に、チームカラーを伝統の青からアジア圏で繁栄を表す赤に変えたり、と昔からのファンを呆れさせる行為を繰り返している。
いや、まだ、タンの例はいいほうかもしれない。
11年1月にスペイン1部のラシン・サンタンデールを買収したインド人、アーサン・アリ・サイドは買収した当初こそクラブに投資はしたが、ほどなく、アリ・サイドの「ビジネス」は詐欺であり、既に資金繰りが行き詰っていることが判明、インターポール(国際警察)に指名手配され、行方知れずに。
クラブは倒産法の適用を申請も、手続きは一向に進まず、3年以上も経営権は凍結されたままとなった。
現在、投資家による買収で最もスキャンダラスなのは、2022年のワールドカップ会場に決定したカタールだろう。
今年6月4日にワールドカップの主要スポンサーがカタールのワールドカップ招致に買収工作があったのではないか、と懸念を示したのをきっかけにFIFAによる調査圧力が高まっている。
14日には元FIFA理事のドイツ人、ベッケンバウアーが処分を受けた。
カタール投資庁が買収工作を進めていたのはほぼ確実だが、7月に発表されるFIFAの調査報告書がどこまで踏み込めるのかが注目される。
カタールはかなり以前から国の「ラスベガス化」計画を推進しており、パリ・サンジェルマン(とフランスのリーグ・アンの放映権)のようなクラブの買収もそのブランド戦略の一環をみなされている。
「スポーツと観光が結びついたスポーツ・ツーリズムには、ビジネスとして巨大なポテンシャルがある。我々は年間30のスポーツイベントを企画している。その経済効果は大きいだろう。」(サウード・ビン・アブドゥラフマーン・アル・サーニ カタール・オリンピック委員会理事)
そのスポーツイベントに君臨するワールドカップ・サッカーにカタール政府がつけた予算は410億ポンド以上(約5兆2000億円)と言われている。
(ワールド・サッカー・キング0502 text by Walter HALE)
このように、サッカーというイベントは、様々な思惑により政治・経済の影響を受ける。
巨額化するサッカーへの投資が今回のブラジルワールドカップで見られたように、庶民の反発を買うケースも今後頻発するだろう。
とはいえ、根っこのところでは、サッカーをすること、見ることは地域の労働者の気晴らしであり、それゆえ、地域のアイデンティティを確かにする。
2011年にロシアリーグのクラブ、アンジ・マハチカラを買収した投資家のスレイマン・ケリモフは1億2600万ポンド(約164億円)を投資した理由として、「カタルーニャ地方のバルセロナのように、ダゲスタン共和国の人々に誇りをもたらすためだ。」と答えている。
たかが、サッカーの応援で誇りを持てるものか、とも思わないではないが、人々のアイデンティティを確かにする象徴としては悪くないかもしれない。
ダゲスタン人はアンジのホームでCSKAモスクワを迎え撃つとき、ホームチームを応援しつつ、CSKAのいいプレーにうなづき、いいプレーヤーを見ると移籍市場のことを考える。
相手に敬意を表す余地を残しつつ、自分の誇りを持つことのできるスポーツ、誇りと誇りのぶつかり合いの結果が事前に予見できないスポーツはやはり、最強のコンテンツだと言えよう。
1939年のイタリアワールドカップでは独裁者ムッソリーニの工作によりイタリアの優勝が演出され、78年のアルゼンチン大会では軍事政権による審判団の買収疑惑が闇に葬り去られた。
クラブレベルでは、フランコ独裁政権下のレアル・マドリーとカタルーニャ自治政府のバルセロナの対立(当時の会長は射殺されている。)やACミランオーナーのシルヴィオ・ベルルスコーニの政治利用がよく知られている。
94年5月、ミランがバルセロナを4-0で下して、5回目の欧州王者となった年、ベルルスコーニによる最初の政権が誕生した。
彼は「フォルツァ・イタリア」(頑張れイタリア)という政党を組織し、党員は「アッズーリ」(イタリア代表の愛称)と呼ばれた。
その時の公約が「イタリアをミランのようにする。」
さて、しかし、この十数年でサッカーオーナーの主導権は政治から経済に移ったように見える。
03年にロシアの富豪、ロマン・アブラモヴィッチがイングランド・プレミアリーグのチェルシーを買収した頃は、まだ投資家による巨額の買収工作は珍しかったが、今やサッカークラブは富豪たちの草刈り場と化している。
マンチェスター・シティを買収したUAEの投資グループやマンチェスター・ユナイテッドの株式を買い集めたグレーザー一族、パリ・サンジェルマンの筆頭株主であるカタール投資庁など有名クラブのみならず、2部リーグや地域クラブにも投資の手は伸びている。
中にはプレミアリーグ、カーディフ・シティのマレーシア人オーナー、ヴィンセント・タンのようにサッカー文化にほとんど理解のないような人物も珍しくない。
タンは監督を次々と解任した挙句、1月の移籍市場で、中国圏で縁起が良いとされる「8」の番号が選手の誕生日にあれば、誰でも獲得するようにと指示したり、チームバッジを中国皇帝の象徴である「竜」に、チームカラーを伝統の青からアジア圏で繁栄を表す赤に変えたり、と昔からのファンを呆れさせる行為を繰り返している。
いや、まだ、タンの例はいいほうかもしれない。
11年1月にスペイン1部のラシン・サンタンデールを買収したインド人、アーサン・アリ・サイドは買収した当初こそクラブに投資はしたが、ほどなく、アリ・サイドの「ビジネス」は詐欺であり、既に資金繰りが行き詰っていることが判明、インターポール(国際警察)に指名手配され、行方知れずに。
クラブは倒産法の適用を申請も、手続きは一向に進まず、3年以上も経営権は凍結されたままとなった。
現在、投資家による買収で最もスキャンダラスなのは、2022年のワールドカップ会場に決定したカタールだろう。
今年6月4日にワールドカップの主要スポンサーがカタールのワールドカップ招致に買収工作があったのではないか、と懸念を示したのをきっかけにFIFAによる調査圧力が高まっている。
14日には元FIFA理事のドイツ人、ベッケンバウアーが処分を受けた。
カタール投資庁が買収工作を進めていたのはほぼ確実だが、7月に発表されるFIFAの調査報告書がどこまで踏み込めるのかが注目される。
カタールはかなり以前から国の「ラスベガス化」計画を推進しており、パリ・サンジェルマン(とフランスのリーグ・アンの放映権)のようなクラブの買収もそのブランド戦略の一環をみなされている。
「スポーツと観光が結びついたスポーツ・ツーリズムには、ビジネスとして巨大なポテンシャルがある。我々は年間30のスポーツイベントを企画している。その経済効果は大きいだろう。」(サウード・ビン・アブドゥラフマーン・アル・サーニ カタール・オリンピック委員会理事)
そのスポーツイベントに君臨するワールドカップ・サッカーにカタール政府がつけた予算は410億ポンド以上(約5兆2000億円)と言われている。
(ワールド・サッカー・キング0502 text by Walter HALE)
このように、サッカーというイベントは、様々な思惑により政治・経済の影響を受ける。
巨額化するサッカーへの投資が今回のブラジルワールドカップで見られたように、庶民の反発を買うケースも今後頻発するだろう。
とはいえ、根っこのところでは、サッカーをすること、見ることは地域の労働者の気晴らしであり、それゆえ、地域のアイデンティティを確かにする。
2011年にロシアリーグのクラブ、アンジ・マハチカラを買収した投資家のスレイマン・ケリモフは1億2600万ポンド(約164億円)を投資した理由として、「カタルーニャ地方のバルセロナのように、ダゲスタン共和国の人々に誇りをもたらすためだ。」と答えている。
たかが、サッカーの応援で誇りを持てるものか、とも思わないではないが、人々のアイデンティティを確かにする象徴としては悪くないかもしれない。
ダゲスタン人はアンジのホームでCSKAモスクワを迎え撃つとき、ホームチームを応援しつつ、CSKAのいいプレーにうなづき、いいプレーヤーを見ると移籍市場のことを考える。
相手に敬意を表す余地を残しつつ、自分の誇りを持つことのできるスポーツ、誇りと誇りのぶつかり合いの結果が事前に予見できないスポーツはやはり、最強のコンテンツだと言えよう。



