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【書評】世界的プロ・ゲーマーが語る"成長し続ける方法"「勝負論 ウメハラの流儀」

先日、会社の同僚からおもむろにこの本を手渡された。

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勝負論 ウメハラの流儀 (小学館新書)

「人生にマストのアイテム、見つけたぜ」というメッセージを受け取ったぼくは(実際はたぶん何も言われなかった気がする)、早速読んでみることにした。

世界的に有名なプロ・ゲーマー、梅原大吾による本(以下、敬称としてウメハラ)。ぼくはゲームの世界には詳しくないが、彼のWikipediaページに列挙された数々の栄光を知れば、そのすごさが嫌でも分かる。まず、Wikipediaに項目のあるゲーマーというだけですごいではないか。


ウメハラには「伝説のプレイ」というのがあり、こうして動画としても残されている。

相手の技をガードしても敗れる絶対絶命の場面で、彼がみせた起死回生の超絶プレイは、本書でも解説されている。

だが本書は、ウメハラの領域である格闘技そのものについて語っている本、ではない。スクリューパイルドライバーの出し方を教えてくれるわけではない。あらゆる格ゲーで勝ち続ける著者が、自分の実践してきた考え方、方法を、万人向けに語っている本だ。

ページを開く前に気になったのは、帯である。

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うつろな表情でジョイスティックを握る著者近影に、一瞬「ゲーム脳(死語)」を疑う人もいるかもしれないが、読んだ後ならわかる。この目は、歴戦をくぐり抜けてきた勝負師だけが持つ、勝負を知り尽くした達観の目なのだ、と。本書を読むと、著者の勝負についての考え方は、31歳にしてすでに"仙人"の域に達しているのだ。

もっと帯にふさわしい表情があるんじゃないかとか、そんな小さいことは気にするな! バカ!


勝ち続けてきた著者がまず最初に語るのは、皮肉なことに「勝つことのリスク」である。勝ってしまうとそこで人はうぬぼれてしまう。勝ち続けることに驕り、そのことで成長を止めてしまうことが、何よりものリスクなのだと、著者は警告する。

一流同士の戦いになればなるほど、そこには運の要素が多く作用し、結局のところ勝敗に大きな意味はなくなっていく。表面的な勝ちに固執するより、本人が楽しみ、成長し続けることが大切で、他人の目など気にするなと著者は主張する。

基本的に本書のこの内容の繰り返しなのだが、ただの繰り返しではなく、たとえ話や著者の実体験で変奏しながら、何重にも塗り重ねて読者の脳に浸透させていくことになる。


では、どうやって成長していくのか、である。ウメハラがなによりも重要視しているのは「基礎固め」である。

けれどそれは、元々あったセオリー、定説をとやかく言わずに叩きこめ、という一般的な学習の態度とはちがう。むしろ、その真逆だといえる。ウメハラは、「定説を疑え」ということを、ほとんど原理的に読者に訴え続けるのだ。自分の感覚に合わないなら分かったフリはせず、とにかく疑問に思ったことをトライ&エラーし続けろ、というのだ。


彼の考えをわかりやすく図式化したものがこちら。

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セオリーどおりにすれば、図の真っ直ぐな矢印のように最短距離で進むことができる。そうした方が、早く強くなれるだろう。だが、セオリーでいけるところには限界があるのだと筆者は語る。

蛇行しながらも自分で地道に道を探しあてる矢印は、その分基礎固めの先で、無限の可能性を広げることができると、著者は主張しているのだ。

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運河の先に広がる大海原のようではないか。読者諸兄は、各分野でそんな光景を目にしたことがあるだろうか? ぼくはない。けれど、ウメハラのような逸材の眼前には、そうした世界が広がっているのだろう。

格ゲーは、ゲームによって操作がちがうし、同じシリーズでも些細なところで前作から変わっていることがある。つまり、ルールがちがうのだ。けれどウメハラは勝ち続ける。それはなぜか?

 

格闘技ゲームは常に変化している。でも僕はその中で勝ち続けている。

 その秘訣を教えてほしい、という人には、こんなたとえで説明することにしている。

 僕やライバルは、レーシングカーでレースをしている。当初は僕のクルマはスピードが遅く、またあっちに行ったりこっちに行ったり寄り道が多くて、先頭争いには加われない。

 ところが、最後は僕が勝ってしまう。

 それは、このレースに、終わりがないからなのだと思う。

p.206


奇しくも同じレーサーの喩えで、思想家の内田樹氏が興味深いことをいっている。

車の運転を教わるのでも、自動車教習所の教官に一定期間教えてもらうのと、F-1ドライバーにたとえ半日でも教えてもらうのではわけが違い、おそらく後者の方が、より生徒に心に残るだろう内田氏は推測する。それは、後者が有名だからでもなんでもなく、ある理由があると、内田氏は語る。

 

 教習所の先生は「君は他の人と同程度に達した」ということをもって評価します。プロのドライバーは「君は他の人とどう違うか」ということをもってしか評価しません。その評価を実施するために、一方の先生は「これでおしまい」という到達点を具体的に指示し、一方の先生は「おしまいということはない」として到達点を消去してみせます。

 ふたりの先生の違うところはここです。ここだけです。

 ほとんど同じ技術を教えていながらも、「これができれば大丈夫」ということを教える先生と、「学ぶことに終わりはない」ということを教える先生の間には巨大な「クレヴァス」があります。

内田樹『先生はえらい』pp.30-31

プロのレーサーの頂点に君臨するのがF-1ドライバーだとすれば、ウメハラはゲームの世界の「F-1ドライバー」に匹敵するだろう。

F-1ドライバーが本当に内田氏のようなことをいうのなら、ウメハラの言っていることと被っていたとしても、不思議ではない。どの分野の人も、道を究めたときに見える景色は似ているのだなあと、納得してしまう。


タイトルには勝負論とあるが、結局のところ一回一回の勝ち負けは重要でない。そうではなく、本書の真髄にあるのは「修業論」なのだ。

だから、勝ち負けのない分野にだって通じるところがある。

その道で成長し、セオリーだけでは到達できない地平にまで達した時、きっとあなたも、ウメハラのようなうつろな目を手に入れることができるはずだ。

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