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無人自動車からロボットまで 「世の中すべてをデータ化しコンピューターで便利に」 あらゆる業界の再編を目論むGoogleの戦略

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無人自動車からロボット、人工知能まで。検索エンジン最大手の米Googleが、一見すぐに収益につながりそうもないプロジェクトに巨額の富を投入し続けている。潤沢な資金を持つ企業の道楽?目標を持たない企業の迷走?しかしよく見てみると、これらの投資には一貫した戦略が見えてくる。Googleは、世の中をすべてデータ化し、コンピューターで扱いやすくしようとしている。たとえその過程で既存プレーヤーを廃業に追い込み、業界の勢力図を根本から塗り替えてしまっても、Googleは前進しようとしている。10年後にはどのような社会になっているのだろうか。Googleが見ている「近未来」をのぞいてみよう。

★自動車の基幹技術を狙うGoogle、ナビ、音楽に特化するApple

「自動車の伸びしろって、もうIT化ぐらいしか残ってないんですよ」。自動車業界に詳しい某ジャーナリストの意見だ。

そのIT化を、自動車メーカー自身で進めべきか、IT企業と組むべきか。自動車メーカーは今、その判断を迫られている。

ITの進化の速度は半端ない。自動車メーカーがそのペースについていくのは難しく、動きの速いIT企業と組むほうが得策のようにみえる。しかしIT化をIT企業に任せれば、コアコンピタンス(核になる競争優位性)さえも奪われてしまうのではないだろうか。軒を貸して母屋を取られることになりはしないだろうか。この判断を迫られているわけだ。

IT業界側は、自動車を次のイノベーションの領域とみなし、積極的にアプローチをしかけ始めた。中でも最も積極的なのが、IT業界の両巨頭であるAppleとGoogleだ。しかし両巨頭の自動車業界へのアプローチの仕方は微妙に異なる。

Appleの内情に詳しい複数のIT業界関係者は、「自動車のIT化といってもAppleが関わってくるのは、音楽やカーナビのところだけ。(衝突回避システムや自動走行などの)先進安全技術に関してはタッチしないはず」と断言する。Appleは選択と集中を徹底することで有名。自分の得意分野では大胆なリスクを取るが、それ以外の分野には出てこないというのだ。

自動車IT化に向けたAppleの取り組みといえば、車載搭載型の情報機器のOS(基本ソフト)である「CarPlay」が発表されている。カーナビやカーステレオなどの核になる部分のOSだ。

CarPlayを搭載したカーナビやカーステレオはiPhoneに接続することで、iPhone上のナビゲーションアプリをCarPlay端末で利用できたり、iPhone上に保存してある楽曲をカーステレオを通じて聞くことができたりする。そして最大の強みは、iPhoneの音声認識技術siriを使って、カーナビやカーステレオを自然な音声の会話で操作できることだと言われている。

自動車業界の関係者によると、CarPlayを導入するにあたってApple側から自動車メーカーに対して、走行距離や速度などのデータなどの提出を求められているのだという。CarPlayが必要としているのは、あくまでもカーナビに関連するデータのみのようだ。

一方でGoogleは、Appleと比較にならないほど多くのデータを要求してきているという。Googleは、カーナビだけではなく、自動走行など先進安全技術にまで関与してこようとしているわけだ。

AppleのCarPlayに関しては、自動車メーカー各社とも低価格車を中心に導入する姿勢を見せている。一方でGoogleに対しては、自動車メーカーは対応を慎重に検討しているもよう。自動走行技術をGoogleに頼ることで、軒を貸して母屋を取られることになりはしないかと心配しているわけだ。


★自動車メーカーとは違う方法で自動走行車を実現

実は自動走行技術に関しては日本の自動車メーカーとGoogleの取り組み方は大きく異る。

自動走行技術に関する日本の自動車メーカーの基本的な考え方は、「白線と信号機と車間距離さえ分かれば、自動走行は可能」というもの。それに加えて、周辺の自動車と情報を共有し前方の交通状況などを把握する技術を搭載する。

一方でGoogleは自動車間の情報共有にはそれほど関心を持たない。それよりレーダーを周辺に照射し、反射光が戻ってくる時間から、周辺の物体の位置を算出して、道路沿いの物体の3次元データを取得しようとしている。つまり街を3Dスキャンしようとしているわけだ。この3Dスキャンデータを基に自動走行させようという考え方だ。先日、Googleは本社のある米マウンテンビュー市で、マスコミ関係者を対象とした無人自動車の試乗会を開催したが、マウンテンビュー市は既に街全体を3Dスキャンしてあるので無人自動車を走らせることができたのだという。

今後Googleは、あらゆる道路の両側の物体を3Dスキャンしていく。気の遠くなるような話だが、あらゆる道路の周辺のパノラマ写真を撮ってストリートビューを作成し続けているGoogleにとっては、これまで通りの作業を続けるだけの話。なんということもない。

基本的にこの3Dデータだけで車は自動走行が可能なわけだが、突然飛び出してきた車や自転車、歩行者など、とっさの状況に対応するためにGoogleは人工知能を使う考えだ。自動走行車に搭載されたカメラで周辺の状況を記録し続け、莫大な量のデータとして保管、解析し、どのような状況にどう対処すべきかをコンピューターに判断させようという考えだ。

3Dスキャンで空間を刻み、人工知能できめ細かな対応する。この2つの技術が、Googleの自動走行車の基本技術になる。

果たして周辺自動車との情報共有という自動車メーカーのやり方のほうがいいのか。3Dデータと人工知能というGoogleのやり方のほうがいいのか。自動車メーカーのやり方でも十分に安全な走行ができるのであれば、Googleの自動車業界に対する影響力は最低限に抑えられる。一方で、Googleのやり方のほうが圧倒的に優れているのであれば、自動車メーカーはGoogleの軍門に下ることになるだろう。


★屋内はスマホ、タブレットでスキャン

3Dスキャンで空間を刻み、人工知能できめ細かい対応をする。Googleのこの取り組み方は、屋外だけではなく、屋内にも応用されることになる。

屋外はストリートビューカーが3Dスキャンするが、屋内の3Dスキャンはスマートフォンやタブレットが行う。スマートフォンやタブレットに3Dスキャン機能を持たせるプロジェクトは「Project Tango」という名称で進められている。このプロジェクトから6月の初めに開発者向けタブレットがリリースされた。このタブレットには空間認識に最適化されたカメラやセンサー情報統合アルゴリズム、深度センシングツール、動画プロセッサーなどが搭載されているという。

Project Tangoのスマホやタブレットで屋内を3Dスキャンすれば、そのデータを基にロボットが壁や家具にぶつかることなく自由自在に動き回れるようになる。

産業用ロボットはこれまで、特定の場所に固定されたアームだけのものが多かった。屋内3Dデータを簡単に作ることができるようになれば、3Dデータを基に自由自在に動き回る産業用ロボットも出てくるだろう。

工場だけではなく、倉庫や宅配などにも産業用ロボットが使われるようになるだろう。Googleのロボット部門の責任者 Andy Rubin氏は「製造業とロジスティクスの領域には、今日のロボット技術が満たしていないニーズが存在する。明らかなビジネスチャンスだ」と語っている。

Googleが買収した7社ほどのロボット関連ベンチャーの中には、トラックの荷物の積み下ろしができるコンピュータービジョンシステムとロボットアームを開発したIndustrial Perception社も含まれている。Googleは「Google Shopping」サービスの一貫として、WalgreensやTargetといったデパートの商品の宅配を、サンフランシスコなどの一部地域で実験的に始めている。宅配業務さえも、ロボットに任せようという考えなのだろう。

Project Tangoは実際には始まったばかりだが、ある程度の成果が出るようになれば、Googleは産業用ロボットの領域に一気に攻め入ることになるだろう。マサチューセッツ工科大学のAndrew McAfee氏によると、工場での生産から倉庫での仕分け、配達、店舗での商品陳列、宅配までもロボットを導入できるはずで、「ビジネスチャンスは膨大」という。

また住居内を3Dスキャンすれば、家庭用ロボットの実用化にも弾みがつくだろう。現在市販されているお掃除ロボットは同じところを何度も掃除するなど無駄な動きが多い。部屋の中の3Dデータがあれば、無駄な動きが一切なくなる。省エネにもなるし、小型電池で十分になるので、お掃除ロボットの低価格化にもつながるだろう。ただRobin氏によると、当面は消費者向けロボットを開発する考えはなく、まずは企業向けロボットに集中していくと語っている。


★高度な演算能力こそがGoogleの強み

ストリートビューカー、スマホで空間を3Dスキャンし、そのデータを基に自動走行車やロボットを動かす。それがGoogleの考える「近未来」だ。

新しい時代は、1社がハード、ソフトなどすべてを開発し提供する「垂直統合型」で切り開いていくほうが効率がいい。しかしその時代が成熟期に入ると、特定の領域を得意とする複数の社で分業していく「水平分業型」に産業は移行していくものだ。

Googleは「垂直統合型」で3Dスキャンとロボットの時代を切り開いていくのだろうが、成熟期に入ったときにどの領域に特化していくのだろうか。

それはもちろんコンピューターの領域だろう。だれもが3Dスキャンデータを生成できるようになり、ロボットや自動車を專門メーカーが量産するようになったときに、Googleは、自動走行車やロボットにきめ細か動きをさせるための高度なコンピューター演算能力を提供する会社になる。いや高度演算能力を提供するインフラを目指しているのだと思う。

急に自転車や歩行者が飛び出してきたときのとっさの判断に必要な人工知能。家族一人一人の電力ニーズを把握して電力をきめ細かに制御するスマートホームに必要な人工知能。そういった人工知能のような高度なコンピューター演算能力を提供するのが、Googleの役割りになっていくのだろう。

Googleに買収されたスマートホームベンチャーNest LabsのTony Fadell氏は、GoogleとNestに共通するミッションとして「裏でテクノロジーに大変な仕事をさせるとことで、人々が人生において意味のあることに集中できるようにすること」を挙げている。「裏で大変な仕事をする」、つまりインターネットを通じて高性能コンピューターの演算能力を提供すること。それこそが、Googleの役割りだと言っているわけだ。Googleは、この高性能コンピューターの演算能力を貸し出すようなクラウドコンピューティングサービスに力を入れていくのかもしれない。

この領域に注力するため、Googleは量子コンピューターと呼ばれる次世代のコンピューター技術の研究開発に力を入れている。具体的には、カナダのD-Waveという会社が作った量子コンピュータを購入し、NASA(米航空宇宙局)出身の研究者を雇用して「量子人工知能研究所」を開設している。

Googleは量子コンピューターで、近未来の社会に不可欠な企業になろうとしているわけだ。


★業界の勢力図が塗り替えられるのは?

世の中をすべてデータ化することで状況を把握しやすくし、他社に真似のできないような高度なコンピューター処理技術で、きめ細かなサービスを提供する。Googleのこのやり方で、どれだけの業界の勢力図が大きく塗り替えられることになるのだろうか。

自動車業界、産業用ロボット業界が、直接大きな影響を受けることは間違いないだろう。またその波及効果で、低価格の無人自動車が広く普及し、交通、物流、運輸、宅配業界にも影響が及ぶだろう。農地をスマホで3Dスキャンすることで、田植えや農薬配布といった作業を無人トラクターやロボットが行うようになるかもしれない。

オックスフォード大の予測によると、今後20年間で米国の仕事の45%はロボットを始めとするコンピュータに取って代わられるという。20年で社会が激変するわけだ。恐らく今後5年から10年が、勝負の分かれ目。大事なのは、先を読んで準備をすること。後手に回ってばかりいる企業に、未来はない。

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