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集団的自衛権と自衛隊(その1)〜柳澤協二さん講演レポート

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「隣の友達を助ける」のは「当たり前」なのか

 集団的自衛権について考えるときに、頭に入れておかなくてはならないのは、これが大国が軍事介入を正当化する論理として使われてきた論理だということです。時々、小さな国が寄り集まって大きな国に対抗するために集団的自衛権があるんだという人がいますし、最初の理屈はそうだったのかもしれませんが、実際に使われたのは、1956年のソ連によるハンガリー民主化運動弾圧が最初。その後も、ベトナム戦争や「プラハの春」など、集団的自衛権を行使してきたのは主に、米ソをはじめとする大国です。

 それから、「普通の国」はみんな当然のものとして集団的自衛権を行使している、日本も容認して普通の国になるべきだ、という意見もあります。しかし、米ソがやってきたように、他国の戦争に軍事介入する、あるいは自分から軍事介入して戦争を起こす、それが本当に「普通の国」なのでしょうか?

 あるいは「隣にいる友達が殴られたら助けなきゃいけないじゃないか」という人もいる。たしかに、日常生活ではそうでしょう。しかし、国際社会においてはそんな単純な話ではない。特に日本は、自分が殴られないために、世界の誰からも殴られない一番強いお友達と安保条約を結んでいるわけで、なぜその友達が殴られることを心配するのか。そもそも、その「強い友達」と自分とが並んで歩いていれば、殴られるのは自分のほうじゃないでしょうか。

 そんなふうに、今の議論には一見常識的なようで、ちょっと考えるとヘンだなというところがたくさんある。そういうところをしっかり見ていかないと、簡単にごまかされてしまうのではないかと思います。

 また、先ほどの邦人保護の話がそうだったように、「あり得ない想定」もいくつも提示されている。例えば、米艦(米機)を護衛するために集団的自衛権が必要だ、という。でも、アメリカの抑止力というのは、いまだ相当有効に働いていますよ。どこの国や組織が、好きこのんでアメリカを攻撃するのでしょうか。

 それから、「アメリカに向かうミサイルを打ち落とす」という話。これも私は第一次安倍政権のときから総理にも申し上げていますが、北朝鮮からアメリカ本土に向かってミサイルが発射されたとすれば、それを探知して打ち落とすなんていうことは、技術的に不可能です。それに、仮に北朝鮮がアメリカを攻撃するようなことがあったとすれば、当然在日米軍基地も標的になる。そうするともう、それは日本有事なんですから、当然個別的自衛権で対応することになるはずなんです。

集団的自衛権は「日本人の安全を守る」のか?

 それから、国際貢献のために集団的自衛権の行使容認が必要だという話。私はこれまでも、自衛隊がPKO派遣された際に、丸腰の現地住民、あるいはPKOスタッフを守ることは、やれる範囲でやるべきだと考えてきました。ただ、他国の軍隊を守るということ、そのために本格的な武装をするということは、現地の武装勢力と本格的に敵対することを宣言することでもあります。そうすれば、「日本もついに我々の敵になった」ということで、テロの標的になる可能性があるし、海外在住の日本人の身が危なくなることもあるでしょう。

 「国際貢献」というと聞こえがいいけれど、そういうリスクもあるんだということ、いいことばかりじゃないんだということを、本来ならきちんと国民にも知らさなくてはなりません。安倍総理がそこに触れないということは、おそらく本人がリスクを認識していないのではないか。そこが危機管理をするリーダーとして私が心配でならないところです。

 安保法制懇の報告書では、集団的自衛権の行使について、いわゆる「歯止め」として6つの原則を立てるんだと言っていますが、実はここで挙げられているのは、集団的自衛権の行使に関する国際的なスタンダードに過ぎなくて、何も限定することにもなっていません。

 いまやグローバル社会ですから、日本の「国益」というものも、世界中あちこちに広がっている。それをいちいち全部軍事的には守れないから、軍事以外の国際協力という手段をもってやろうとしてきたわけです。それなのに、それでは足りないから軍事でやろうとするというのが今回のこの議論。しかもそれによって日本人が安全になるかといえば、その場にいる日本人は守られるかもしれないが、かわりにほかにいる日本人は危険になるという関係があるということだと思います。

 そもそも、日本は今までアメリカの武力行使に反対したことはありません。それでも、これまでは遠いところの話で日本と直接関係がないからとも言えたけれど、今後集団的自衛権が行使できるということになったとして、アメリカの武力行使が「正しい」かどうかの判断が日本にできるのか、そしてアメリカが参戦を要請してきたときに拒否できるのかという疑問が浮かびます。今はアメリカは日本にそんなことを期待していないけれど、なまじ期待感を高めて、いざというときにできませんと言ったら、日米同盟が崩壊する危険もありますから。

 あと「必要最小限度で容認する」という話も盛んにされていますね。でも、例えば皆さんだって、子どもが「お母さん、必要最小限度のお小遣い下さい」と来たら、必要最小限度って、おまえいったい何買うんだって聞くでしょう。重要なのは、何の目的のための必要最小限度なのかということです。今まで政府が言っていたのは、日本が攻撃を受けた場合にそれを排除するための必要最小限度。一方、集団的自衛権は日本が攻撃を受けていない場合を想定しているわけで、全然違う話なんです。

 そもそも、集団的自衛権は「行使できる」ということにしてしまえば、性格上歯止めがかからないものです。個別的自衛権というのは、日本が攻撃を受けたという誰の目にも分かる条件がついていますから、それがもう歯止めになるわけですね。それを外してしまえば、日本が戦争に参加することに対する歯止めはなくなると言っていいと思います。

戦後日本の「ブランド力」を考えよう

 このように、集団的自衛権に関する議論は、矛盾だらけのままでずっと来ています。「日本人を守れなくてどうする」という言葉だけを聞いて「そうだ」なんていう反応をしてたら、まともにかみ合った議論はできない。やはりそこは、いろんな方が自分できちんと考えて――結論はそれぞれに違っていてもいいけれど――自分の軸を持って声をあげていくということが非常に大事なんだと思います。

 今は、日本という国のアイデンティティが崩れていっている時代です。「戦争をしない国」ということだけではなくて、戦後の、働けば働くほど生活はよくなるんだという、そういうアイデンティティも失われてしまった。そこを仕切り直して、日本人の一番根っこになるアイデンティティとは何かというところを再び見つけなくてはならないのでしょう。

 安全保障面において、アメリカの抑止力が以前よりも限定的になっているのは事実かもしれません。だから自分たちで軍事的な防衛力を持つんだ、突き詰めれば自前の核武装もするんだというのは一つの行き方でしょうが、軍事力だけではなく紛争解決や平和構築などの現場で「日本人ここにあり」という姿を見せていくことも、日本という国の価値を世界に示すパワーになるはずです。これまでにも、日本はPKOに参加しながら1人の犠牲者も出さず、現地の人材育成などにも貢献してきた、それが日本が築き上げてきたブランド力になっていると思います。

 安倍総理のきわめて粗雑な問題提起の本質は、反戦とか平和といった理想を実現するためにはいろんな道筋があるんだということを、我々に改めて思い起こさせてくれたことだったのかもしれません。それはそれとして受け止めて、私たちのほうで現政府とは違う答えをぜひ出していかなくてはならない。その意味で、こうした議論はまだまだ長く続いていくものなのだと思います。

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