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リビアで今、起こっていること - アーデル・スレイマン

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それから、経済的な問題。教育や医療が無料だといっても、公務員の給料は経済制裁時代とほとんど変わらなくて、学校の先生はアルバイトをしないとやっていけないし、公営の病院は治療の質がとても低い。失業率も30%くらいと高くて、大学を出ても働くところがない、という若者も多かったし、なんとか仕事が見つかっても、それに没頭できるほどやりがいがある仕事は本当に少ない。だから、僕くらいの若い世代のリビア人はみんな「ヒマ、ヒマ」というのが口癖だったんです。

リビアの石油埋蔵量は世界8位で、アフリカ大陸では3位。それだけ豊かな資源があるのに、この経済成長のスピードはどう考えてもおかしいですよね。それに、石油というのはいつか必ずなくなるものだから、それに頼らずやっていけるような、持続可能なシステムを今のうちに構築しなくてはいけないのに、それもできていない。それは、僕だけじゃなく多くの人が感じていたことだと思います。

ただ一方で、だからといって「生活していけない」わけではないんですね。表現の自由などの西洋型の「自由」はたしかにないけれど、人々がそれをそれほど強くは求めていなかったという面もあったと思います。公に政府批判さえしなければ、とりあえず食べてはいけるし、経済成長のスピードが鈍いとはいっても、ビジネスチャンスがまったくないわけじゃない。その意味では、国民の間に不満はあっても、それが今すぐ爆発するという状況ではなかったと思います。

※革命直後…1969年、それまで王制だったリビアは、当時27歳のカダフィを中心とする青年将校らのクーデターによって共和国となった。

※直接民主制…カダフィは1977年に「人民主権に基づく直接民主制」への移行を宣言。このため、代議制による議会は存在せず、建前上は「国家元首」も存在しないことになっている。


「今しかない」感覚が、人々を立ち上がらせた



にもかかわらず、今回のような大規模な反政府運動が起こった理由の一つは、やはり「便乗」だと思います。

「直接民主制」をとるリビアには議会もないので、正規ルートで政治を変えられる手法が基本的にはありません。としたら、リビアが変わるにはカダフィが死ぬか、もしくはクーデターしか手段がなかった。それだけに、クーデターなんて無理だし、どうせ何をやっても変わらないよ、というあきらめがリビア人の間にもあったんだと思います。だったら、普通に食べてはいけるんだし、今がベストではないけどこのままでもいいよ、と。

ところが、今年に入ってチュニジアやエジプトの革命が起こったことで、リビアの人たちの中にも「自分たちも何かやれば、どうにかなるんじゃないか」という感覚が生まれた。同時に、「このタイミングを逃したら、二度とこういう革命的なムードは生まれない」とみんな思ったんでしょう。僕自身もそれは考えましたから。

それでも、2月の初めにフェイスブックなどのインターネットを通じて「行動しよう」という動きがあったときは、まだそれは「反政府デモ」ではなかった。2005年の2月17日に、国内第2の都市・ベンガジで、イタリア大使館前でデモをしていた市民に対して軍が発砲し、死者が出るという事件があったんですが、この事件の犠牲者追悼を、同じ2月17日にやろうという呼びかけだったんです。それが、在外リビア人も加わってインターネット上で意見がかわされるうちに、だんだんと「独裁を打倒しよう」というような、より政治的な色合いのものに変わってきた。

それでも、僕はまだトリポリでは何も起きないだろう、と思っていました。ベンガジは歴史的に反カダフィ感情の強い場所だし、2月17日の事件の「当事者」ですから、そこでは絶対何かが起こるだろうけど、トリポリにまでは波及しないだろう、と考えていたんです。

ところが実際には、17日が来る前――15日ごろから、ベンガジで早くも小規模なデモが始まって。その翌日には軍の発砲があって、最終的には死者も出ました。それによって市民の怒りは爆発し、急速にデモが拡大していった。そしてそれがトリポリにも波及し、そこにまた軍が発砲したことで、さらに反政府の動きは激しくなっていったんです。

※イタリア大使館前でのデモ…2005年9月、デンマークの新聞にイスラム教の預言者・ムハンマドを風刺する内容の漫画が掲載され、イスラム社会に大きな非難の声を呼び起こした。その後、イタリアのベルルスコーニ首相がその風刺画をプリントしたTシャツを着用したことで、ベルルスコーニに対する反発の声も高まった。

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