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普天間基地問題の核心を報じない大手メディア - 岡留安則

 鳩山由紀夫前総理が、日本外国人特派員協会で講演したことを地元紙でも取り上げていた。主要な部分を琉球新報から引用して紹介しよう。

 〈米軍普天間飛行場の名護市辺野古崎移設に関し、暫定的なものとして県民理解を求めたい考えを示す一方で、沖縄の反対が続く場合は合意見直しの必要性にも言及した〉。そして、普天間基地の県外・国外移設のマニフェストを撤回し、日米合意=辺野古新基地建設を容認した「転向」宣言の背景が実に興味深い。それは、〈「米国の圧力よりも日本の役所の中の論理にも(国外県外は)なかった。それを押し切るだけの意思を強く主張できなかった」「官僚側は最初から辺野古ありきだった」〉というものだ。さらに普天間の県外移設ができなかった理由に、米側がヘリ部隊と地上部隊の一体運用を強く主張したことを挙げた。そのうえで両方をまとめて県外に移設する方策について「海兵隊全体の海外移設が可能ならば、模索もできたが、時間的に不可能だった」と述べている。

 総理職を離れて約8ヶ月が経過し、鳩山前総理もようやく自由に語れるようになったのだろう。その意味では貴重な証言である。しかし、反論もある。海兵隊全体の海外移設は時間的に不可能だったとしている点だ。「2010年5月末をメドには結論を出す」と2009年末に総理自ら縛りをかけたことで、海外移設を検討するための時間がなく、結局見切り発車で辺野古新基地容認を決めたことだ。たっぷり時間をかけて民主党政権が政治主導で行けば、防衛・外務官僚や米国の国務省・国防総省の重圧をはねのけて、グアム、テニアン、サイパンへの移設も実現できたのではないか。

 鳩山前総理が言うように、県外・国外移設案に対して猛烈な巻き返しを図ったのは、まぎれもなく防衛・外務官僚とその取り巻きである外交・軍事の御用評論家やメディアである。それに洗脳された結果が鳩山総理の最終決断という図式である。さらに言えば、鳩山前総理自身が、第一次組閣において、防衛大臣に北沢俊美、外務大臣に岡田克也、国土交通大臣兼沖縄担当大臣に前原誠司、官房長官に平野博文を起用したことだ。普天間基地移設関連の担当大臣は、全員が最初から県外・国外移設の途を捨てて、沖縄県内、せいぜい徳之島くらいしか検討しなかったことだ。ここが問題だ。機会があれば、鳩山氏にもっとも聞きたい筆者の最大の疑問である。

 こうした読者の知りたい核心やポイントを報じないのが記者クラブに依拠する大手メディアだ。いや、報じても霞ヶ関官僚のフィルターを通して記事を書くので、真実が報道されない。これは、日本のメディアの特殊性として幾度となく批判されてきたことだが、結局は大手メディアの力関係がまさり、既得権益として今日まで死守されてきた。それに対抗するためのフリーや雑誌記者、ネット記者らによって自由報道協会(仮称)ががようやく立ち上げられた。世話役として動いているのがフリージャーナリストの上杉隆氏だ。これまでの記者クラブ制度は基本的にフリーや雑誌記者を排除した大手メディアの独占機関だった。そのために、記者クラブを置いている霞ヶ関や永田町と癒着した二人三脚の論調が幅をきかすのは歴史的必然だった。その典型的な事例が、沖縄の普天間基地移設問題だろう。

 政権交代した民主党が県外・国外を公約しても、防衛・外務官僚が寄ってたかって潰したことが象徴的である。日米軍事同盟を守り、日米が協力しあうことが、日本にとっての軍事的抑止力になるという防衛・外務官僚の主張を大手メディアが一体となってキャンペーンしてきた。そのためには、在日米軍基地の 74%が配置されている沖縄は日本を守るために犠牲になってくれというコンセンサスが形成されてきた。それをひっくり返すには、大手メディアの批判力が不可欠だが、メディアは霞ヶ関が取材源であり、官僚の意に沿わない論調は自主規制してきた。例えば、グアム、サイパン、テニアンへの普天間基地の移設にしても、防衛・外務官僚は鼻っから全否定し、その案をもとに取材して記事にしようとした大手メディアの記者に対して、上層部は「よけいなことを書いて刺激するな」と一喝したというエピソードが象徴的である。

 自由報道協会は旗揚げにあたり、小沢一郎をゲストに呼んで、ネットで会見の模様を全面的配信した。小沢氏は自民党時代から記者クラブの閉鎖性を認識していたこともあり、フリーや雑誌記者にも早くから会見を開放してきた人物だ。その功績をたたえるために、自由報道協会の旗揚げのゲストに呼んだのだという。小沢氏の大手メディアに対する不信感は根強く、最近は会見の一部始終を編集なしで流す、ニコニコ動画などには積極的に出演している。小沢氏によれば、大手メディアは会見内容を都合よく切り取り、場合によってはメディアのフィルターを通して歪曲した記事を作り上げるとの認識を持っている。それはそうだろう。政権交代前から始まった検察による国策捜査とメディアの小沢バッシングは凄まじいものがあり、特捜部が立件を断念したにもかかわらず、いまだに、辞任や除名、党員資格停止を民主党反小沢執行部や野党とともに画策している。仙谷代表代行も枝野官房長官も弁護士出身である。たとえ、検察審査会が強制起訴したとしても、有罪が確定するまでは推定無罪が民主主義の原則であることを都合よく忘れたのだろうか。

 この自由報道協会の新たな動きだけではない。沖縄タイムスの平安名純代米国駐在契約記者や琉球新報の前ワシントン特派員の与那嶺路代記者は、米国が必ずしも辺野古新基地に執着していないという米国有識者たちのオピニオンを適時紹介している。大手メディアのNHK、共同通信、朝・毎・読などとの立ち位置の違いが鮮明になり、沖縄では県民のファンの多い記事となっている。自由報道協会ともども、こうした記者個人の活躍が、日本の「大本営」報道を打ち破るきっかけになり、メディアの夜明けとなることに期待したいところだ。

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