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ドイツの雇用市場はベルリンの壁崩壊以降で今がいちばん良好 欧州中央銀行は後手に回った

先週、欧州中央銀行(ECB)がデポジット・レートのマイナス金利導入を含む一連の緩和措置を発表しました。

今回のECBの行動は、機先を制したというより、後手に回った観が否めません。総合的にみると欧州経済はそこそこ確りしているし、不必要な緩和の大盤振る舞いだったからこそ、ユーロは反発したのです。

これを確認するため、まずこれまで各国中央銀行がやってきたことを振り返ります。下は中央銀行の資産、つまりバランスシートの大きさをGDPと比べたグラフです。

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2008年秋に米国の連邦準備制度理事会(FRB)、BOE、ECBなどが相次いで資産を増やしたのはリーマンショック後の信用の緊縮に対応するためです。

日本はそれ以前から失われた10年ということで景気が悪く、既に日銀は緩和的なスタンスを取っていたので、リーマンショック後の日銀の対応は緩慢でした。

2013年から日銀のバランスシートが急に大きくなっているのは言うまでもなくアベノミクスに絡む異次元緩和です。

FRBは数字にわたってバランスシートを拡大してきていますが、これはQE2、QE3などと呼ばれる緩和です。

ギリシャ問題が発覚した後、ECBはスペインやイタリアなどの南欧諸国の銀行に対し、「担保になるものなら、なんでも持ち込みなさい。それに対して融資します」というLTROを実施しました。黄色の線が2012年に急に伸びているのはその関係です。

しかし最近はそれらのオペが期間満了し、だんだんECBのバランスシートは小さくなっていることがわかります。ECBが緩和の努力を十分やっていないという批判を受ける理由はここにあります。

ただBOJが日本国債を買い入れ、FRBがトレジャリー、つまり米国債を買い入れるのと同じ感覚でECBが国債を買い入れるのには問題があります。まずそれは欧州憲法違反である可能性があること、次に欧州各国の国債をECBが買う際、どの国の債券を優先して買うのかということで不公平が出る可能性もあるからです。欧州各国の国債は発行残高や流動性がまちまちで大量の買い入れに適さない国債もあります。QEがやりにくい理由はそれらによります。

欧州各国の国債利回りはかなりざっくりと下がりました。

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言い換えればこれらの国の国債は買われてきました。だからギリシャ危機後の当時のように市中金利が高すぎてそれが不景気を招く原因になるということはもうないのです。投資家は以前、南欧諸国の支払い能力に対し不安を感じていましたが、現在の各国の国債金利を見る限り、その不安はもうありません。むしろ景気そのものの弱さを見て債券が買われているという状況だと思います。

その景気ですが、国によって格差が目立っています。

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英国は強いです。またドイツもしっかりです。スペインはひどかったのですが、だいぶ持ち直してきています。フランスは悪化しています。なおフランスの2014年1Qは黄色のバーが見えませんが、これは0%だからです。そしてイタリアはGDPがマイナスです。つまり英国、ドイツの二強時代に入っているのです。

今回、ECBに対して「まだ緩和の余地がたくさんあるじゃないか」という声が発せられた最大の原因はインフレが鎮静化しているからです。

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ECBがターゲットにしているインフレは2%です。最大限で3%までは容認する態度であることが、過去の実績でも確認されています。ところが今は0.5%にまで下がっています。逆にいえばデフレのリスクがあるわけです。

ただもう少し詳しく各国のインフレを見ると、スペインやイタリアは低いけれどドイツはそれほど低くないことがわかります。

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英国の場合、大陸よりもインフレが高いです。つまりここでも先ほど見たGDP同様、英国、ドイツと、その他の国々とではかなり温度差があるということです。

そこで実際にユーロ圏の消費者物価がどのように計算されているのか、その内訳を見ます。サービスが指数の43%を構成しており、それに工業品の26%が続きます。食品、アルコール、たばこが20%、エネルギーが11%です。

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それぞれの構成要素別のインフレをみると、エネルギーのインフレがマイナスでした。また工業品もインフレが低かったです。反面、食品、アルコール、たばこは最近インフレがピックアップしていることがわかります。

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つまり欧州のインフレがとても低くなっていると言う場合、そのような状況をもたらしてきた主な原因はエネルギー価格安、ならびに工業品の価格が安定していたことが原因なのであって、これらのアイテムは市況に左右されやすいので、どれだけ現在の低インフレが持続可能かはわからないということです。

次にユーロ圏の失業率を見ます。

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ギリシャ危機以降、ずっと悪化する一方だったのですが、ここへきてようやくピークアウトしつつあります。トンネルの先に光がみえはじめているわけです。

中でもスペインの失業率は悪かったのですが、ここへきて着実に改善し始めています。

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この反面、フランスはまだ失業率が悪化しつつあります。今回の欧州議会の選挙で極右勢力などが得票を伸ばした背景にはこのようなフランス経済の不調があります。

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ドイツの失業率は歴史的な低水準です。ドイツはむしろ人手不足の様相を呈しており、熟練工や高度な教育を受けた人材を中心に移民を奨励しています。

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従業員あたり給与伸び率です。

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ドイツの伸びが大きいことがわかります。給与が3%以上伸びているということはいずれインフレ・プレッシャーが他にも波及する可能性があることを示唆しています。特に賃金は一旦あがりはじめるとそのトレンドを覆すのがむずかしく、エネルギーやコモディティ価格より粘着質だと言えます。

ブンデスバンクがさらなる緩和に対して神経質なのはこのためです。一方、失業率がまだ高いスペインではほとんど賃金へのプレッシャーはありません。

雇用が安定しており、賃金のベースアップが毎年確実にあるということはドイツが消費ブームを迎えることを示唆しています。実際、英国ほどではありませんが、ドイツの消費は堅調です。これに対してスペインやイタリアはまだダメです。

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つまり同じヨーロッパでも元気な国とそうでない国があるわけです。ドイツと英国は元気です。スペイン、イタリア、フランスはダメです。

英国では来年第1四半期あたりから金融引き締めを視野に入れているわけですから、ほぼ同じ経済のファンダメンタルズをしているドイツが、ここから一段の緩和をするということに乗り気でないことは容易に理解できると思います。

ドイツの雇用市場はベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一して以来、いまが一番良いです。だから今回のドラギ総裁の一連の緩和措置を、ドイツのブンデスバンクはハラハラしながら見守っているはずです。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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