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精神病棟転換型施設を巡る「現実的議論」なるものの「うさん臭さ」 - 竹端寛

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「事業経営」は患者の声より優先すべき課題?

昨今の社会保障改革の流れの中で、病床削減や在院日数を減らすことを通じた医療費抑制は、大きな政策課題になっている。この大きな流れと照らし合わせると、精神病棟を転換して居住施設とすることで、厚労省は医療費を削減でき、病院側は入院患者を敷地内の福祉施設で収容でき、Win-Winの関係になれる、という構図が見て取れる。

ただ、最大の課題は、そのWin-Winの関係を勝手に構築しているのが、癒着関係にある厚労省と精神科病院経営者であり、入院させられている精神障害者の声に基づいていないどころか反している、という点である。厚労省がこの検討会用に委託した入院患者への実態調査でも、73%もの患者が「退院したい」と望み、「退院後の住まいが病院の敷地内なら」と聞くと、60%の人が「病院の中はいや」「退院した気にならない」などの理由で敷地内を望まなかったという[*9]。つまり、まったく患者の声やニーズに基づかない、勝手な構想なのである。

[*9] 福祉新聞5月19日 http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/3997

この点に関連して、先述の岩上氏だけでなく、同じくこの検討会の委員である毎日新聞論説委員の野沢和弘氏は、次のような発言をしている。

この問題というのは利用者、障害当事者が中心で、障害当事者をいい生活にするための議論ですが、その理想を追求するためには事業経営に踏み込んで考えていくリアリティを持たないと、なかなかそういう理想には近づけないのではないかと思っているのです。

(第7回精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会議事録)

「病床削減」という「理想を追求する」ためには、「事業経営に踏み込んで考えていくリアリティ」が必要不可欠という論理。これは、二通りの解釈が可能である。一つは、精神科病院という事業モデルの限界を示し、病院を縮小・廃業し、職員達も再トレーニングを受け、地域支援の担い手として活躍できるように、ある種の業態変化の支援にまで「踏み込んで考えていくリアリティ」である。

だが先の「不必要となった病床の有効活用」という厚労省の主張を重ね合わせると、もう一つの選択肢が浮かぶ。病床削減とセットで、病院敷地内に、病院関連法人が経営する「居住の場」を作り、患者はそこに「紙の上だけの退院」のための「退院」をさせられる。すると「事業経営」も実質的に脅かさず、「食べていけるような裏付け」が担保されるので、民間病院経営者も納得するのではないか、という「リアリティ」である。

確かに後者だと、経営者は納得する。だが、それは「障害当事者が中心」の議論ではない。「学習性無力感」に陥っている当事者にとって、「希望を取り戻すための退院」ではないのである。この二通りの解釈のどちらを選ぶかで、全く異なる展開になるのだ。

では、どうすればいいか?

こう書くと、必ず受ける反論がある。「そんなの理想論だ。現実を見よ!」「学者は勝手な事を言えるが、現場は霞を食って生きてはいけない」という主張である。「やってもいないものが、口出しするな」という恫喝である。

だが、そういうことを言う人が見ている現実は、「事業経営」の「現実」である。冒頭の比喩で申し上げるなら、ワープロという時代遅れの、古いパラダイムにしがみついて離さない人々の「事業経営」の「現実」である。一方で、私やこの病棟転換型施設構想に反対する人々[*10]が見ている現実とは、このような「事業経営」優先の論理は、時代遅れの生産様式だ、という現実である。患者を収入源にして「事業経営」の維持を引き出す補助金を取る作戦を「時代遅れだ」と喝破するリアリティである。さらに言うなら、一度こういう「有効活用」を認めてしまうと、現在入院中の患者がその施設を使わなくなったあと、今度は認知症の「収容施設」と早変わりする可能性がきわめて大きい。そういう「施設収容」の論理を21世紀になってもの残してはならない、というリアリティである[*11]。

[*10] http://blog.goo.ne.jp/tenkansisetu

[*11] 同じ厚労省が、政務官をトップに据えた局横断の認知症施策検討プロジェクトチームをつくって2012年にまとめた「今後の認知症施策の方向性について」と いう報告書の中では、「『認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない』という考え方を改め、『認知症になっても本人の意思が尊重され、 できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会』の実現を目指している」とはっきり宣言している。http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/dl/houkousei-02.pdf

ワープロ事業者には、再就職トレーニングをほどこし、パソコンが当たり前の現場で働き直してもらう。あるいは、それが無理なら、その業界から撤退してもらう。同じように、民間精神科病院の経営者・職員は、本気で地域支援が展開出来るよう、再トレーニングを受け、仕事のやり方を180度転換する。入院中の精神障害者に「社会復帰トレーニング」を施す前に、まず自分たちが「古い生産様式」に固執しているという事実を認め、地域支援というグローバル・スタンダードに合わせる「社会復帰トレーニング」を受ける。そのためにこそ、国の税金は使われるべきだ[*12]。

[*12] この点については、2011年にまとめた、内閣府の障がい者制度改革推進会議総合福祉部会の「骨格提言」でも具体的な方策が示されている。また、上記の内容については、筆者のブログでも一部、紹介している。「社説が暴露する「病院の論理」」

繰り返し言う。精神科病院という隔離収容された場所で、諦めさせられた生活を続けてきた長期社会的入院患者にとって、病院も、病院内の居住施設も、「強いられた暮らし」の場である事実は変わらない。たとえ敷地内の「居住の場」で、外出の自由が認められ、外部からの自由の訪問が可能であり、プライバシーが尊重されても、「学習性無力感」に陥った人にとっては、「統計数字上の退院」のための「退院」であり、「希望を取り戻すための退院」ではない。利用者の権利擁護を第一に考えるなら、これまで十分稼いでこられた精神科病院経営者の既得権益を守るより、地域で暮らしたい患者の希望こそ、優先すべきである。患者を「事業経営」の「財源」にする「収容ビジネス」には退場を迫らねばならない。

本気で「患者さんの希望を取り戻すための退院」を考えるなら、「事業経営」への踏み込み方を、見誤ってはならない。既得権益者の保護という「現実的議論」なるものの「うさん臭さ」を見抜き、その既得権益保護とは裏腹に、自らの「当たり前に地域で暮らす権利」を奪われた、長期に入院する精神障害者のまっとうな暮らしへの「転換」をこそ、支える必要がある。諸外国では、40年以上前から、どんなに重度の障害がある人でも地域で支える居住支援や地域生活支援が展開されている。日本でも、地域で重度の精神障害者を支える仕組み作りが、各地で展開されている。厚労省も、それらの実践を、よく知っている。ならば、不必要な「病院・施設収容主義」を終わらせ、真っ当な地域支援政策への「転換」にこそ、貴重な消費税財源は投入されるべきである。

私の払っている消費税は、既得権益者保護ではなく、強いられた暮らしからの解放のためにこそ、使われたい。一納税者として、心から願っていることである。

サムネイル「Scratched Blue and Gray Wall Surface」Sherrie Thai

http://www.flickr.com/photos/shaireproductions/5719277410

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