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精神病棟転換型施設を巡る「現実的議論」なるものの「うさん臭さ」 - 竹端寛

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たとえば、ワープロの業界が「私たちが存続できるように消費税を出してほしい」と言ったとしよう。あるいは、ワープロを使って仕事をする人が「私たちの収入を護るために消費税を」と主張したとしよう。それらの主張が聞き入れられ、「ワープロ存続基金」が消費税増税分の補助金から使われる事になったとして、あなたは納得出来るだろうか?

たぶん、大半の方は、一笑に付すだろう。その理由は簡単。ワープロがなくてもパソコンを使えば文章は書けるし、パソコンが世界的に普及しているいま、わざわざワープロに税金を投入して保存するだけの価値が見いだせないからだ。民間企業なら、定年間近のお父さんも、「食べていくために」パソコンの使い方を必死になって覚えた。ワープロを生産していた企業も、パソコンやその他の製品へと製造開発をシフトしないと、倒産した。そこに、国庫補助金が入り込む余地は、当然ない。

ところが、すっかり時代遅れとなった生産様式を続けるために消費税増税の基金900億円の一部を投入しようと厚労省が本気で検討している出来事がある。それが、精神病棟転換型施設構想を巡る問題の本質だ[*1]。

[*1] この問題の歴史的経緯や論点については、杏林大学の長谷川利夫氏の文章を参照。

この「精神病棟転換型施設構想」とは、精神科病院の「不必要になった病床を有効活用」するために改築し、そこを「地域移行施設」などとして提供しよう、という構想である。日本の精神科病院では、長期に社会的に入院している患者が多くて、退院がなかなか進まない。しかも、長期入院患者は、比較的高齢化している。であれば、病院を一部改造して「入所施設」にすれば、長期入院患者にとって「終の棲家」になるではないか。そんな構想である。厚労省は、この構想の実現を目指し、来年度予算への反映を目指して6月中にも議論を終える勢いで、急ピッチで検討を進めている。これが、なぜ「時代遅れの生産様式」なのだろうか? そして、この構想の問題点とは、どんなところだろうか?

時代遅れの生産様式

そもそも、精神障害者「だから」精神科病院に入院する「しかない」というのは、世界的に見てもまったく「時代遅れの生産様式」である[*2]。だが残念ながらこの国では、この「時代遅れのシロモノ」が、未だに幅をきかせている。精神科病床が34万床あまりあり、諸外国に比べて人口比で4倍以上。長期入院患者も、世界で類を見ない多さである。諸外国は、地域での支援体制を充実し、薬物治療の効果的活用も相まって、1970年代からどんどん精神科のベッドを削減している。出来ていないのは、先進国においては日本だけである。

[*2] 日本でも、「病院からは出られない」とラベルを貼られていた人々を地域の中で支え続ける実践(=先駆的な生産様式)が各地で展開されている。例えば『精神障がい者地域包括ケアのすすめ』(高木俊介監修、批評社)を参考。

その最大の理由は何か。それは、精神科病院の9割を占める民間精神科病院の経営者団体である日本精神科病院協会(日精協)と積極的な関与を放棄していた厚労省、日精協から多額の献金を受けてきた政界との、癒着・固着関係がある。他国で精神病床の削減がドラスティックに進んだのは、「入院の必要のない患者に高額な医療費をかけることは、人権侵害であるだけでなく無駄遣いである」というまっとうな発想がある。大半の精神科病院が私立であるベルギーでさえ、保健省のリーダーシップで「病院から地域へ」という改革に乗り出し、成功させている。

これは、知的障害者や身体障害者の入所施設でも同様の傾向である。重度障害者であっても、沢山の支援が必要であっても、隔離収容せずに地域で普通の市民生活が出来るように支援する、というのがグローバル・スタンダードになっている。福祉政策の理念としてしばしば提唱されてきた「ノーマライゼーション」という概念は、障害のある人にもノーマルな(他の者との平等の)社会的環境を提供すること、という意味である。この2月に日本が批准した国連障害者権利条約第19条の中でも、障害者が「特定の生活施設で生活する義務を負わないこと」が明記されている。障害者が精神科病院や入所施設以外での暮らしの選択が出来ないのは、明らかにこの権利条約違反でもある。

だが、日本では精神科病院も、そして入所施設も、いっこうに減らない。背後には、民間の医療法人や社会福祉法人が「既得権益」化して、入院・入所施設を「ドル箱」として維持しようとする姿勢があり、その収容政策に安易に乗ってきた厚労省との癒着・固着関係がある。厚労省は、イタリアやスウェーデン、アメリカなど世界各地での地域移行や入所・入院施設の削減という実態を知っている。それが出来ていないのは日本だけだ、とも知っている。だが、精神科病院や入所施設に強い姿勢でその過去の生産様式からの脱却を迫れない。入院患者や入所者の「声なき声」よりも、政治家との太いパイプをちらつかせながら自らの業界の保護を声高に主張する精神科病院や入所施設の経営者の声を聞き続ける、癒着関係があるからだ[*3]。

[*3] 日本の精神科病院と厚労省の半世紀以上にわたる癒着関係や、精神病院なしで地域支援を当たり前に行っているイタリアの実情などは、『精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本』(大熊一夫著、岩波書店)に具体的に描かれている。

こういう癒着関係が、まさか21世紀日本でも続いている、とは想像したくもない。だが、先日のネット記事を読んでいると。どうやら私の「妄想」ではないらしい。

既得権者の「本音」

先日開かれた厚生労働省の検討会の詳細を報じるウェブニュースの一部を引用してみよう。

<精神病床の削減、どうやって実現?- 厚労省検討会の作業チームで議論>

2014年5月21日 キャリアブレインニュース

厚生労働省の「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」の作業チームが、3回目の会合を開いた。この日の議論では、長期入院している精神障害者を地域社会に戻すためには病床削減が不可欠とする意見が大勢を占めた一方、その実現の難しさを指摘する声も上がった。

(略)

千葉潜委員(青仁会青南病院院長)は、長期入院している精神障害者をグループホームに移行させた場合、赤字経営を強いられる可能性が高いとする試算を紹介。それでもあえて入院患者の地域移行を進める病院は、精神医療の改革を意識した良質な病院であるとし、「そうした病院が病床を減らしても食べていけるような裏付けがなければ、長期入院する精神障害者の地域移行は進まない」と訴えた。

葉梨之紀委員(日本医師会常任理事)も、現行制度では民間の精神科病院が自ら病床を削減するのは、ほぼ不可能に近いとし、「削減を進めるための、なんらかの新たなモデルが必要」と述べた。

民間精神科病院の経営者が、「病院が病床を減らしても食べていけるような裏付けがなければ、長期入院する精神障害者の地域移行は進まない」という。これは、自分の病院に長期入院させている患者を外に出そうとするなら、その「裏付け」=財源保障がないと、「出来ない」という論理である。治療上の理由ではなく、経営上の理由で退院させられない、との本音である。

また、その日精協幹部である民間精神科病院の院長と「お仲間」の医師会委員も「現行制度では民間の精神科病院が自ら病床を削減するのは、ほぼ不可能に近い」と、援護射撃をする。そういえば、1957年から81年まで日本医師会の会長を務めていた武見太郎氏は、「精神科医は牧畜業者だ」と1960年に発言していた。長期の入院患者を「固定資産」と考えれば、その収用ビジネスだけで食べていけるのは「牧畜業者だ」という比喩である[*4]。この比喩は、50年以上経ったいまも、残念ながら「死語」にはなっていない。

[*4] この武見太郎氏の「牧畜業者」発言についても、詳細は先述の大熊一夫氏の著作を参照。

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