記事

「紅の豚」からこれからの時代を考えてみる

世界は新たな時代に向おうとしている。新興国ですら急成長の時代が終わり、各国の成長スピードも鈍化している。経済のグローバル化は、先進国にかつてないほどの繁栄をもたらし、中国などのアジア諸国にいる数億人の貧しい労働者たちには恩恵をもたらしてきたが、グローバル経済を支える確固とした柱は存在しない。それはグローバル経済を支えている制度的基盤が、各国で意志決定できる規制や政治制度よりも脆弱なものであるからだ。多くのひとがグローバル経済でのルールやシステムに疑問をなげかけている。

例えば、金融グローバリゼーションは、起業家の資金調達を助け、投資家のリスク分散に寄与すると信じられてきた。ところがアメリカ全土を包み込んだサブプライム危機では、住宅バブルがはじけ、不動産担保証券の価格が暴落し、バランスシートの相互連関が大きかった世界中の信用市場は干しあがった。ウォール街の企業は集団自殺に向かい、いくつかの企業は倒産、合併に追い込まれた。他の先進国でも政府は大量のベイルアウト(救済)を行なって金融機関を接収した。世界はグローバル経済の制度崩壊という事態を引き起こした複雑に絡み合ったバランスシートにメスをいれるため、ドッド・フランク法やバーゼルⅢといった厳しい規制を作り上げて、グローバリゼーションからローカリゼーションに移行を試みている。

また多くの先進国では大量のベイルアウトのツケにより、財政負担が重くのしかかっている。これに伴う緊縮財政や厳格な規制の影響により、市場は大きく縮小し、停滞と不安が人々の生活に蔓延した。各国の中央銀行は、幅広い金融緩和を実施し、市場に恩恵をあたえ、長期的な経済停滞を避けようと必死だ。日本では財政規律にようやく舵取りをはじめ、今年の4月から消費税率を5%から8%へ引き上げた。こうした各国の情勢や市場の反応により、新たな時代に突入していくことは間違いないだろう。

「紅の豚」は、世界恐慌のイタリア・アドリア海を舞台に、飛行艇を乗り回す空賊とそれを相手に賞金稼ぎで生計をたてるブタの姿をした退役軍人の操縦士の恋とロマンを描いた物語だ。第一次世界大戦後の動乱の時代に生き、夢を追い求める男たちの暑苦しくもあり、懸命な姿勢で境遇に立ち向かう生き様を見事に描いている。

第一次世界大戦において、イタリアは戦勝国となったが、「未回収のイタリア」と呼ばれたトリエステ地方とチロル地方を宿敵旧オーストリア・ハンガリー帝国から得たに過ぎず、莫大な軍事的負担は、戦後のイタリア経済に重くのしかかり、国民生活を逼迫させることになった。このような戦勝国にもかかわらず、得るものが少なかった事に対する国民の不満から、ファシズムが台頭し、さらには世界恐慌によってイタリア国内は破綻寸前の荒廃と混沌に追い込まれることになったのだ。この映画はまさにそうした時代背景が舞台となっている。

あらすじをここで語る必要はないかもしれないけれど、少し話しておくと、賞金稼ぎを生業とする飛行艇乗りポルコは、以前から対立関係にあった空賊・マンマユート団に襲われたバカンスツアーの女学校の生徒達を助けるところから物語ははじまる。その夜、幼馴染のジーナが経営するホテルアドリアーノへ出かけたポルコは、そこでカーチスという、空賊連合が用心棒として雇った、稀有な飛行艇技術を有するアメリカ人と出会うのだ。たいていの青春映画は恋敵となるライバルと美女がでてくるわけだから、まあそういう流れですな。

数日後、飛行艇の整備のためにミラノに向って飛んだポルコは、飛行途中でカーチスに遭遇し、離脱を試みるものの、格闘戦中エンジンが停止し、撃墜されてしまう。まず主人公が手痛いめにあうのも、まあ一般的といえば一般的ですな。辛くも一命を取りとめたポルコは、大破した愛機とともに、馴染みのピッコロ社に修理を依頼しにいく。そこで世界恐慌のあおりからか、男たちが出稼ぎにでて、人手不足に陥っていたピッコロ社で設計担当の少女フィオに出会うのだ。はい、ここでようやくヒロイン登場と。ヒロインが二人いる物語は珍しいと思うけれど、非常に「綺麗」に描いている。さてこの少女が美しく、気が強く、純粋で、真っ直ぐで、もう褒める言葉がつきないほどに世の男性の求めるものを全てもっていそうな、それはまた素晴らしい少女なわけだけど、物語から離れていくので泣く泣く先に進もう。やれやれ。

さてそのフィオの類稀な才能と努力により見事に復活した深紅の飛行艇とともにポルコは、アドリア海の飛行艇乗りの名誉をかけて、カーチスに再戦を挑むのだ。これが泣かせるわけだけど、ひょんなところからフィオ嬢が賭け事の対象にされてしまい、ポルコは名誉ばかりかフィオ嬢まで守るために戦うことになるのだ。まあ当然というか、仕方ないというか、その戦いにマルコが勝利してめでたし、めでたしで物語は終わる。まあぶっちゃけフィオ嬢が賭け事の対象になっていなかったら負けていたんだろうけれど、そこは言わずが花ですな。

時代の過渡期というのは、個人の意志が人生を大きく左右する。それはルールやシステムが作りかえられるまさにその時にたっているから、キャリアのアービトラージが見えにくくなっているからだ。昔であれば、それが大企業であったり、公務員を目指すことであったのであろうし、10数年前であれば、外資系企業であったのかもしれない。この数年はルールやシステムが確立しておらず、グローバリゼーションの影響もあって、仕組みや規則が急激に変化したり、陳腐化していく。それがSNSツールを世に送り出したIT産業であったのだろうし、現在誕生しようとしている「何か」なのかもしれない。

成功を目指してビッグウェーブを誰よりも先に見つけて乗りこなしてみても、すぐに消滅してしまうのであれば、何の楽しみもない-つまり収益機会がすぐに喪失してしまうのであれば、人生をベットしてもその代償は計り知れない。ポルコ・ロッソは、かつてイタリア空軍の大尉でエースパイロットであったから、まさに権限、名誉、カネをほしいままにできる、時代の頂上にいるキャリアを形成していた。だけど軍人社会に嫌気がさしたのか、時代の大きなうねりを感じたのか、それは定かではないけれど、とにかく彼は賞金稼ぎになったのだ。賞金稼ぎはまさに個人の力量に大きく依存され、ともすればすべてを失いかねない状況で、自分の能力にベットしたのだ。でもこの時代の国家は脆弱で、ルールを作る組織そのものが崩壊しかねない状況において、彼の選択は実に勇気のいるものだったに違いない。ただ逆にいえば、国家や時代が安定してしまえば、賞金稼ぎという職業は廃れ、消滅する可能性すら大いにあるわけで、そうなってしまったら、ポリシーもへったくれもなく、国家に雇われ、名誉も約束されるだけでなく、永続的に給与が発生する軍人を選択したほうがいいにきまっている。

ぼくらの時代も個人の選択がポルコほどではないにしても、人生を決定づける可能性を秘めている。いつ帰属する組織が合併や買収、はたまた海外移転するか分からないし、選択した業界自体に対して、何らかのルールが設定されたり、変更されて、退廃してしまうかわからない。でも過渡期で見出したアービトラージを掴むことができれば、アジトの無人島でワインを飲みながらラジオで音楽を聞き、ジーナ、フィオといった素晴らしい女性から好意をよせてもらうことも夢ではないし、「戦争じゃないから殺しはしない」のように、男のポリシーを貫き通すセクシーな人生を過ごせるかもだ。そうはいっても「飛べないブタはただのブタ」だから、なかなか大変なわけだけど。ぼくもはやく飛びたいよ…トホホ

参考文献

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道 画像を見る
劣化国家 画像を見る
グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界 (単行本) 画像を見る
紅の豚 [DVD] 画像を見る

あわせて読みたい

「グローバル化」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ホロコースト揶揄を報告した防衛副大臣に呆れ 政府のガバナンスは完全崩壊か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月23日 10:46

  2. 2

    天皇陛下の開会宣言に着席したまま…菅首相に「不敬にも程がある」と非難の声

    SmartFLASH

    07月24日 08:58

  3. 3

    バッハ会長“長過ぎスピーチ”で…テレビが映さなかった「たまらずゴロ寝」選手続々

    SmartFLASH

    07月24日 09:20

  4. 4

    橋本会長、「選手のプレイブック違反」証拠をお見せします 出場資格を取り消せますか

    田中龍作

    07月23日 08:33

  5. 5

    天皇陛下と同列?五輪開会式でのバッハ会長の振る舞いに違和感続出

    女性自身

    07月24日 11:55

  6. 6

    感染爆発は起こらないことが閣議決定されました

    LM-7

    07月23日 22:45

  7. 7

    自民党で相次ぐ世襲の新人候補者 3つの弊害を指摘

    山内康一

    07月24日 09:24

  8. 8

    前例を覆した開会宣言 政府の緊急事態宣言よりも感じる「重み」

    階猛

    07月24日 10:39

  9. 9

    五輪めぐる批判と応援 「矛盾」と切り捨てる必要はない

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月24日 09:00

  10. 10

    不祥事続く東京五輪 大会理念を理解せず、市民の生活を軽視した組織委員会

    森山たつを / もりぞお

    07月23日 10:25

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。