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「脱原発訴訟」の原告団が連携する意義 - 小石勝朗

脱原発派の方々は気を悪くするかもしれないけれど、「脱原発」を叫ぶだけでは原発はなくならない。実効性のある方法に依らなければ、原発を推進する勢力に大きな打撃を与えられないことは、3・11後の経緯を見れば明らかだ。

 私自身は、再生可能エネルギーの普及を草の根から進めたり、原発の地元の事情や気持ちを汲みながら地域の構造を変えていったりすることがそれにあたると考えて、できることに取り組んできた。

 それ以上の切り札となるのが「訴訟」である。原発の運転差し止めや設置許可の無効確認といった訴えが裁判所で認められれば、強制力を伴うからだ。選挙やデモ、署名が大事であるにしたって、どんな成果が上がるかは不透明。それに引き換え、勝訴判決が確定すれば、はるかに効力のある果実を獲得できるのだ。

 たしかに3・11前に勝訴したのは志賀原発(石川県)の1件だけで、それも上級審で覆された。しかし、3・11後は裁判所の風向きも変わってきたという。いくつもの原発訴訟に携わってきた河合弘之弁護士によると、「3・11前は目も合わせなかった裁判官が、1対1の場で『先生の言う通りになっちゃいましたね』なんて声をかけてきた」そうだ。

 そして実際、大飯原発(福井県)の運転差し止めを命じる判決が5月21日に福井地裁で出た。この勢いを生かさない手はない、ということになるだろう。

 そんなタイミングで、原発の運転差し止め訴訟を起こしている全国各地の原告団が、横断的な組織となる「脱原発原告団全国連絡会」を発足させることになり、6月2日に東京で記者会見を開いた。呼びかけたのは、泊(北海道)、東海第2(茨城県)、玄海(佐賀県)の原発訴訟原告団の代表・団長。実際は4月から準備を進めていたそうだが、結果的にインパクトがある時期の発表になった。

 全国に15ある原発(福島を除く)のうち東通(青森県)、女川(宮城県)以外の各原発で、運転差し止めを求めて周辺住民による集団訴訟が起こされている(仮処分申請を含む)。女川も提訴の準備中だ。現段階で、そのうち10前後の原告団が連絡会へ参加の意思を示しているそうだ。原告の人数を足すと3万人を超えるという。ちなみに、3・11時点で係争していた訴訟は、建設中の大間(青森県)、浜岡(静岡県)と島根の3つだけだった。

 連絡会の活動の柱は「連帯」と「情報・教訓の共有」だ。

 「連帯」では、たとえば7月に予定されている川内原発(鹿児島県)の再稼働反対集会に、各地の原告団が参加するといったことを想定している。一緒に行動する機会が増えれば、情報交換の場も増えることになる。10月をめどに、東京で連絡会の全国集会を開く計画もある。ローカルなテーマになりがちな各地の訴訟を、全国的にアピールする狙いだ。

 記者会見に先立ち、呼びかけ人が中心になって原子力規制庁と規制委員会に申し入れをしたのも、活動のモデルになりそうだ。大飯原発の運転差し止め判決を受けて、適合性審査のあり方を根本的に見直すよう求めるなどの内容だった。規制庁の回答は「我々が当事者でない訴訟なので(筆者注:被告は関西電力)、コメントする立場にない」だったが、参加する原告団が増えれば要望や申し入れの内容に厚みが出るだろうし、行政への説得力も増していくだろう。

 これまで原告団の横断的な組織ができなかったのは、自分たちの訴訟や運動に精一杯で、とても他の団体との連携にまで手が回らないという事情があった。前出の河合弁護士は「タコツボ」と表現していたが、主張の中身を深め、幅広い視点で裁判や運動の戦略を練るには、そこから抜け出して他の原告団のやり方を知り、良い点を採り入れることが早道に違いない。

 呼びかけ人の1人、玄海原発訴訟原告団の蔦川正義さんは、1980年ごろ同原発の増設に反対して佐賀県庁を訪ねた際に「原発で放射能が漏れるような事故を想定しているとは」とバカにしたような対応を取られたことを述懐しつつ、「脱原発は今や国民的・世界的な課題なので広大な力を結集したい。少ない人数でも創意工夫する方法を、学びあい広めあいたい」と結成の狙いを話した。

 また、ルポライターの鎌田慧さんはこれまでの原発訴訟を振り返り、被告の電力会社は電事連を通して手法を共有していたのに対して、「原告団は個別にやって負けてきた」と分析。「知識の集積、教訓の共有、連帯が足りなかった。大飯原発の判決も出たことだし、運動の密度を詰めて強いものにしていかなければならない」と激励していた。

 記者会見には、運転差し止め訴訟の原告団だけでなく、東京電力の現・元取締役27人に5兆5045億円を個人で賠償するよう求めている「東電株主代表訴訟」、福島県民が中心になって東電や行政の幹部らを刑事告訴した「福島原発告訴団」、福島第1原発の原子炉メーカー3社の責任を問うている「原発メーカー訴訟」の代表らも同席。「脱原発の思いは同じ」「原発を動かさないのは事故で被害を受けた者の悲願」と賛意を表明した。連絡会には、これらの団体も参加するという。

 原発訴訟にかかわる弁護士は「脱原発弁護団全国連絡会」を2011年7月に設立していて、約300人が参加している。各地の訴訟の弁護団が培ってきた専門的な知見、裁判の書類や拠の資料を集約し、共有できるようにするのが大きな目的だ。今後の訴訟にあたっては、これに各地の独自の事情や実情を付加すれば良いので、省力化できる。専門家に証言や助言を依頼する際にも、共通する部分は共有することで、専門家の負担軽減にもつなげる狙いがある。

 弁護団連絡会の共同代表を務める河合弁護士は「成果の第一弾が、先日の大飯原発訴訟。若手弁護士が頑張ったし、目が覚めた裁判官に当たった」と意義を強調した。

 原告団の連絡会ができれば、弁護団の連絡会と併せて、訴訟の「両輪」が全国規模でそれぞれ組織化される。理論面では弁護団どうしが連携し、訴訟を通じた運動の面では原告団が相互に助けあったり情報を交換したりしながら、裁判に向き合っていくことになる。裁判所も、これまで以上に気を抜いた判決は出せなくなりそうだ。

 河合弁護士は、各訴訟の原告団がパワーアップする意義をこうも解説していた。

 「デモや署名は、飽きたら動きが止まってしまう可能性があるが、裁判は始まったら判決が出るまでやらなければならない。だから、各地の原告団は脱原発運動の中核となり得る。他の団体も糾合して、さらに大きな闘いの輪を広げていける」

 たしかに、脱原発がテーマの訴訟で中心になっている方々と接すると、腹が据わっていて主張にブレがないと感じることが多い。裁判という逃げられない場に自らを追い込んでいるがゆえの強さなのかもしれない。

 原発の再稼働に現実味が帯びる今、脱原発運動は立て直しを迫られていると思う。各地で原発訴訟の原告団が力を増し、さらに全国を結んで連携を深めていければ、今後の脱原発運動に新たな展開をもたらすだろう。

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