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その傷のブルースを見せてくれ――写真家・齋藤陽道のまなざし - 荒井裕樹×齋藤陽道

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「わかる」と「わからない」の間

荒井 齋藤さんのカメラってフィルムですよね? フィルムだとデジカメと違って失敗の確率も高いだろうし、コストもかかって大変だと思います。

齋藤 はい、フィルム高いですねえ。いやんなります。仕事でフィルムを使えることもあんまりないし。とんでもない写真をどんどん撮るから、フィルムのスポンサーにだれかなっておくれと思う。荒井さん1本からお願いします(笑)。

荒井 それで「齋藤陽道のスポンサー」を名乗れるならよろこんで(笑) そういえば以前、「フィルムは失敗するから良いんです」って言っていましたね。それが面白かったです。ちなみに、齋藤さんのなかで失敗と成功の違いってなんですか?

齋藤 うーん。失敗か……。綺麗に……小奇麗に撮れすぎたら失敗だなって思うときがあるくらい。

ああ、失敗写真で印象的なことがありました。「感動」の裏表紙の写真は失敗といえるものでした。あれは自分の意図で撮ったものではないんです。カメラに慣れていないときに、間違えて押して撮れたもの。ネガをみて、「あーあ、フィルム無駄にしちゃった。90円とんじゃった!」って思った。でもなにかの予感があってすておけないまま、しばらく置いておいたのですが、日にちがたって、ふと調整したとき急にあの色が表れて「うわあ」って思った。世界がひらけたんです。自分を越えてやってきた写真です。しょぼい自分を打ち壊して、なおかつ昇華してくれる写真は、失敗の中にありますね。「絶対」のフレアも同じ直感から得ました。

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荒井 「写真のしもべ」みたいですね。カメラマンって写真を完璧にコントロールできる人ってイメージがあったけど、齋藤さんは随分違いますね。

齋藤 ぼくは写真をコントロールして撮っているという意識がなかなかもてません……。もしあったら自信もって営業しまくっていて、もっと仕事があると思う(笑)。

荒井 そっか(笑)。ちなみに、齋藤さんが写真を撮るときに一番大切にしている要素ってなんですか?

齋藤 「あそび」ですね。「ゆらぎ」かも。

荒井 ゆらぎ?

齋藤 「わかる」と「わからない」の間を揺れながら撮る緊張感かな。

「わかった」と思って撮った写真はないんです。かといって、「わからない」と思っていたらずっと撮れるわけもなくて。わからないけれどわかった!という時に撮っている写真が多いんですね。

ちなみにぼくは眼の欲望と、頭の欲望は別々のものと思っています。まず衝動として「眼が喜ぶ」ものに向けて撮っています。次に「頭はわからない」というものをセレクトしますね。頭はわからないほうが喜ぶというへんなやつだから。眼はわかりやすければわかりやすいほど喜ぶ……。その、眼と頭、わかるとわからないのあいだを揺れながら撮ることを意識しています。

善意のなれのはての亡霊

荒井 あと「感動」という言葉について聞きたかった。なぜ写真集のタイトルが「感動」なんですか?

齋藤 ぼくも謎だらけです、いまだに。最初は『同類』でいきたいと考えていたのですが、3.11のあとに、小賢しいなって思う様になりました。3月11日の地震が起きたときは、写真集『感動』刊行にむけて家で写真のプリントをしていたんです。震災を経て、そこから誰しもが抱えているもの、それでも動こうとする力の源となるものってなんだろうなと考えたことが「感動」というタイトルを決めた手がかりになりました。

さっきのお話にもありましたが、マイノリティの皮をかぶったマジョリティのスタンスで「同類」と言ってしまうのは違うだろうという懸念はもともと持っていました。もっとふつうにそこらでみんなが感じているものがいいなと。アートをやる、じゃなく、写真をやるでもなく、たまたまそのときに使っていた写真という方法で、いろいろなことがあっても次へつないでいくちから……生きのびるためのちからの源を知りたくなったんです。

マイノリティの皮をかぶったマジョリティ……これ長いですね。略するとなんだろう、マイ皮マジかな。マイ皮マジ……。ふふふ……。えーと、マイ皮マジの言動というのは、敵対するものをとにかく黙らせるためのものだと思っています。

荒井 マイ皮マジ……(笑)。

齋藤 「被害者の気持ちを考えろ」というような、一見非の打ち所がなくて、でもその実、その人がどういうふうに感じたのかがわからない言動ってありますよね。匿名的な、対話の始まらない意見。「障害があるのに、すごい」もおんなじ類ですね。

障害に関する事柄が一般的に論じられるとき、そういうマイ皮マジの意見が本当に多いなと思う。ぼくはそれをずっと意識しています。このマイ皮マジの気持ちはやっぱりぼく自身にも同じようにあって、そこがまたむつかしい。明らかな敵がいるわけではなく、誠意や善意、熱意のなれのはての亡霊のようなものにたちむかうには、やっぱり自分自身の足下を、自分の源を見つめなおすことが必要だと思ったんです。

ぼくが写真を撮ろうとする気持ちの底にあるものはなんだろう? 生きのびようとする気持ちを諦めさせないものってなんだろう? そのふたつが絡まりあっていたんです。このことをずっと考えていて、ぽろんと落ちてきたのが「感動」だった。「感動」という言葉は、本当は胸に潜めておく言葉で、外に出すものでもないよなとも思うのですが、でも、でも、いまここでこの言葉を打ち立てていって、そうして洗い直さないとどうしようもないとも思った。だから、そうしました。

「感動」ってタイトルについてはよく聞かれていて、その都度、そのときに感じていることを言っているから内容がバラバラで、自分でも困っているんです。面白いなとも思う。「感動」というわけのわからない強いエネルギーを信じなおしたいという願いもこめて、未来のいつかの何かにむけて投げたものなので…まだわからないことがたくさんです。

荒井 齋藤さんって、常に自分のことを主語にして語ってくれますよね。そこが面白いんですけど、それ以上に「きちんと話し合っている手ごたえ」が感じられて嬉しいです。それで、いま話してくれた「感動」なんですけど、その衝動を意識したきっかけって何かあったんですか?

齋藤 ぼくの場合、高校で手話にであって「おはよう」というあいさつが普通に言える、伝わるということに毎日魂が震えるくらいうれしかったんですね。これでまだもうちょっと生きのびられる、とほんとに思った。その生きのびられる、という気持ちの底にあるかたちにふさわしい言葉というのは……感動だな、と。誰かに押し付けられた「感動」でもなく、自分自身の心身から出てきたものを「感動」と位置づけることができたらそれはかなり心強いなと。

だからこそ、それくらい強い言葉だから、見極める能力も同時に必要だなあとも思った。うそっぱちの借り物の感動という言葉と、自分自身の生きのびる力の感動をごっちゃにしてしまうと、やはり多勢に無勢で、数多く使われているほうにイメージを押しつけられてしまいますね。そこに勝ち目はないとぼくは思っています。そうして、自分の感動が見えづらくなってしまう……。その循環から逃れるには自分にとっての感動を一度ちゃんと見極められるようにならないと……と、自分がそう思ったので、このタイトルは徹底して自分のためのものです。

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荒井 先日、フォトジャーナリストの佐藤慧さんと安田菜津紀さんと鼎談させてもらったんですけど(注:「3.11後の「表現すること」の戸惑い 荒井裕樹×佐藤慧×安田菜津紀」)、それを読んでくれた現代アーティストの椛田ちひろさんが「写真家は描くべき世界が自分の外にあるんですね」という感想を送ってくれて、とてもハッとさせられました。いま齋藤さんの話を聞きながら、そのことを思い出していました。

自分が生きのびられたのはなぜか。自分を生きのびさせたものは何か。わが身の底から湧き上がってきた衝動の源泉を探し求めて、齋藤さんは「自分の外」の世界を撮り続けている。そこがすごく面白い。齋藤さんには慣れない筆談で負担をかけていると思いますけど、こうして言葉を積み重ねていくと、齋藤さん特有の言葉の表現「絶対」「感動」「せかい探し」というのも、全然意味はわからないけど、たどり着きたい世界のイメージは「わかってしまう」ような気がするから不思議です(笑)。

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