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日本のメディアはどうなってしまうのか

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元電通で、その後サイバーコミュニケーションのCEOもつとめた、長澤秀行氏編著の『メディアの苦悩 28人の証言』*1を興味深く読んだ。内容も面白いが、この本の帯に書かれたコピーもふるっている。

『もう、メディアは何をやってもダメなのか?』

だが、これは少々言い過ぎだ。先行き不透明な環境下で苦闘するのはどのメディアでも同じだが、少なくとも現時点での相対的な勝ち組はいる。たとえば・・

Yahoo!
ジャパン

ニコニコ動画

日経新聞


朝日新聞


テレビ

ネットメディアでは、Yahoo!ジャパンが徹底した『品質管理』による信頼感を訴求することによって、ニュースメディアとして非常に大きなプレゼンスを誇っているし、つい最近、ニコニコ超会議3を大盛況のうちに終えた、ドワンゴのニコニコ動画もその存在感は揺るぎなく見える。その他にも、ニュースアグリゲーションサービスに分類される、『Gunosy』や『Smartnews』等は使い勝手もよく、多くのユーザーを集めてはいる。しかしながら、ネット系メディアは、マネタイズの成立性という点で見ても、まだ評価が完全には定まらないサービスが多い。特に、報道メディアとしてのネットメディアは、ノイズもあるが、自浄作用もあると言われて来たものだが、ここのところ、ノイズの方が一層大きくなって、炎上マーケティングやら扇情的なゴシップやらばかりが幅をきかしている印象が強い。

一方、このままでは『消滅』とまで言われた旧来のメディアだが、総じてそのコンテンツのクオリティの高さが見直されてきている印象がある。紙と併用して、有料電子版を出した日経新聞は、4000円/月という非常に高額な値段設定もあって、当初非常に危惧されたものだが、結果的には順調に会員数を伸ばし、2014年1月時点で、33.5万人に達したというからたいしたものだ。朝日新聞も、日経新聞とまでとはいわないまでも、有料の電子版の会員が最近16万人を超えた模様で、上々の結果というべきだろう。テレビも、特に2013年は『半沢直樹』『あまちゃん』のようなテレビドラマに代表されるように、トレンドセッターの地位を取り戻した感がある。もちろん、新聞の購読者は減り続け、テレビも若年層を中心に、テレビ離れが進むなど、将来に向けて厳しい状態が続くことに変わりはないが、本書のインタビューを読んでも、関係者はある程度自信を取り戻して来ている印象がある。

■潮目の変化

この数年、どちらかと言えば、ネット系の新メディアが旧来のメディアを圧倒するという構図だったのが、昨年あたりから潮目が変わり始めている。一体この変化はなぜ、どのようにして起きてきたのか。そしてこれからどうなっていくのか。私の知る限りこれまであまり納得のいく説明が示されていない印象がある。どうやら、2000年代後半以降の時代を説明してきた言説が、説明能力を失い始めている

■対照的な著書

今を遡ること、5年前の2009年、非常に印象的なタイトルの本が相次いで世に出て来た。ジャーナリストの佐々木俊尚氏の、『2011年新聞・テレビ消滅』*2と元博報堂でネットニュース編集者の中川淳一郎氏の『ウェブはバカと暇人のもの~現場からのネット敗北宣言』*3だ。

佐々木氏は、ネット系のメディアのポテンシャルをどちらかというとポジティブに評価し、逆に既存のメディアの行き詰まりを重く見て、消滅は言い過ぎでも、既存の大手メディアの一つや二つは飛んでしまうくらいの状況が起きてくる事を予言した。一方の中川氏は、自身ネットサービスの内側にいながら、ネット内は『バカ』と『暇人』ばかりでどうしようもない、というあからさまな現実を喝破する。

当時(2009年頃)は、2006~2007年あたりから続々と誕生/台頭してきた、現在のネットの環境を支える主要なテクノロジーやサービス(FacebookやTwitter等の台頭、スマホの登場、ニコニコ動画の誕生、クラウド・コンピューティングの台頭等)が成熟期を迎えつつあり、ネットに対する期待感が最も盛り上がっていた時期とも言える。

■震災でプレゼンスを高めたネットメディア

そして、2011年3月の東日本大震災が起きる。

この震災を契機に、既存のマスメディアの弱点や問題点が一気に露呈する。既存のメディアは、速報性や地域毎のきめ細やかさにおいて、Twitter等のネットメディアに劣り、しかも、原発事故を起こした東京電力から長年巨額の宣伝費を受け取っていたことが暴露されると、報道の偏向も取り沙汰されるようになり、長年培われてきた信頼も地に落ちてしまった。だから、この時点では、佐々木氏に軍配があがったとの印象が強かった。ノイズも多いが、自浄作用も早いネットメディアが社会にインフラとして認知されつつあるという印象は確かにあった。

既存メディアの中では、相対的には勝ち組であったはずのNHKでさえ、若手アナウンサーのホープともいえた、堀潤氏が原発報道等をめぐる組織内部の硬直性に辟易してNHKを離脱し(「伝えたいのに、すべてを伝えることができない。テレビという制限されたメディアの中でニュースを伝えることに限界を感じていた』:堀氏談)、市民の声を反映させるメディアを立ち上げる*4というようなことも起きた。ネット選挙解禁が遡上に上がっていたこともあり、ネット系メディアが既存メディアを凌駕する時代が本当に来るのでは、という期待に時代は浮かれていた。

■大きすぎるノイジーマイノリティの声

だが、その後、ネット選挙は解禁されたものの、ほとんど目に見える成果を上げることなく、ふと気がつくと、ネットはノイジーマイノリティの声が大きすぎて、本来はマジョリティのはずの善意の声がかき消されてしまうようになった。少なくともそのような善意の第三者の声が集約されるような仕組みが日本にはまだ出来上がってきていないことを思い知らされることになった。『メディアの苦悩』でも、ネットの未成熟を嘆く声がすごく多い。やはりネットの大多数は中川氏の言うように、どうしようもない『バカ』ばっかりなのか。

■東浩紀氏の冷静な見解

私見では、『メディアの苦悩 28人の証言』の28人中、最も冷静に現状を分析している一人が、思想家の東浩紀氏だと思う。東氏は、ネットは人々の感情的な動きを可視化する装置に過ぎず、人々が今何を感じているのかということはそのまま可視化されるが、そこで議論を戦わせたり、何かを啓蒙したりするものではない、とネットに手厳しい。

新聞やテレビしかなかった時代は、人間でいうと『上半身』しか見なくてよかった。『今、日本人はこういうことを考えています』『今、社会ではこういうことが問題です』という、きれいに言語化された世界です。ところが、ネットが出てきたことで『下半身』が見え始めてきた。(中略)たとえば、ナショナリズム的な言説、排他的な言説のように、これまで人々が感じていても言葉にしなかったことが、ネットによって言葉にされるようになった。

 ただ、これは決して右傾化だとか、人々がバカになったということではない。元々持っていた感情が、可視化されただけなんです。世界の『上半身』だけではなく『下半身』も見えるようになった。自分たちが持っている醜くておろかな欲望が、すべて可視化されるようになった世界です。こういう『下半身』が見える世界に、いかに向き合うのかが問われているんだと思います。 

同掲書 P200~201

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